爆豪の言っていた置いていけないものが何なのか薄々察したのは、爆豪にグレイズと連絡がとれるかと聞かれてからだった。普通にとれていたため、それを伝えたら「じゃあグレイズは外れだな」とだけ返される。
事情はよく知らなかったが、緑谷が雄英高校を去ったらしい、退学でこそないが文字通り姿を消したという。


「緑谷くん……死柄木に狙われてた。何かあるの?」

氷華の疑問に対し爆豪は沈黙だけを返した。それに氷華は言えないこと、言いたくないことなのだと察し、それを尊重するように笑ってこくりと頷いた。
それに爆豪がふっと優しい目をした。氷華の察しの良さと優しい気遣いが爆豪には好ましかった。


「あのバカは俺らが連れ戻す」
「じゃあ、緑谷くんが帰ってきたらお菓子を作ってもっていくね。疲れてるだろうから、甘いものがいいと思うの」
「泣いて喜ぶだろうな」

爆豪の言葉に氷華は「だといいな」とふわふわ笑いながら何がいいかな、とお菓子の名前をあげながら指を折っていた。その豊富なレパートリーに軽く相槌を打ちながら爆豪が口をはさんだ。


「……俺にも作れよ」
「もちろんっ」

素直な氷華のふわふわとした表情に爆豪も癒される。
けじめをつけなければならないと思う。自分が緑谷にしてきたことも、この可愛い女のことも。
そうして爆豪たちA組が緑谷を連れ戻すに成功するのは数日後のことだった。







「すみませーん、白雪です。緑谷くんいますかー?」
「えっ僕!!?」
「そうそう、緑谷くん。おかえりなさい! 大変だったね。よかったらこれ食べて?」

ふわふわとした表情と口調で入ってきた氷華は爆豪に話していた通り、甘いお菓子をたくさん持ってきていた。
共有スペースのテーブルに続々と並べられるお菓子に緑谷も感嘆の声を上げる。気づいた八百万が紅茶をブレンドしてくれて、氷華にも座るように席を整えてくれたのでお礼を言っていると、そこに風呂からあがってきた爆豪が怒りながら現れた。


「氷華、来るんなら連絡しろ! 外もう暗ぇだろうが!」
「ごめんなさい、すぐそこだからいいと思って」
「まだ夕方じゃん? 爆豪過保護すぎんじゃない?」
「もうすぐ19時だろうが夜だわ!」
「爆豪意外とそういう感じなんだ。てか氷華って……あんたたちついに?」
「えええ!? そうなのかっちゃん、白雪さんおめでとう!!」

無邪気に二人がついに付き合ったと思った緑谷はそれはもう祝福した。けれど爆豪が「まだだわ!」といったところで「え!? まだなの!?」と驚く。それに舌打ちを一つして、爆豪が「こいつに言わなきゃなんねぇことあんだよ。けじめつけねぇとな」とかなり深刻な顔で氷華を外へ連れ出す。
ただならぬ気配に心配になったA組はこっそり物陰から様子をみることにした。


「緑谷くん思ってたより元気そうでよかった……」
「風呂入れ殺したからな……ちったぁマシになっただろ」
「ふふっ、爆豪くん心配してたもんね」
「あ? ……別に」

完全に心配していたし、心配していたことを完全に否定もしない爆豪にやっぱりなんか変わったなと氷華は理解する。緑谷に対してあった刺々しさがなりをひそめていた。


「爆豪くんが置いておけないものって……緑谷くんのこと?」
「……おう」
「緑谷くん関連で何か私に話さなきゃいけないことがあるんだ……?」

これは意外だなと氷華も思った。病院で爆豪と話したときは緑谷が意識不明のままであったし、てっきり緑谷となにかあって、それを解決するまでは他のことは考えられないといったことだと思っていただけに、話さなくてはならないことというのは意外だったのだ。
爆豪は深呼吸をひとつすると、意を決したように告白する。


「俺はおまえが好きだ。女として惚れてる。でも付き合うとかその前におまえに話さなくちゃなんねぇことがある」
「……爆豪くん……?」
「俺はおまえが思ってるほどいいやつじゃねェ、今から言う話ちゃんと聞いてからそれでも俺が好きか考えろ」

