もう彼女だもの
「勝己くん……お部屋にお邪魔してもいい……?」
爆豪は氷華のその一言に胸がドキリとしたのを感じた。期待するように可愛い顔で上目遣いに伺ってくる氷華に、爆豪は小さく息を吸って、吐いて、意を決して了承の返事をした。
嬉しがって抱き着いてくる氷華にいつもより心なしか恐る恐る触れる。今まで部屋に来たがったり、逆に来て欲しがったことは何度もあった。その度に付き合ってないということを大きな理由にして拒絶していた。寮といえど完全プライベートな空間である。間違いなく二人っきりのその状況に爆豪は少し頭を抱えた。
「おじゃましますっ」
「……おー」
氷華が自分の部屋にいるという状況に爆豪は落ち着かなかった。当然扉は閉めるが……閉めるがそれでもう完全に個室で二人っきりなのだ。好きな女で自分の彼女とプライベート空間で二人っきりというのは、爆豪とて少し緊張するものだった。
「勝己くんのお部屋お洒落で素敵……」
「普通だろ」
「ううん、なんか勝己くんらしくて、勝己くんのお部屋にいるんだなって実感しちゃう」
「……そーかよ」
照れくさいったらなかった。あれだけ部屋の行き来を望んでいただけあって、氷華が本当にうれしそうにするものだからむず痒いったらない。氷華が来るとわかってから購入したクッションに氷華を座らせる。来客を迎える予定などなかった爆豪が氷華のために用意したものである。氷華用であるそれは爆豪の部屋にはずいぶん可愛いクッションだった。
「ふふ、用意してくれたの嬉しい」
「うっせ、彼女その辺に座らせられっか」
「えへへ、彼女だから勝己くんのお部屋にも入れてもらっちゃった」
ふわふわ浮かれる氷華が甘ったるい顔をして見つめてくる。ハグのおねだりである。もう表情だけで何が言いたいかを完全に察することができるくらいには恋人になってから時間が経っていた。そのおねだりに応えてやるべく、近寄ってぎゅっと抱きしめる。途端に嬉しそうに笑い声をあげて甘える氷華が可愛かった。
寮生活とだけあって常に人目が付きまとうため、爆豪から抱きしめたりするのは今まであまりなかった。でも部屋である。部屋なのだ。自分の部屋に可愛くて仕方ない彼女がいる。爆豪だってもう抱きしめたくてしょうがなかった。
「勝己くんがぎゅってしてくれるの嬉しい」
「もう黙れって……キラキラすんのも大概にしろや……」
「やだ、可愛いって思ってほしくて必死だもん。勝己くんが大好きなんだもの」
すりすり擦り寄ってくる氷華にもうなんか色々限界だった。滑らかな髪を撫でて気持ちよさげな声をだす氷華の顎に手を寄せ、ぷるんとした唇をつんと指でつつく。それだけで何をされるかわかった氷華が赤い顔を上向かせた。
「ん……」
ちゅっと軽く口づける。一度したらまたしたくなり、何度も何度も口づけた。氷華の腕が爆豪の首に回る。わずかな隙間がじれったくて、爆豪が氷華の細い腰に腕を回して、膝の上に抱き寄せた。
「氷華……」
「ん……勝己くん、すき……」
返事の代わりにきつく抱きしめる。華奢な身体が折れそうで、最初は抱きしめるのも手探りだったそれが、氷華のスキンシップ好きのおかげでちょっと痛いくらい抱きしめると氷華が喜ぶとわかってからずっとこの力加減だった。頬を寄せ、髪を何度も手櫛で整えるかのように撫ぜる。氷華の髪が好きだ。雪のように白くて、氷華の性格を表すかのように滑らかにくるりとしたそれが、手に馴染むように触り心地のいいそれが爆豪は好きだった。
「あー……だめだ部屋だと我慢効かねぇ……クソッ」
「私はいっぱいいちゃいちゃできて嬉しいな……」
「バカ。おまえあんまそういうこと言うんじゃねぇ」
爆豪だって健全な男子高校生なのだ。かわいい彼女と二人っきりでいちゃつこうものなら、やっぱり次第に次に進みたくなるものである。氷華は少し緊張した面持ちで、それでもぎゅっと抱き着いて口にした。
「……勝己くんがいっぱい触ってくれるの、すごく幸せなの……」
「……おまえ、それそういう意味でいっとんか」
「…………う、ん」
いよいよ爆豪は頭を抱えた。とんでもない、本当にとんでもない彼女である。自分は色々試されている気さえする。爆豪は察しのいい男なのでこれだけで氷華がもっと深い関係になっても構わないとOKサインを出したことを悟った。
爆豪はそれはそれはながーーい息を吐き。
「氷華……」
「……ん」
爆豪の声に真っ赤な顔を上げた氷華の鼻を軽く摘まんだ。
「ふにゃっ」
「ばーーか。誰がんな簡単に手ェ出すかっての」
「な、なんで……? 魅力なかった……?」
「んなわけがねぇ」
魅力がありすぎた。今日も絶好調に可愛い彼女は日々可愛いを更新している。食い気味に否定した。むしろ可愛すぎてむかついてくる。おまえあんま可愛くなんじゃねぇこっちは色々大変なんだよ。
「そんな簡単に出せるもんじゃねぇんだよ。そんな簡単に出せるんなら、あんな告白してねぇ」
「……勝己くん……」
付き合うまでだってそりゃあもう氷華のことを色々考えた。自分の中で好きだと認めるまでに時間がそれはもうかかったし、自分の全部をひっくるめて受け止めてほしいとすら願った女である。そんな簡単に手は出せない。手を出していい女じゃない。もっと大切にして、氷華に相応しい場所で、相応しい自分でなきゃならないのだ。
「おまえは黙ってもうちょっと俺に大事にされてろ」
「ふふっ、ずっと一緒だもんね」
「ったりめーだ。嫌っつっても聞かねぇからな」
「そんなこといわないもん」
そんなことを言い合いながら二人はしばらく抱き合っていた。
そしてこれを機に部屋の行き来をするようになり、爆豪は氷華の甘い誘惑との戦いが始まる。仕方ない、だってもう彼女だもの。
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