あなたこそ私の運命
グレイズが説明している間、氷華は別室でイレイザーヘッドこと相澤と一緒に待機していた。氷華に少しでも個性暴走の兆しがあれば相澤が個性で打ち消してくれているのであった。
説明を終えて一人ずつ氷華が面談していくのだが、現在これといった人はいなかった。運命ならば何かしら感じるはずである。けれど氷華の長年氷雪で冷え切った心身を温めてくれるなにかには出会えていなかった。
おそらく大本命であっただろう、半冷半燃を持つ轟焦凍にもそれは同様で、轟が左の個性で氷華の冷え切った身体を温めようと気遣ってくれたのだが、それでもその炎になにかを感じることはなかった。てっきり自分は母親と違い、自分にはない熱に焦がれるとばかり思っていたのだがそうではなかったのかもしれない。けれど轟はとてもいい人で、運命ではなかったけれどいつでも力になると連絡先を教えてくれた。確かに氷華の暴走する氷雪に轟の炎はとても助けになってくれるだろう。彼はいいヒーローになると氷華もその優しさを好ましく受け取っていた。
その人が現れた瞬間、何か予感を感じた。
赤い三白眼も、ツンツンしたクリーム色の髪も、全身から溢れ出る熱を確かに感じた。
「……おい、じろじろ見んな。居心地わりぃだろうが」
「……あ、ごめんなさい……白雪氷華です。ご足労いただきまして感謝いたします」
「爆豪勝己。単刀直入に言うがお前のその氷雪の個性とやら見せてもらおうか」
「え……!?」
あまりに危険な要求に氷華は驚いてしまう。氷華は個性のコントロールができない。小さい頃はここまでじゃなく、年中雪遊びをしていたけれど、いつからか個性が急成長を遂げ自分では制御不能になってしまった。家を壊したことも一度や二度ではない。
「おい、爆豪」
「ンだよ。こいつが制御できねェのって使い慣れてねェからだろ。まず使わせてどんなもんか理解する、そんでそこからてめーの個性がどんだけ幼稚なもんかわからせてやんだよぉ!」
「よ、幼稚……?」
「……確かにこのお嬢さんは個性に関するテクニック何て皆無だ。だがしかし……自然界に於いて純粋な力ってのは脅威だぞ」
「ハッ、ンなことわかってらァ! ぶっ潰し甲斐あんじゃねぇか」
ギラっとした眼光が氷華を貫いた。まただ。また何かを感じる。トクン、と胸を打つ何かを感じた。氷雪の個性が暴走するにつれ心も凍り付いたように何かを感じることが久しくなかったのに。氷華は今確かに何かを感じたのだ。
こうなったら爆豪は聞かないとわかっている相澤は、まぁ爆豪の言うことも一理あるのと、もしこれで爆豪が氷華の運命であったなら万々歳であることから、外に移動して個性を使うことになった。もし危なくなっても相澤が止めてくれると約束してくれたのもあり、氷華が意を決して個性を解放することにした。
「おら! どっからでもかかってこいやーー!」
「……どうか怪我をしませんように……」
そういって解放した氷雪は最後に暴走したそれより威力を増していた。やはり年月が経つにつれ強大になっている。吹雪で何も見えない、生成したつもりもない巨大な氷雪の龍が爆豪を襲わんとしていた。氷華は思わず「逃げて……!」と口にした。季節は夏だった。夏だったのに辺りは真冬どころではなかった。氷点下である。南極のそれと化したフィールドで爆豪はそれはもう不敵に笑っていた。
「いいもんもってんじゃねーか!! ぶっ殺し甲斐があンなぁ!!?」
「え……」
「逃げてだぁ? 誰が逃げっかよこんなチャンスそうそうねェ!」
そういって爆豪は縦横無尽に駆け回る。心の底から楽しんでいた。ぶっ壊してもぶっ壊しても回復し続ける氷龍も、全身凍てついてくるこの寒さも、すべてが逆境で爆豪はただただその逆境を楽しんでいた。間違いなく氷華の氷雪は氷系個性の中でトップであると断言できる。その壁を超える楽しみにひたすら酔いしれていた。
「……すごい……」
氷華はそんな爆豪を見ていた。真っ向から自分の個性と立ち向かって、それでも不敵に笑ってる。派手に散る火花が、爆発が、氷華の凍てついた心を少しずつ溶かしていく。
「
爆豪の必殺技を前に氷華の氷雪が破られる。あまりにも綺麗だった。あまりにも鮮烈な熱だった。ああ、この熱は、これは――
「溶けちゃう……」
そう呟いたときにはもう行動していた。身体が勝手に動いた。雪女の本能が何をすればいいのかわかっていた。どんなもんだ! と得意げな爆豪のところへ文字通り飛んで行って、それからその頬に優しく触れて……唇へキスをした。
「…………は?」
「ほう……爆豪が運命だったか」
何が起きたのか何が何だかわかっていない爆豪を後目に相澤が暢気にまとめた。数秒後意味と状況を理解して「クソ痴女が離れろおおお!」と氷華は押しのけた。けれど負けじと氷華も抱き着く。だってこの人だと決めてしまったから。
「これからよろしくお願いします! 私の運命! 旦那様!」
「……は!? 旦那ァ!!?」
「あれ? 聞いていないのですか……? 運命になった方は私と結婚を……」
「聞いてねぇぞ!? 誰が結婚なんざするかあああ!!」
「え、いやです! 私あなたじゃないと……!」
「知るかコラ離せええええ!!」
「いやですうううう!!」
氷華は必死だった。それはもう必死だった。初めて自分を焦がした熱である。運命は間違いなく爆豪だという確信があった。こっちも死活問題というのはあるが、それ以上にこの人と結婚したいという欲があったのだ。雪女の習性である。
離そうとする爆豪と離れまいとくっつく氷華の下にグレイズとジーニストがやってくる。
「おいジーニスト! 聞いてねェぞ!!」
「助けてお父様! 私この人じゃなきゃいやなの!」
「落ち着きなさい。まぁ、まずは無事運命が決まったようでなによりだ」
「これが落ち着いてられるかぁあああ!!」
「大・爆・殺・神ダイナマイト。言っただろう、これは正式な任務だと。そのお嬢さんを伴侶としてとりあえず接してみなさい」
「んだと!? ヒーローってのは結婚も好きに出来ねぇのかよおおお!?」
「えっ……誰か想う方がいるの……?」
途端にうるっと大きな瞳に涙を浮かべた氷華に、反射的に「いねェわ!!」といってしまう。言ってしまった後でくっそ噓も方便だいるっていっときゃよかったと思うも、「よかったぁ!」とぎゅうっと抱き着いてきた氷華にくっそがあああと思うほかなかった。
こうして見事グレイズやジーニスト、意外なことに相澤からも援護射撃があったおかげで爆豪は氷華を嫁として扱うことになってしまった。無理やり嫁を押し付けられたのである。これから爆豪はそれはそれは氷華に振り回されることになるのであった。
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