始業式である。A組とB組のメンバーでインターンの意見交換と始業一発気合入魂と題して鍋パーティーが行われることになった。
氷華が実家から送られてきた高級牛を提供したことで鍋の一つはすき焼きをすることになった。宍田からもお歳暮にもらったというこちらも高級魚クエを提供してもらったのでもう一つはクエ鍋にする。こうしてB組随一の女子力兼料理上手の氷華監修の下鍋は完成したのだった。


「お邪魔するよー! これ差し入れ。ジュースとかお菓子。食後に食べようよ」
「アイスもあるんだよ。男の子たちがあとで持ってきてくれるんだ」
「まぁありがとうございます」

差し入れを差し出す拳藤の傍らで氷華もにこにこと口にする。アイスが大好物である氷華のために父親が牛肉と一緒に大量に送ってきてくれたのだ。せっかくだからと持ってこようとした氷華に重いだろうからと男子が鍋と一緒に持ってきて来てくれることになっている。


「おー白雪! 爆豪の隣座れよ」
「ありがとうっ」

爆豪の隣に座っていた切島が快く席を譲ってくれた。爆豪も動じた様子もなく、冷静に「火に気ィつけろ」とだけ注意する。目の前にあるのはキムチ鍋だった。なんとも爆豪らしい。爆豪がキムチ鍋を小皿に取り分けて置いてくれた。「ちゃんと冷まして食え」「ありがとう!」微笑ましいやりとりに切島が爆豪やっと素直になったんだな! と感激した。
間もなく物間が到着し、A組の鍋を品定めしていく。いつもの物間の悪癖である。


「物間ぁ、持ってきたぞー!」
「一人で先に行くんじゃねーよっ」
「お邪魔します。あ、皿と箸、俺たちの分は持ってきてるから」
「おや、お気遣いありがとう!」
「白雪ー! アイスの到着だー!」
「回原くんありがとー!」
「うちの冷凍庫を使うといい、こちらで保管しておこう」
「飯田くんありがとう。助かります!」

氷華の差し入れのアイスに女子たちが目を輝かせる。「なになにどんなのー!?」「見てもいい!?」と興味津々なA組の女子たちに快く頷いて中身を見せる。中から見た目からしてものすごくお高そうなお洒落なアイスがでてきた。八百万がブランドを言い当てていたが何やら聞きなれない名前だった。「白雪さんもお嬢様だったんだね……」「うんすっごいお嬢様。うちの鍋の高級牛も氷華ん家からの仕送りだよ」「こ、高級牛……」「麗日が倒れた!」てんやわんやである。
女子できゃっきゃっしている間に物間が鍋対決なるものを吹っかけていた。なんでも対抗したがる男である。爆豪も最初は相手にしていなかったが、続く言葉に火をつけられてしまった。


「……そうだね、僕らB組の鍋はA組の鍋とは比べものにならない。例えばそこのキムチ鍋なんてただキムチを突っこんだような創作工夫もない鍋だもんねぇ!?」
「てめえ、俺のキムチ鍋にケチつけんのか」
「ケチじゃないよ、ただそう見えるだけさ」
「そんじゃ食ってみろや!」

ここで氷華も物間と爆豪の応酬におろおろしつつ、少し冷めたキムチ鍋を口に運ぶ。「あっち……」「バカちゃんと冷ませっつっただろうが!」「ごめんなひゃい……」火傷した。なんかキムチ鍋って火傷しやすいのだ。どんっと目の前に置いてもらった飲み物を飲む。とても好きなジュースである。好みをちゃんと覚えててくれる爆豪に氷華はるんるんした。


「でもとっても美味しい……! コクがあってね、ものすごく繊細……キムチだけどすごく食べやすいの。私これすっごく好きだな」
「ったりめーだ」
「この鍋は俺の出汁をベースに爆豪が自分の激辛調味料で味を調えたんだ! 何度も味見して、仕上げたんだ。ただ辛いだけじゃない、うまみとコクと複雑な辛みが豚バラと野菜を引き立ててるんだ!」
「爆豪、おめぇ、そんなにこの鍋に思い入れがあったのかよ……。どうりで美味いわけだぜ……! ようし、みんな鍋対決引き受けようぜ! 俺たちの鍋が負けるわけがねえ!」

キムチ鍋裏話に感激した切島が立ち上がって扇動する。そこにノリのいい瀬呂や上鳴がはやし立て鍋対決が決まった。氷華はというとすでにキムチ鍋の虜だった。一生懸命冷まそうとする氷華に気をよくした爆豪が二杯目を先に取り分けて置いてやった。雪女らしく好きな人が作ってくれた料理に夢中なのだ。
A組の鍋をみんなが一通り食した頃、次はB組の鍋に評論が移ろうとしていた。


