少しずつ慎重に、気取られないように綻びを深く広げていく。どういうわけかこの大型ヴィランには痛覚がないらしい。よって氷華たちは連合にだけ気を付ければよかった。
そしてついにマキアが死柄木弔と合流する、そこにはなんとエンデヴァーたちだけではなく、緑谷や轟、爆豪に波動、飯田までいた。氷華が遠目からでも爆豪の怪我に気づく。どう見ても大怪我だ、瀕死だ。血が、いや傷が貫通している。息が荒くなる氷華にグレイズがしっかりしろと肩に手を置いた。それに氷華は深呼吸をして気を落ち着かせる。どう見ても重傷である爆豪たちのためにも失敗するわけにいかなかった。

エンデヴァーたちを見つけた荼毘がそれはもう上機嫌で一人語りを始めた。聞こえたその話はにわかに信じがたい……否、嘘であってくれと言った内容だった。なんと荼毘の正体は亡くなったと思われていた轟燈矢その人であった。エンデヴァーからも聞いたその顛末をよりドラマチックに告発していく。けれどその間も氷華とグレイズは己のやるべきことに注視した。その結果やっと準備が整った。空からベストジーニストが援護に入る。それを確認した氷華たちはさっとその場を離れ、上空へと移動した。


「遅れてすまない!! ベストジーニスト今日より活動復帰する!!」
「私たちも加勢する」

急に現れたように見えた氷華たちに爆豪が驚く。それになにより行方不明と言われていたジーニストの復帰に思わず笑みがこぼれた。思いの外爆豪の元気な様子に氷華も少し安堵する。マキアをジーニストが縛り上げてくれているこの好機を逃さんと、氷華とグレイズは仕上げに入った。
上鳴が散らしていてくれたポインターをマキアの綻び内側から壊死していく左腕に固定し、荼毘の蒼炎によってあったまっていた空気を利用する。荼毘が大技を繰り出そうとしてくれたのは幸運だった。荼毘の温めた空気と氷華の作る冷たい空気を無理やり合成し、積乱雲を作る。それをまるで乱気流のように激しくぶつからせポインターに集中させる。一度は諦めた広域必殺技。でもそれも上鳴が託してくれたおかげで気にする必要がない。緻密なコントロール、生じさせる強い個性、それらを持ち得て初めてそれは形になった。


白魔・乱流陣フリーズン・ヴェルト!!!!」

氷華が放ったそれはマキアの左腕に直撃し、激しい雷を伴った。緻密に、確実に綻んでいくそれを内側から壊し続けた結果、これが決定打となり、マキアの左腕が落ちかかる。焦る連合もジーニストが抑えてくれている。この機を逃さんとグレイズ、波動が猛攻を仕掛けた。


氷槍白蓮撃グラニーゾ・ロータス……!!」
ねじれる洪水グリングフロッド!!」

そしてついに、とどめとばかりに縛り上げたジーニストのそれがマキアの左腕を落とした。
けれどふいに、荼毘が波動を、氷華を庇ったグレイズを焼いた。


「グレイズ! 波動先輩!!」
「ははは! 大変だエンデヴァー!! まただ! また焼けちまった! 未来ある若者が!! かっこいいヒーローが!! お前の炎で!!!」

そして最悪なことにここで死柄木がマキアに命令を下した。左腕が落ちてもなお凶悪なマキアを止めんとジーニストが無理をしている。ここでニアハイエンドが現れる。まさに絶望的な状況である。今満足に戦えるのは氷華くらいのものだろう。氷華は自分の役目を果たさんと前へ踊り出た。

やれる人間がやる、氷華だけが動ける。四体を一人で相手取るのは無茶がすぎたがそれでも氷華は己の使命に忠実だった。ふいに一体が氷華の背後を取り、長い髪をひっぱった。突然のことに対応が遅れた氷華の腕を引き千切らんとものすごい勢いで掴んでくる。残りの三体も迫ってくる。あまりの痛みに悲鳴がこぼれた。それを見た爆豪が怪我を厭わず突っ走る。もう瀕死だ、満身創痍もいいところだというのにそれでも気づいたら走っていた。


俺の女そいつに触んじゃねぇ!!!」

氷華が無残に散らされるのを酷い悪夢のように感じた。そうはさせないと爆豪は記憶を辿る。緑谷を助けたときの爆破を思い出す。あの爆破を、また――氷華に触れる。
その瞬間通形が現れた。NO.1に最も近い男の復活であった。山荘から連絡が入ったのを受け援護にきてくれたのだった。通形は氷華を縛っていたニアハイエンドをぶっ飛ばしてくれた。


「おい!! 無事か!! なんともねェだろうな!!?」
「へ、へいき……!」
「ったく心配させんじゃねェクソがッ!!!」

爆豪がものすごい顔で氷華の安否を確認する。氷華は無事だった。掴まれた腕も髪も痛くてしょうがなかったが無事だった。それより爆豪の方がずっと重傷である。それでも立ち向かっていた。ニアハイエンドをジーニストに近づけさせまいとみんなで戦った。
爆豪の姿を視認したジーニストが口に出す。


「随分度胸のあるお嬢さんだ、大事にしなさい」
「うっせェ! ンなことわかってる!」
「そうか……世界そとは見えたか? バクゴー」
それ・・は仮だ。あんたに聞かせようと思ってた! 今日から俺はぁ……大・爆・殺・神ダイナマイトだ!!」

皆が一様に微妙な反応をする中、氷華とグレイズだけはかっこいいだいい名前だと絶賛していた。似た者親子である。ニアハイエンドをいなし続ける、マキアを縛っているジーニストが要だった。けれど酷使しすぎた繊維がついに切れてしまった。慌ててジーニストが立て直そうとするもマキアのが速い、けれどその瞬間NO.1ヒーローが、エンデヴァーが立ち上がった。ボロボロの身体で、それでもマキアに重い一撃をいれてくれたのだ。

ついにマキアが気絶した。麻酔が、麻酔が効いたのだ。山荘で後衛部隊が頑張ってくれた麻酔が、たくさんのヒーローがマキアを翻弄し、消耗させ、削ってきた。それがやっと繋がれた、実を結んだのだ。


「この場で麻酔の効果が表れたこと……! きっと偶然ではないハズだ……多くの者が少しずつ強大な此奴を削り効果が表れる程に弱らせたのだと、私は信じる……! 一本は細くとも縒って連なり縄となったのだ。どれか一本ほつれていてもこの結果は生じ得なかったと! 私は信じる」

ジーニストの言葉に全面同意だった。希望は繋がれている。受け身も満足にとれない爆豪を庇うように氷華が前へでる。波動もグレイズも負傷している、氷華も先ほどニアハイエンドに両腕の骨を折られている。比較的無事なのは飯田、通形だけだった。それでも爆豪より、波動やグレイズより氷華の怪我は軽かった。三人がまだ頑張っているのにへこたれるわけにはいかない、常にプルスウルトラで今の自分を超えていく。

Mr.コンプレスが捨て身の脱出を試みた。それを察知した通形が行ってくれた。氷華は通形が抜けた分を埋めようとニアハイエンドの前へ出る。行かせない、行かせるもんか。けれど氷華のことなど目に入っていないかのように通り過ぎるニアハイエンドに負けじと食いついていく。死柄木あいつを叩くしかない。
まるで赤子の手をひねるかのように簡単に地面にたたきつけられた。肺が痛い。肋骨が折れて刺さってる。最初にマキアに握られて弱っていたところにきた傷だった。

全面戦争――その日ヒーローは敗北した。

 


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