嫁(仮)を無理やり押し付けられてすぐ善は急げとばかりにこの土日、氷華の実家で爆豪は過ごすことになった。


「いやなんでだ!!」
「これも任務だ。運命が見つかったのなら次のステップに移る。お嬢さんを安定させるためにも住み慣れた環境で過ごしてもらう必要がある」
「よろしくお願いします、旦那様っ」

それはそれは嬉しそうに抱き着いてきた氷華に、爆豪はもう苛立ってしょうがなかった。すっかり氷華は嫁として爆豪に接している。
この女見た目の儚さとは裏腹にぐいぐいくる。とにかくぐいぐい来るのだ。爆豪のライフが著しく減っていた。そこら辺の敵を相手にするより疲れる相手だった。


「だ・れ・が旦那様だよ……俺ァ今でも了承してねェ……!!」
「でも私はあなたじゃないといやです……他の人はいや……」
「男を見る目があるのだけは褒めてやるけどなァ……結婚ってのには双方の同意が必要なんだよ知ってるかァ……!?」
「はい! なので私の命の保証ができるその間だけでもお願いします……! 運命なんですもの、結ばれた方が回復も早いはずです」
「ああ゛!? とかなんとかいっておめぇが甘えてぇだけじゃ――」
「氷華の言う通りだ。雪女にとって運命というのは大きな意味を持つ。運命の伴侶を得た雪女というのはあらゆる面ですごいものだ。どうか娘の命を助けると思ってここは折れてくれないか大・爆・殺・神ダイナマイト」
「…………命に係わるってんなら仕方ねぇ、わーったよ。その代わり命の保証が出来次第そっこー離婚だかんな!!」
「ああ、了承した」

言質は得たかんなと吐き捨てた爆豪に、グレイズと氷華はこっそりと笑った。雪女が運命を定めたのなら最後、結ばれると知っているのだ。ジーニストもこの話は知っており、爆豪の行く末を思い思わず笑ってしまった。想像できてしまったのだ「クソがッ! 結局おまえの思い通りか!!」と騒ぐ未来が。
こうして白雪邸での生活が始まるのであった。







「――て……きて……起きてください、旦那様!」
「……あー……?」
「おはようございます、旦那様っ」

起きてすぐ、寝ぼけ眼で見えたのはやけに顔の整った女の顔だった。なんだこいつ、とぼんやりした頭で考えていると、旦那様と呼ぶ声にそういえば嫁を無理やり押し付けられたんだったと思い出した。
昨夜全力で拒否るも、
今はちゃんと夫婦なのだからと押し切られて一緒に寝る羽目になったのだ。せめてもの抵抗でだだっ広い寝台の端っこに背を向けて寝ていたが、氷華は気にした様子もなくぴっとり背中に張り付いてきた。相変わらず見た目詐欺の積極性である。冷たい身体に文句の一つ言いたいところだったが、白く華奢な手首と足首に着いた、氷華に不似合いな金属に文句を言う気力をなくした。個性が制御できないため、個性を制御するためのアイテムをつけられているのだ。四六時中つけてなければならないとうそれに怒る気も失せた。

間違いなく、氷華の甘えたがりは人との交流に飢えているという理由もあったからだ。母親は幼い頃に病死、父親であるグレイズは人気ヒーローということと、その個性柄極寒地域への派遣も多い。だいぶ出来た娘だったようで、幼い頃からグレイズの負担になるまいと我慢ばかりをしていたらしい。その結果心配かけまいと個性の不調を隠し続け、ある日限界がきて制御不能に陥ってしまった。グレイズの想像以上に強い個性を引き継いでいた氷華は、母親から継いだ雪女の本能に振り回され続け今に至るという。成長と共に落ち着くどころかその個性が肥大していった結果だろう。この個性のせいで満足に人と交流してこなかった氷華が、初めて感情を揺れ動かした爆豪に特別な感情を抱いてしまうのは仕方のない事だった。


「……おい、何しようとしとンだ」
「? なにっておはようのキスを……夫婦の仲良しの秘訣なんですって」
「しねェ。ったく油断も隙もねぇなおまえはァ……!」
「私はしたいです。ね、しましょう? 旦那様」

