個性婚
「何でだ!!!」
「姉さんが飯食べにこいって」
「何でだ!!」
「友だちを紹介してほしいって」
「今からでも言ってこいやっぱ友だちじゃなかったってよ!!」
「かっちゃん……!」
爆豪大爆発である。氷華がふと自分も轟の友達にいれられていることに驚く。そういえば連絡先もずいぶん前に交換しているし、対抗戦で一戦交えてからというものの良いライバルであるし、あとなんだか独特の距離感で接している気がする。いつの間にか立派な友達である。
「忙しい中お越し下さってありがとうございます。初めまして焦凍がお世話になっております、姉の冬美です! 突然ごめんねぇ、今日は私のわがまま聞いてもらっちゃって」
「何でだ……」
「嬉しいです! 友だちの家に呼ばれるなんてレアですから!」
「おじゃましまーす」
「夏兄も来てるんだ。クツあった」
「家族で焦凍たちの話聞きたくて」
不服そうな表情を隠さない爆豪と並んで廊下を歩く。氷華もちょっと緊張していた。まさかまさかの同級生のお宅訪問である。まだ爆豪の家にも行ってないのに先に友だちの家に来てしまった。しかもなんか家族を紹介される流れである。普通にど緊張だった。案内された場所には所狭しとご馳走が並んでいた。
「食べられないものあったら無理しないでね。白雪さんは熱いの苦手だったわよね。これよかったらどうかしら?」
「冷やし中華……! 私のために……? ありがとうございます、嬉しいです……!」
「おーよかったな、おまえこれも食え好きだろ」
「好き〜!」
まさに至れり尽くせりだった。冬美が作ってくれたご飯はとても美味しかったし、わざわざ熱いのが苦手な自分のために冷たいものを用意してくれた気遣いも嬉しかった。その上爆豪がちょっと届かない位置にあったロールキャベツを取ってくれた嬉しい。
何やら緑谷が食レポを始めだしたけれど美味しいのに全面同意である。
「そらそうだよ。お手伝いさんが腰やっちゃって引退してからずっと姉ちゃんがつくってたんだから」
「なる程」
「夏もつくってたじゃん、かわりばんこで」
「え!? じゃあ俺も食べてた!?」
「あーどうだろ俺のは味濃かったから……エンデヴァーが止めてたかもな」
今……何か空気がピリついた気がする。氷華は必死に知らないふりをした。目の前の料理に集中する。もしかしなくてもたぶんえっと、エンデヴァーはご家庭ではちょっと厳しい方なのだろう。氷華の家は片親ということもあってわりと過保護に溺愛されて育った自覚がある。そういうご家庭もあるだろうと必死に聞いていないふりをした。
「焦凍は学校でどんなの食べてるの」
「学食で――」
「気付きもしなかった今度……ムッ」
か、被った〜! エンデヴァーと轟の台詞が被ってしまった。そしてエンデヴァー続けるんかい。爆豪と緑谷はまだ事情を知っているが、全く情報がない氷華は仲悪すぎではと滝汗だった。ここでまさかの変化球が氷華を襲うとは誰も予想しなかっただろう。
「……白雪さん、氷の個性だよな」
今度はさっきの非にならないくらい空気が張り詰めた気がする。間違いないなんかびりびりする。冬美がものすごく焦った顔で「夏!」と制する声が聞こえる。氷華はもう心臓がバクバクだった。なんだかよくわからないが、ほんとによくわからないが轟家にとって氷系の個性というのはなにやら地雷らしい。氷華は緊張で回らない頭ながら考えた、それはもう考えたヒーロー志望らしくこの空気をわっと変えられるよう考えた。そして――
「あの……! 私……!! 氷だけじゃなくて雪も使えます!! この何もない掌からあら不思議! こんなにかわいい雪ウサギが……!!」
一発芸である。考えた末が一発芸であった。そして滑っている。
氷華は恥ずかしさで泣きそうになる。違うそういう意味で言ったんじゃない、そんなことわかっているが今できる精一杯がこれだったのだ。
「わ、わぁ……! 動いてる! 可愛いわ! 白雪さんの個性素敵ね」
「ん(頑張ったな)」
冬美が動いている雪ウサギに癒され絶賛する。爆豪もさすがにこの地獄に巻き込まれたことに同情し、頭を撫でてくれた。だがしかし、氷華に気を遣わせたことに余計後ろめたさを感じたのか「ごめん姉ちゃんやっぱムリだ……」と夏雄は出て行ってしまった。
残りの食事はしん、としたものだった。あんなに美味しかった冬美の料理もあまり味がしなかった。
後片付けをみんなで手伝った。緑谷と爆豪と一緒に食器を台所にもっていくと、エンデヴァーに呼び止められる。
「悪かったな、おまえに気を遣わせた」
「いえそんな……気にしないでください」
「おまえにはうちの事情を話しておこうと思う。二度目だろう」
たしかに氷華が地獄の轟家の事情にかかわるのは二度目だった。なにかしら氷の個性とやらに過剰反応される。そうしてエンデヴァーが話してくれた内容は両親と同じ個性婚といえど、想像を絶するものだった。
「オールマイトを超えるため、自分では果たせぬその野望を子へと託すため、個性婚を選んだ。前も言ったように俺の個性は熱が籠るデメリットがある。それを解消するため妻の氷の個性を求めた。妻の実家はあまり裕福ではなくてな……それに付け込んで無理やり娶ったようなものだった」
氷華は大人しく聞いている。子供に苛烈な教育を施すことも、それを止める妻を病ませ病院へ追い込んだのも氷華には未知の世界だった。氷華の親は個性婚だが、極めて大切に育てられた。それこそ蝶よ花よといった具合である。両親も個性婚が始まりだが確かに愛し合っていた。あまりに違う、同じ個性婚なのに、こんなにも。
ふと思い当たる。エンデヴァーは氷の個性をもった妻を求めたといった。エンデヴァーは雪女の個性をよく知っていた。まさかと思いいたる。エンデヴァーが氷華の母を知っているようなのは――。
「個性婚の候補の中に、私の母もいたのですか」
「……彼女は俺のところにインターンに来ていた時期があってな。とてもいい個性を持っていた。俺は彼女の個性を求めた時期もあったが……彼女はより強い氷の個性の子を求めた。利害の不一致で早々に立ち消えた話だ」
「やっぱり……そう、だったんですね」
「だが、おまえを見ているとわかる。大切に慈しまれて育てられたことが。おまえの父と母は俺とは比べ物にならないくらいいい親だったようだ」
氷華は何も言えなかった。あまりに重たくて、軽率に何かを言うのが憚られたのだった。
top