「なかなかやるね……でもB組の鍋はびっくりするぞ。ただでさえすごいのに女子力の粋、料理自慢の白雪監修の下作った自信作だからね!!」
「白雪の料理だとおおお!? もうオイラ絶対B組の鍋に投票するうううう」
「峰田くん! 落ち着き給え、ここはヒーロー志望らしく本当に美味しいと思った方の鍋にいれるんだ!」
「はあああ!? 白雪という白雪に舞い降りた天使が作ってくれたってだけでどんなドブが出てこようが南アルプスの天然水より清らかでうめえと決まってんだよおおおおおお」
「峰田やば」

血走った峰田を見てしまった氷華は怯えた様子で爆豪の影に隠れた。耳郎がシュパッとイヤホンジャックで峰田を制裁してくれた。かっこいいぞ耳郎。


「それじゃあ気を取り直して。いくよ……これが鍋その一だ……!」
「こ、これは……すき焼きやん……!!!」
「……すき焼きは卑怯だろー!?」
「鉄鍋で煮るんだから、立派な鍋料理だろ? ほら、卵をつけて食してごらんよ」

A組のが食した瞬間、もう大歓喜だった。麗日なんかは腰砕けになり、切島は服が破れそうなくらい歓喜している。緑谷は一人壮大な食レポを始めだし爆豪に「鼻につく食レポしてんじゃねえ!」とペットボトルを投げられ殴られた。緑谷の横でワイングラスに注いだジュースを飲んでいた青山が「ナイスコントロール☆」と言ってグラスを掲げた。

次の鍋、といったところで皆驚いた。白身魚一色だったのだ。それになんだなんだと食べてみると……あまりの美味さに全員が屈した。なんだこの魚はと一同が驚いていると、八百万が答えてくれた。クエ、クエを食べたら他の魚は食べられないと称されるほど美味で有名な超高級魚である。
すべての鍋を食したあと、いよいよ投票となった。結果は実に圧倒的だった。B組の鍋に票が集中したのだ。一番はやはりクエ鍋だった。


「おいみんな……! つーか爆豪、おまえもクエ鍋かよ!?」
「……うめえんだよ」
「やっぱ鍋の王様って言われるだけはあるぜ……。白雪の出汁も繊細でよ……勉強になった」
「私こそ、砂藤くんの隠し味にはびっくりしちゃった。よかったら今度一緒にお料理しましょう」
「ああ、ぜひ!!」

ちなみに氷華は切島と同じように爆豪と砂藤合作のキムチ鍋を選んだ。喜んで食べていたのだが、香辛料で唇が赤くなってきたのを見た爆豪から強制ストップが下され、途中から違う鍋しか食べれなかったのは余談である。それでも当然のように椀をよそってくれる爆豪に氷華は始終ご機嫌だった。

その後勝負には罰ゲームがつきものだといって闇鍋をすることになった。罰ゲームとしてクラスで取り込むことになったので、氷華は困惑しながらもとりあえず鍋に入れても問題なさげなチーズをいれることにした。他の食材はぎょっとするものばかりで氷華は見なかったことにしようと足早にその場を去った。


「さぁ食してもらおうか!」

数名がお手洗いへ席を立つも、闇鍋罰ゲームは始まった。最初は不安ばかりだったが、意外とうまくいっている。途中で興味がでたらしい鉄哲が自分も食べると手を出し、あまりのまずさに逆に共有したくなったのかB組を巻き込んでいく。氷華も勧められて、ええ……と引き気味ではあったが、これを爆豪も食べるのだと思うとどんなものなのか知りたくなり、スープを少しだけ飲むことにした。


「っ……うっ」
「鉄哲! 白雪に飲ませるんじゃない……! ああ、白雪大丈夫か、君は繊細だから口に合わなかっただろう」
「物間、それって私たちは繊細じゃないから大丈夫ってことか」
「いやだなぁ、拳藤。白雪が特別なだけに決まってるだろう」

あまりのまずさにもう絶した。なんか物間が話しかけてきた気がするが何言ってるか頭に入らなかったレベルのまずさだった。これを爆豪も飲むというのに氷華はものすごく心配になった。
心配になったが罰ゲームからは逃れられない、結果的にスープを飲まされる爆豪をそれはもうはらはらと見守るしかなかった。

その後みんなで持ってきたアイスを食べて、女子は女子会、男子は更なる罰ゲームをかけたサウナ勝負へと繰り出した。けれど途中から記憶がない。上鳴がいうには鍋に当たったらしい。闇鍋なら確かに食べ合わせなどで当たったりもするだろう。恐ろしい鍋だと氷華は思った。
これを機にA組もB組もしばらく鍋をやめることにしたのは言うまでもない。賢明な判断であった。

 


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