あなたの熱がいちばん
「爆豪くん今から? よかった間に合った〜!」
ギリギリであった。移動している最中の爆豪と会えた氷華は「がんばってね、応援してるね」と無邪気に笑っている。B組の勝利もちゃんと祈っているし応援しているがこれはまた別なのだ。
爆豪は無言でじっと氷華の燃えて剝き出しになった右腕と、一緒に戻ってきたであろう轟をちらっとみて、最後に氷華の顔を凝視すると、ものすごい力で氷華の唇を何度も何度も拭ってきた。
「んんん〜!」
「……よし」
可哀そうに赤くなっている。それにようやく満足したのかスタスタと移動していってしまった。慌てて残りのメンバーもついていくが、去り際に耳郎が「なんだ、あんたたちやっぱ上手くいってんだね。よかったじゃん!」と笑った。氷華は数秒遅れて理解すると、爆豪がもしかしなくても飯田の精気を吸収したことをよく思ってないのに気付いて溶けてしまった。最近爆豪からもアクションがたまーーにあるのだ。
「大丈夫か? 口赤くなってんぞ」
「んん……へいき。幸せだから気になんないや」
ふにゃりとした表情をしている氷華に轟はわからないながら「そうか」と頷いた。
もうすぐ爆豪たちの対戦が始まる。ぽやんとしたままの氷華を「ほら始まるぞ」と急かして間に合うように送り届けた轟はいいやつだった。
「あっれぇ僕の目が変なのかなァ? 彼耳郎さんを庇ったように見えたなァ」
「庇ってたな! 足蹴で!」
「物間! 大丈夫だ! あいつは意外とそういう奴だ!」
「うんうん、爆豪くんけっこう優しいんだよ。この前もね――」
「キャラを変えたっていうのか!! あと白雪からあいつの話は聞きたくない……!!」
「えー」
爆豪のキャラ変ショックと氷華の追い打ちで打ちひしがれる物間。氷華の気持ちが爆豪に向いているのはもう否が応でも認める他なかったが、それでも失恋の傷は全くもって癒えていないのだ。お願いだからそんなに可愛い顔で爆豪のことを語らないでほしい。
爆豪の火力が増している。やっと調子がでてきたんだろう、氷華の煌めく瞳は爆豪を見ている。体育祭からずっと自分を焦がしてやまない熱。鮮烈な熱。
「やっぱり爆豪くんの熱が一番だわ……」
氷華を溶かす熱。「溶けちゃいそう」と呟いたそれに恋だなぁ。恋してんなぁ、かわいいなぁと近くにいた切島と上鳴は思った。爆豪と行動することが多いので、氷華と爆豪の恋模様を身近で見守ってきた二人としては微笑ましいったらありゃしない。物間はもう死体だった。誰も彼もが微笑ましくはあれないのだ。
「爆豪くんすごかったよ〜!」
「当たりめェだろ。おまえこそ何引き分けとんだ、根性が足りねェんだよ根性が!!」
「ごめんにゃひゃい〜!」
爆豪に頬を引っ張られわからせられる。爆豪の言うとおりだった。冬で引き分けるなんてダサいったらありゃしない。最後の轟は気力だけで立っていた、氷華がもう少し根性を出してプルスウルトラすれば勝てた試合だったろう。
「インターンで学んだこと全部抜けちまったかァ〜?」
「そにゃことは……」
「まぁ一番の原因はこれだよなァ。おまえ炎熱系の個性見たがりすぎなんだよォ、速攻で轟潰せや。出来ただろォ、なァ氷華チャンよォオオ」
「いひゃいいひゃい、ごめっ、ごめんにゃひゃいっ」
ばれている。轟の熱を見たがったのがばれている。さすが冬になって雪に氷に埋められることが急増した経験者は違う。
しょうがないのだこればかりは……悲しい雪女の性である。あ、ちょっと嘘ついた母親は炎に興味はなかった、あるのはより自分を冷やす冷気に対する興味だった。何にせよベクトルが違うがこれは本能的なものである。
涙目になる氷華に溜飲が下がったのかようやく解放された。ほっぺたがいたい。
「でも爆豪くんにしかどきどきしなかったよ……溶けちゃうのも爆豪くんのだけだもん」
「んなのあったりめぇだわ!! 他の奴らと一緒にすんじゃねェ!!」
「これはあれだな……」
「あれだな……」
「独占欲」
「うっせェお前ら何が独占欲だ!! 勝手なこと言ってんな!! クソが! 死ね!!」
瀬呂たちの援護射撃が絶妙だった。氷華もそう思う。この頃の爆豪はたまにこうして返してくれるようになったのだ。氷華の日々のアピールの賜物である。「だぁああ!! もうおまえもふわふわしてんな! キラキラしやがって鬱陶しい!!」それはしょうがない、氷華は爆豪を見てるとキラキラしちゃうので。恋する乙女とは大体こんなものである。
「えへへ、爆豪くんのお隣〜!」
「ちけぇ、もうちょっと離れろ。食いにくいだろうが」
「はーい」
対抗戦後に反省と交流を兼ねてB組の数名でA組寮を訪れていた。その中には当然氷華の姿もあった。氷華は当然のように爆豪の隣の席に座り、ビーフシチューを食べている。こうして一緒に食事をするのはずいぶん久しぶりだった。実に彼女面事変以来である。
「白雪」
「あ、轟くん」
「あ?」
緑谷と何やら話していたはずの轟が氷華を呼んだ。
「俺はまだ未熟だ。おまえが冷やしてくれたから赫灼が撃てた」
「冷やしたつもりはないよ、結果的にそうなっちゃっただけで……」
「だとしても今度は、
爆豪のようにギラついた熱とは違う、静かに燃える炎に氷華が興味深そうに轟を見た。ずいぶん氷華を買ってくれたらしい。氷華はなんだか嬉しくなって微笑む。
「次は轟くん瞬殺しちゃう。私も負けないね!」
瞬殺という氷華が言うには意外過ぎた言葉に緑谷がええ、白雪さんかっちゃんの変な影響受けてるぅうと怯える中、言われた本人である轟はさして気にした風もなくよろしくなと返す。氷華の隣に座って一連のやり取りを不機嫌面でみていた爆豪は、ものすごく気をよくした。ちゃんと自分が言ったことを氷華は理解している。そうだ白雪その意気だ。轟なんぞボッコボコにしてやれ!
各々の思いを乗せて、こうしていつもより賑やかなハイツアライアンスの夜は更けていくのだった。
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