私の男
氷華は今日も元気にインターンに励むはずだった。そう、はずだった……。
「仮免補講の観覧ですか?」
「そうだ。俺は焦凍の様子を見に行く。おまえは今日は
瞳が、瞳が輝いていた。エンデヴァーは思わず言葉を詰まらせる。
雪の結晶がそれはもうキラキラと反射して眩しい。エンデヴァーは察しがいいのでそうだな、と考えると。
「おまえも来なさい、違う角度から物を見れば新たな閃きを得ることもあるだろう」
「ありがとうございます、エンデヴァー!」
これはエンデヴァーからの密かなご褒美だった。スパルタなインターン指導にもよくついてきている氷華への密かなご褒美。いい上司なのである、上司としては。うん、父親としてはちょっとあれだけど。
「焦凍ォオオオ!!! おまえはこんなところで躓くような人間じゃない! 格の違いを見せつけるのだァア!!」
燃え盛るエンデヴァーの隣にひょこっと顔を出し、ちらちらと辺りを見渡して爆豪を見つけると、氷華はそれはそれは輝いた笑顔で手を振った。
爆豪と轟は誰に対して手を振っているのか理解していたが、よくわかってない補講者たちは自分に向けられていると勘違いしたり、体育祭と職場体験、インターンですでにフォロワーとファンを獲得している氷華に対し、「白雪氷華だー!」とアイドルと会ったかのように興奮していた。
「相変わらずすげぇな白雪。いいのかあれほっといて。おまえに向けてんだろ」
「(なんであいつがここにいんだよォオオ)知るかほっとけっ!」
「無視はよくねェ、かわいそうだから俺が代わりに振っとくか……」
「いやなんでだ!!」
爆豪から反応がないのは予想していたが、轟が振り返してきたことに一瞬驚くも、すぐににこやかに返す。その様子を見てエンデヴァーが職場体験のときといい、焦凍、まさか白雪に気があるのか……? などと勘違いしていたなど知らない。安直すぎやしないか。
「わぁ……! 素敵素敵!」
間瀬垣小学校の児童の心を掌握する試練を得た爆豪たちは、紆余曲折ながらも個性を使って夜空に輝くオーロラが幻想的な、児童たちの個性をこめた氷の滑り台を作って見せた。
あんなに凶暴だった児童たちが心を開いている、素敵な個性の使い方だ。爆豪たちの姿は正しくヒーローだった。
「白雪、心を掌握することはとても大事なことだ。おまえの個性ならそれが意図的にできるはずだ」
「意図的に……心を掌握?」
「雪女とは魅せる生き物だ。魅入らせる、虜にする、言い方は様々だが……あの現見ケミィ、おまえが参考にすべきは彼女かもな」
それはもう答えだった。氷華は先ほど現見が轟の幻を出したことを思い出す。
轟の姿で魅せたそれは簡単に女の子の心を掌握した。魅せ方をよく知っている人だ、現見と話がしてみたいと感じた氷華はすぐに行動に出た。でたのだが……タイミングが悪かった。
「つか爆豪って黙ってればソコソコ良さ気? 黙ってみてーー」
「黙ってろ」
悪すぎた。氷華は自分の周りでブリザードが吹いているのを感じていた。わかっているが抑えられそうにない。
すっと眼光が鋭くなるのを感じる、現見に対してよくない顔をしているのは理解していたがどうにもならなかった。
「え? 白雪氷華? やっば本人激マブなんですけどー、マジ眼福国宝ー! ってなんか激おこぷんぷん丸?」
「お、推薦で一緒だった白雪だ! 今日も彼女は綺麗だな! うん、でも綺麗だがなんか怖いな、うん!」
肝っ玉が太い、なんだ士傑ハートが強いぞ。ブリザードを直で浴びているはずの現見は暢気なものだったし、夜嵐は陽気だった。
氷華はつかつかと歩み寄ると、爆豪の腕をつかんで引き寄せる。「あ、おいっ!!」人目を憚らず、むしろ見せつけるように頬にキスをした。
「この
「誰がおまえのだ……勝手なこと、抜かしてんじゃねェ……!」
「えーまじ大胆! 爆豪国宝の彼女いるとかやばたん意外なんですけどー! ってこれ勘違いしてるパティーン? 白雪氷華でも嫉妬するとかマジ驚嘆」
今まで爆豪によって来る女なんていなかったので氷華はどこかで安心していた。アプローチだけは続けているし、なにせ公認彼女面である。氷華を差し置いて爆豪にアクションを起こす猛者などいなかったのだ。
けれど現れてしまった。爆豪をイイと思ってしまう人が。氷華は自分の男を取られまいと本能的に動いていた。そう、雪女の習性である。
変わらずブリザードが吹き荒れているし、妙にぐったりとした爆豪を掴んで離さない氷華にさすがに落ち着くように轟が声をかけようとした。
「おい白雪……少し落ち――」
「ハハハハハッ!! いいぞ白雪! なんだ、やればできるじゃないか!!」
エンデヴァーの上機嫌な声があたりに響き渡る。エンデヴァーが自身から燃え盛る炎で氷華のブリザードを収める。胡乱な表情で見てくる氷華にもエンデヴァーは上機嫌だった。
「それでこそ雪女だ。雪女の嫉妬は恐ろしいからな。いいきっかけになったようで何よりだ。爆豪だったか……雪女に見初められたのなら諦めることだ。浮気をすればそのように精気を吸いつくされるぞ」
「……誰が浮気だクソ……勝手に早とちりしやがって……このバカ、覚えて……ろよ……!」
次第に氷華が正気に戻っていく。爆豪の身体が妙に冷たかったのだ。はっとしたように慌てだす氷華にもう爆豪は怒る元気もなかった。雄英のバスに一緒に乗って帰る間、氷華は甲斐甲斐しく爆豪の世話を焼いた。だが今回ばかりは氷華の世話より轟の炎の方が100倍役に立った。当然である。
誤解が加速した事件だったが、この雪女事件は氷華の成長に大きな影響を与えることとなった。
余談だが氷華の気持ちが爆豪にあると理解したエンデヴァーは、妙に轟を気遣ってきたそうな。当然うざがられた。轟親子の関係修復はまだ遠い。
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