身を乗り出してくる氷華に爆豪はまた青筋が立つのを感じた。爆豪から見ても氷華の面と個性だけは特級品であった。だがそれとこれとは話が別である。至極甘い雰囲気でしなだれかかってくる。完全に嫁気取りである。確かに命の保証ができるまではと期限付きで了承してしまったがいくらなんでもぶっ飛ばしすぎである。


「おまえその旦那様ってのやめろ! キメェ!!」
「じゃあ勝己くんで! 勝己くん勝己くん!」
「ああ゛もうそれでいいけどうっせぇ! 聞こえとるわ! なんだ!」
「えへへ、だーいすきっ」

そういって抱き着いてくる氷華に、もう爆豪は勘弁しろやという気持ちでいっぱいだった。運命がどんなもんか知らないが、氷華にとってものすごく意味があることだというのは理解している。それ故に爆豪に抱いている氷華の好意も本物だとそこは疑ってないが、あまりにも急展開で頭が理解することを拒否している。なんせ展開がどいつもこいつもあまりにもふざけているからだ。

爆豪は小さい頃から女にも容赦なかったゆえに義理チョコ一つもらったことがない男であった。それこそ雄英に入って峰田という性欲の権化を始めとした催促のおかげで女子一堂――プラスA組一の料理上手砂藤――からまとめてもらったことはあるが、あれは勘定に入らないだろう。正直ここまで熱烈に女子に好かれたことなどなかった。うぜぇともめんどくせえとも厄介なことになったとも思うが、素直に自分のことが好きだとぶつかってくる氷華に対し、まんざらでもない何かが欠片ほどは芽生えていたのだった。


「わーったから、どけ。朝飯にすっぞ」
「もうできてるよ。あのね、朝からカレー作ってみたの。辛くしたから勝己くんの口に合うといいな」
「……そうかよ」

それに氷華は嫁としてのスキルが高かった。昨日の夕飯はラザニアだったがなかなか美味かった。辛いものが好きだと知った氷華がさっそく辛い物を作ってくれたのだろう。実際口にしたカレーはスパイスから作られたもので大層手が込んでいた。辛さも爆豪の満足するレベルに達しており、この女やるなと思わず舌を唸らせるのだった。ランチラッシュと砂藤、八百万の料理や菓子、紅茶で耐性はついていたはずが、胃袋は確実にこの土日で掴まれてしまっていた。恐るべし女子力、雪女の習性である。

だが学校が始まるのもあり、白雪邸からハイツアライアンスへ戻れるということに爆豪はほっとしていた。ようやくこのぶっ飛んだ嫁から解放されるのだ。今後も行き来や土日の泊りはあるだろうが、平日を寮で過ごせるというのは爆豪にとってだいぶ精神的余裕をもたらした……のだが。







「なっっっんでおめーがここにいんだ!!?」

まさかまさかの寮にまで押しかけられた。学校がある日はなんと寮で過ごすことになるのだという。氷華の特性が特性なだけに部屋まで変えられて一緒に過ごすことになってしまった。


「ふざけんな何で俺が部屋まで引っ越さなきゃなんねンだ!!」
「そうはいっても爆豪、彼女はおまえと一緒にいることで個性の制御を少しずつ身体が覚えていっている状態だ。ここで引き離せば効率が悪すぎる。何せ彼女には時間がない」
「んああああ!!」
「勝己くん、それに皆さんもお世話になります……!」

時間がないと言われれば爆豪はどうしようもなかった。土日も個性の様子を見たが相変わらずであったし、ぴったりとくっついてくる身体が氷のように冷たく、ぞっとしたというのもある。体温は冷たいと感じる程元から低いらしいが、それでも個性が暴走しているのもあって自分でも寒いと感じているらしい。本当に時間がないというのは理解していた。

グルルルルと犬のように唸る爆豪をよそに、A組のみんなが次々に挨拶していく。みんな好意的であるそれに爆豪はいよいよ腹をくくるしかなかった。中でもインターンで招集されていた男子は氷華のことをかなり心配していたし、中でも轟は初対面から好意的なのもあって「何か困ったことがあったらいってくれ。いつでもあっためてやるから」と炎を出している。なんでおまえが運命じゃないんだよおまえの方が意欲的だろぉおおと爆豪は口には出さず歯ぎしりをした。とんでもない押しかけ女房に爆豪は頭を抱える。唯一緑谷が「かっちゃん! がんばれ……!」とエールを送ったのだった。

 


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