「だぁあああ! クソッ!! もう一回だ!!」
「爆豪くんもう五回目だよ。少し休もう?」

休日、学校は休みだが氷華たちは元気にインターンに励んでいた。
今日はエンデヴァーが取材やらなにやらがあるとかで長く空けている。炎のサイドキッカーズと任務にあたる傍ら、今日は比較的余裕があったため午前で終わり、残りの午後からは休みをもらったので、昼食の後からしばらく爆豪と氷華は手合わせを続けていた。
冬をすっかり味方にして雪女として覚醒した氷華はそれはもうすごかった。氷雪の支配者とでもいうのか、パワーも規模もすべてがえげつない。爆豪はもう五回も雪に氷に埋まっていたが、持ち前のタフネスで挑んでいた。それを傍で見ていた轟は感心した様子だったし、緑谷はあのかっちゃんがこんなに簡単に埋まってるううと驚愕していた。


「まだだ!! 今度こそ俺が勝つんだよ!!」
「えー……私もう疲れちゃった。せっかく時間たくさんもらったんだもん、ちょっとお外で美味しいもの食べたいな……」
「どこが疲れてんだよどこがァアア! いいから黙って俺に付き合え! 俺のこと好きだろ! おまえの好きなデートだぞ!!」
「(みみっちいよかっちゃん……!)」
「いや、これデートじゃねぇだろ。爆豪さすがにもっとちゃんとしたデートしてやれよ、白雪がかわいそうだ」
「うっせェてめーは黙ってろ! そんなん俺だってわかってるに決まってんだろーが!!」

正直氷華は別に疲れてなんかいなかった。ただ飽きたのである。いくら爆豪の熱に恋い焦がれてやまないといってもインターンがハードすぎて戦闘自体にあまり乗り気じゃないのだ。年頃の女の子らしくショッピングに飢えていた。かわいいパンケーキやお洒落なカフェでお茶もしたい。
デートデートといってもインターンが始まって二人っきりになった試しもない、今だって轟や緑谷がいる。轟たちがいないなら調子にのって精気吸収を口実にしたキスくらいできるが、よりによって轟と緑谷である。この二人がいるところでそんなことをしたら爆豪が本当に怒るのがわかっていたためそんなこともできず氷華はちょっと拗ねていた。

だがここで氷華に女神が微笑んだ。轟が素晴らしい援護射撃をしてくれたのだ。


「爆豪……俺から姉さんにデートプラン練ってもらえるよう頼んでやるよ。遠慮すんな、お前に恥はかかせねぇ」
「(ブッチィィイイ)余計なお世話だデートくらい俺もできるわ!! 白雪!! デートすっぞ準備してこい!!!」
「……うん!!!」

轟は本当にいいやつである。氷華はそれはもうキラキラと輝く笑顔で元気いっぱいに答えた。「轟くんありがとう!」「いや……あいつ大丈夫か、ちゃんとデートできるのか……?」「かっちゃんなら大丈夫だよきっと、たぶん……」轟と緑谷は若干心配していたが当の氷華はるんるんだった。るんるんで着てきた今日も可愛い服に着替え、事情を知ったバーニンが髪とお化粧をして可愛くしてくれた。どこからどう見てもかわいい彼女である。氷華はいつも可愛いが。こう輝きが違った。
支度を終えて事務所前で先に待っている爆豪に小走りで駆け寄る。


「お待たせっ」
「おっせェ! おまえ何して……」
「バーニンさんが髪とお化粧してくれてかわいくしてくれたの〜! かわいい?」
「……いいンじゃねェの」

ものすごくデートっぽい始まりである。いつもふわふわ緩やかにくるくるした髪がきっちり巻かれている。氷華の服は普段からひらひらふわふわといかにも女の子という出で立ちであるし、何より国宝級の美貌である。ただでさえ普段から眩しいことこの上ないというのに化粧をして更に磨きがかかっている。これには爆豪もあまりの眩しさに目を細めた。正直どこに出しても恥ずかしくない自慢の彼女であった。全世界彼女コンテスト優勝間違いなしである。


「ねぇねぇどこに行くの?」
「黙ってついてこい」
「はーい」

歩き出した爆豪に腕を絡ませた。そうすると爆豪がごく自然に手を繋ぎなおす。恋人繋ぎである。これに氷華は大歓喜した。デートだ! ものすごくデートだ!! まだ始まったばかりだというのに氷華はもう有頂天だった。






向かった先は大型ショッピングモールだった。なるほど確かになんでもある。爆豪は迷いなく進んでいき、迷わず併設されている映画館まで連れてきた。


「映画見るの?」
「ん」
「何の映画? ラブストーリー? アクション? それともコメディ?」
「ホラー」
「ほらー……?」

氷華は一瞬何を言われたのか理解できなかった。何を隠そう氷華は怖がりである。林間合宿の肝試しだって怖がっていやいやしていたのを回原と凡戸が宥めすかし、なんとか待機所までたどり着いたのだ。A組を脅かしている間も脅かす側の氷華が出てきた人にビビッていたりと相当な怖がりだった。
あまりのビビリっぷりに轟と組んでいた爆豪は爆笑したなんてこともあった林間合宿である。