そういって前置きして爆豪が話し始めたのは、緑谷と爆豪の幼少期からの歪んだ関係についてだった。より具体的に、何を言って何をして傷つけてきたのかを鮮明に語る。繊細な氷華にはだいぶショッキングな話だった。中学のときの質の悪い冗談だったとはいえ自殺教唆なんてまったくもって笑えない。正直ヒーロー志望とは思えない所業であった。
一通り爆豪が話し終えたとき、氷華は小さく息を吐いた。心を落ち着けるしかなかった。


「爆豪くん……正直ドン引きだよ。緑谷くんに対して変なのはわかってたけど、まさかここまで歪んでたなんて……」
「出久は俺の先をずっと行ってた。それを認めたくなくて、自分を勘定に入れねェまま他人を救けようとするところが不気味で怖かった。自分が理解できない未熟さを棚上げしていじめた。俺はそういうどうしようもねェ奴だ」

真っすぐ氷華の目を見て話す爆豪に氷華も目をそらせない。いろんな気持ちがないまぜになっていた。
どうしてそんなことしちゃったの、間違ってるって気持ちも、爆豪は氷華が言葉に出さずともちゃんと答えてくれた。その答えもまた爆豪勝己なのだ。どこまでも真っ直ぐだ。曲がるときも真っ直ぐだ。そもそも言わずに付き合うことだってできたのに爆豪は話すことを選んだ。本当に真っ直ぐな人だった。そんな爆豪だから、氷華は焦がれたのだ。


「困っちゃうな……爆豪くん、わりとかなりすごいことしてるのに……それでも私――あなたが好き」

白雪氷華は知っている。爆豪勝己という人となりを。いつでもどこまでも、自分という人間の心に正直なのだ。正直に叫ぶ人なのだ。氷華が最初に焦がれた完膚なきまでの1位を叫ぶそれも、畏怖という感情のまま遠ざけようと威嚇するそれも、どちらも爆豪勝己なのだ。
爆豪が氷華の告白に一瞬動揺する。けれどそれでも爆豪は真剣に言葉を紡いだ。


「俺の弱かったとこ、ダメだったとこ、どうしようもねェところ、全部ひっくるめて受け止めてくれ。んでその上で……俺の彼女になれ。そんで俺をおまえの彼氏にしてくれ」

爆豪の赤い目が氷華を真っ直ぐに射抜いていた。
彼女になれと命令するのに、彼氏にしてくれと懇願する。真っ直ぐで、繊細な爆豪らしい告白に氷華は笑って答える。


「喜んで。爆豪勝己くん、私をあなたの彼女にしてください」

爆豪の胸に飛び込んだ氷華を、今度こそ、今度こそ爆豪は抱きしめた・・・・・。長かったその我慢に思わず爆豪が呟く。氷華と出会ったのは体育祭でまだ一年も経っていないのに、まるで生まれる前からそうしたいのを我慢していたような気にすらなった。


「ずっと……おまえを抱きしめる権利が欲しかった」
「私も……ずっとそうしてほしかったよ。今までの分もたくさん抱きしめて、もう離さないでね」
「誰が離すかボケ、やっとだわ。やっと……俺のもんになった」
「ん……大好きだよ、勝己くん」
「…………俺も」

どこからどうみてもハッピーエンドのそれに、見ていたA組の生徒たちも涙を流す。まさか爆豪が緑谷との因縁まで話すと思わなかったのだ。誠実なその姿に胸を撃たれた。

だがしかし、大人数でむせび泣くその姿に気づかれないはずもなく、爆豪に見つかったA組の面々は爆豪の照れ隠しの制裁を受けることになるが、緑谷があまりにも「かっちゃんっ、よかった……! ひっく、本当にっよかったぁ……!」と泣くものだから興がそがれた。
氷華が持ってきた大量のお菓子もあり、せっかくだからと緑谷お帰りと爆豪&白雪おめでとうの会を開き、夜遅くまで騒いでいた。この日はハイツアライアンス始まって以来最も賑やかな夜だったという。

 


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