ヒーローとして
後衛部隊と合流するため、戻っていた氷華は爆音に後ろを振り返る。
そこにはMt.レディが自分より大きいギガントマキアを食い止めんと攻防を繰り広げていた。
「なに……あれ……」
あまりの強大な化け物に氷華は戦慄する。Mt.レディが押しまけている、たくさんのプロヒーローたちが食い止めんと動いているのに化け物はまったく堪えた様子がなかった。自分が完封できるとは思わなかった。けれど氷華は迷わなかった。アレが街へ下りたら未曽有の大災害になることが明白だったからだ。コスチュームを着て外へ出れば自分たちはヒーローなのだから。
氷華がギガントマキアに追いついたときにはMt.レディは飛ばされていた。図体がデカい上に速いったりゃありゃしない。
「周りに人がいないなら好都合……!!
猛吹雪がギガントマキアに炸裂した。まったくの無事ではすまないはずだというのに、マキアは無事だった。ちっとも堪えた様子がないそれに氷華は愕然とした。それに吹雪の中にわずかに蒼炎が見えた。連合がいるという事実に氷華はごくりと喉を鳴らした。
氷華はじっとマキアを観察する。どこかしらに綻びはないか、あれだけのヒーローが束になってかかったのだ、どこかに、どこかになにかあるはずだと氷で絶えずマキアの進行を妨害しながら観察する。
進めど進めど絶えず現れ妨害してくる氷がうざったくなったのか、ついにマキアが氷華を掴んで投げた。
「きゃあああっ!!!」
掴まれた威力もさながら、とんでもない速さで落下していく氷華はコントロールが効かず、浮遊することがかなわなかった。やっと落下した先はなんと先ほどの氷を操る外典が拘束されている場所だった。
急に降ってきた氷華に外典は驚くも、すぐに上機嫌になる。自分をむかつくほど翻弄した人間がボロボロになって落下してきたのが面白かったのだ。
「ハハハッ! 無様だなぁ!!」
いい気味だと言いたげに笑い声をあげる外典に氷華はゆらりと近づく。身体のあちこちが痛い。掴まれたときに骨にヒビが入った。けれど氷華の目は死んでいない、むしろ怪しく輝いてそこにいた。
ただならぬ氷華の気配に外典が笑い声を抑えて訝しむ。なんだこいつ……なにか……。
「随分元気そうね。その元気、私にわけてちょうだい」
「は――」
外典は何が起きたか理解できなかった。少女が出すにはあまりにも妖艶な雰囲気もそうだし、個性伸ばししかしてこなかったため
ちゅっと頬を吸われる。顔が沸騰するように熱かった。けれどすぐに寒くなる。吸われている、何か自分の大事なものが吸われているのだけがわかった。
「ごちそーさま」
ペロッと覗いた小さな赤い舌がやけに目についた。霞む視界の中外典が最後に見たのは……雪女そのものだった。
外典の有り余る精気を吸いつくしたおかげで氷華の骨に入ったヒビも完治した。最近知ったことなのだが、女より男、少年か青年、そして見目が麗しければ麗しいほどその精気の質がいいらしい。外典と名乗る彼は確かに氷の個性の持ち主らしく麗しい顔つきであったし、若かった。そして元気が有り余っていたためとてもよい精気を提供してくれたのだ。氷華は運がよかった。氷系の個性というだけあって親和性が高い精気だったのだ。
氷華はギガントマキアを追うことにした。まったく敵わなかったが、それでもあれを行かせるわけにはいかないのだ。それに背中には連合がいた。「主よ」と誰かを求めるように移動していたのを氷華はちゃんと聞いていた。連合が乗っている、そして主を探している。ここから導き出される答えは死柄木弔の下へ移動しているということに他ならない。
そうなればエンデヴァーたちが大変だ。まったく自分の氷は効かなかった。けれど氷華は投げ飛ばされる寸前、マキアの綻びを見つけていた。氷華のよく知っている特徴的な凍傷が左腕にあったのだ。間違いなく父、グレイズがやったものである。その傷の特性をよく理解している氷華は一計を講じんと飛び立った。
「いた……」
氷華はマキアを見つける。街を横断し、蹂躙している。今すぐどうにかしたいが、自分の実力を冷静に見極め息を殺す。感づかれてはいけない、確実に全うする。幸い避難誘導がヒーローたちで行われたため目の前に救わなければならない人はいなかったのが幸いだ。氷華がやるべきことはマキアの綻びを完全なものにすること。そう、マキアの腕を落とすことだった。
息を殺してゆっくり近づく氷華の腕を掴んだ人物がいた。
「!? ……グレイズ……!」
「ここでなにをしている……!」
見たこともない怖い顔をしてグレイズは氷華を見ていた。コスチュームも身体もボロボロであった。
「もう一度聞く、ここでなにをしている」
「あ……」
「後衛部隊にいたインターン生たちには退避を命じた。それに含まれるはずのおまえがなぜここにいるんだ……!!」
声を潜めながらも怒気を抑えきれないグレイズに氷華は委縮するも果敢に言い返した。
「アレの綻びを見つけました。後ろには連合もいます。このままの状態でエンデヴァーたちに合流しては最悪なことになります……! だから――」
「だから何だというんだ……! それはおまえがすべきことではない私がすることだ。おまえは一刻も早くこの場を――」
「嘘ですグレイズ! だってその怪我じゃあなたは……!!」
グレイズの利き腕をやられていたのを氷華は見逃さなかった。利き腕のコントロールはグレイズの個性にかなり影響する。緻密な氷結技ほどその可否を問う。氷華は畳みかける、自分が代わりにやる、やれると。威力だけなら今のグレイズになら勝れる自信があった。けれどグレイズは頷かない、帰れ、逃げろと焦躁感が漂っていた。それはインターン生を心配する大人の姿ではなく、ただ自分の娘を案じる父親のそれだった。それに耐えかねたように氷華が言う。
「グレイズ……! 私は言いました、ヒーローとして私を扱ってほしいと。私は氷雪ヒーロースティーリア、氷雪を冠する者です……!!」
「っ……インターン生だ! おまえはまだ、インターン生なのだ……!」
「ならばグレイズ、あなたが私を守ってください。
氷華の表情は真剣なものだった。決して生半可な覚悟で口にしているわけでも、無謀な真似をしようというわけでもない、危険を覚悟し、それでも己の使命を全うするヒーローの顔だった。
グレイズは何もいえなくなった。今の自分だけでは果たせないことが理解できていたからだ。娘の、スティーリアの氷雪が必要だと本当は理解していた。
「……決して無茶はしないでくれ」
「ええ、約束はしませんが努力はします……!」
ヒーローはいつだって危険と隣り合わせだ。それでもヒーローたちは明日を笑って過ごすために全力で生きている。グレイズと氷華はそれっきり、あとは任務に心血を注いだ。連合に勘づかれることなく、グレイズがつけたマキアの綻びを細心の注意を払い拡大させていくのだった。その時に氷華はあるものに気づく、いつかの上鳴が得意げに教えてくれたポインターだった。それに氷華は胸がいっぱいになる、みんなも戦ったのだ。この巨悪の化け物とみんな、みんなで……これは決して無駄にはしまいとありがたく拝借する。みんなの勇気は、決断と行動はちゃんと繋がれている――。
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