「ほら行くぞ」
「え、あ……爆豪くん、爆豪くん……違うのにしようよ、ねぇ爆豪くん」
「もう買った。ほらおまえの分」
「早いよ爆豪くんんんん」

すでに半泣きだった。買ってしまったものはしょうがない、氷華はますます繋いだ手に力をこめ、腕に絡みついた。






「おまえ……くっ、はははっ! ビビリすぎだろ……!」
「爆豪くん……いじわる、デートなのに……ひっく」
「デートだからだろ。ほら、泣くなって。こっち向け」
「ん……」

爆豪が優しく上向いた氷華の涙を拭う。とても意地の悪い顔をしている。ものすごく楽しそうだ。爆豪は事あるごとに怯えてしがみついてくる氷華に笑いを堪えるのに必死だった。わりとコメディ色の強いホラー映画だったが、それでも氷華には怖かったらしい。


「ん、次行くぞ」
「次は怖くない……?」
「怖くねェ」
「ほんと? 絶対だからね……!」

ぎゅうっとしがみついてくる氷華の頭を軽く撫でて、爆豪たちは次の場所へ向かった。といっても氷華は爆豪についていくだけである。心なしかびくびくしている氷華にんな怖かったんかと爆豪もさすがに少し悪かったかとほんの少しだけ反省する。いやだって、子供でも見れる内容でこうなるとはさすがに思わなかったのだ。





「はわわぁ〜〜!! パフェ〜〜!!」
「怖くないっつっただろ」
「うん、うん! 怖くない〜! 爆豪くん大好きー!」

今度は歓喜に抱き着いてきた氷華にチョロ……と心の中で零す。氷華はとても素直なのだ。
爆豪が連れてきたのはいかにも女子が好みそうなカフェだった。ものすごく意外である。こんな店入れるか! と怒鳴りつけそうなのに。まったくもって意外であった。
氷華はご機嫌でバニラアイス付きのイチゴがたくさん乗ったパフェを頼んだ。爆豪はブラックコーヒーのみである。完全に氷華のために連れてきてくれたわけである。


「どうして連れてきてくれたの? 爆豪くん、こういうお店入りたくないと思ってた」
「……おまえ好きだろ、こういうの」
「私のため? 嬉しい……ほんとにデートみたい」
「はなっから言ってんだろ。デートだって。おまえもそのつもりでいろっての」
「ふふ……はーい」

蕩けた顔で見てくる氷華に爆豪は砂糖を吐きそうな思いだった。甘い、氷華の作り出す何もかもが甘い。おまえ砂糖とか生クリームとかフルーツとかバニラのアイスとか……そんな甘いもんで出来てンじゃねェのなんて思った。氷華が笑っている、ダイレクトに幸せです、あなたが大好きですと全力でぶつけられている。
届いたパフェに氷華がそれはそれは美味しそうに蕩けている。バニラアイス好きだもんな。頼んだブラックコーヒーが妙に甘ったるい。それを悪くないと思っている自分に爆豪もいよいよ年貢の納め時を悟った。


「なァ、白雪……俺ら――」
「あれ? 轟くんに緑谷くん……?」
「は……」
「お」
「あ、あはは……奇遇だねかっちゃんに白雪さん……」

爆豪がいろんなものを飲み込んで、ようやく口に出そうとしたその瞬間、氷華が緑谷と轟を見つけた。爆豪のデートに心配半分、興味半分でついてきてしまったのだ。映画館は暗いためばれなかったが、さすがにカフェは無理があった。轟の顔面力的にも無理がありすぎた。忍べないのである。


「おまえらァ〜〜〜〜!!!」
「いやこれはなんていうか……!」
「緑谷バレちまったもんはしょうがない、ここは正直に言おう。白雪を満足させるデートができるのか心配でついてきちまった。けどお前意外とちゃんとしてんだな。ホラー映画なんて見せたときは心配だったが……あれもだいぶコメディ色強くて笑えることの方が多かった、それにちゃんと白雪の好きなもんで埋め合わせしてるし、なんつーか予想の遥か上だった。いいデートだな」
「と、轟くん……!」
「うっせェ!! 何勝手に講評しとンだこのストーカー野郎どもがぁあああああ!!! 死ねクソがぁああああ!!!」

困りますお客様ーー!! と店員が寄ってくる。これではせっかくのデートも台無しというもの。
氷華はあたふたしながら爆豪に「でもとっても素敵なデートで私とっても楽しかったよ。またしたいな……」何とか爆豪を落ち着かせようとする。けれど爆豪もよりによって緑谷と轟に見られていたことで最高に機嫌が悪かった。なにぶんそれまでがご機嫌だっただけに落差がひどかった。すっかり氷華の彼氏である自分を自然と肯定的に受け取っていただけに色々台無しになったあれそれといい、つい口に出してしまう「もうしねェ!!!」素直になれなかった爆豪により、やはり氷華との関係はもうしばらくこのままということで。

 


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