俺のじゃないとダメなんか
氷華と部屋を一緒にするということもあり、職員寮の方に爆豪は移ることになった。氷華に何か異変があったときにすぐに対処するためである。あと単純に部屋の広さが足りなかった。前の部屋でも二人で暮らせないこともないが二人だと狭い。そういうこともあって広めに作られた来客用の部屋に移ることになったのだった。
「おまえ荷物多すぎだろ! どうなってんだ!」
「多いかな? 普通だと思うんだけど……」
「おまえ自分の実家が普通だと思うなよ……本当に必要なもんだけ厳選しろ。部屋がせめぇ」
「はぁい」
筋金入りのお嬢様で、長く人と関わることのなかった氷華の常識はぶっ飛んでいた。あまりにもお嬢さんとしたそれに、早くも爆豪は気が遠くなるのを感じた。まず氷華には常識というものを一通り教えるところから始めなければ生活がままならない。今までさぞグレイズに甘やかされてきたであろう氷華を思うとめんどくさくて仕方なかった。
「勝己くん、これは持ってってもいい?」
「あー? ぬいぐるみか。……でけぇな」
「お母様がプレゼントしてくれたものなの。持っていきたいな」
「……それだけだぞ。他のは送り返せ」
「うんっ、ありがとう!」
正直デカくて邪魔だったが、亡き母親からのプレゼントだっていうのなら爆豪とて鬼ではないから許可を出した。幼い頃に病死したというわりに、ずいぶん綺麗なままであるそれによほど大事にしていることが伺えた。
それからも爆豪に言われた通り本当に必要なものだけを吟味し、氷華は見事爆豪からOKサインをもらうことになった。
「随分コンパクトになっちゃった」
「そんだけ多かったんだよ。いいか、この部屋が二人で使うにはちょっと広いくらいの部屋だ。おまえん家は規格外なんだよ。これを機にちったぁ常識を学べ」
「うん、わかった。えへへ……このお部屋ならどこからでも勝己くんの姿が見えて嬉しいな」
「……そりゃよかったな」
氷華の実家は色々と設備が整っていたが何せ広すぎた。爆豪を探して随分走り回っていた氷華を思い出して、まぁおまえからするとこの部屋メリットしかねぇかもなと思いなおした。逆に言うと寮にいる間は氷華の相手をしないといけないということになるが。
爆豪たちは普段の食事や入浴はA組の寮で済ませることになっている。人と交流してこなかった氷華をここで人に慣らせる目的もあったのだ。それにA組の面々も氷華を心配していたため顔を定期的に見せる必要もあった。
「寒くねぇか? 温度は大丈夫か?」
「大丈夫、あったかいよ。ありがとう轟くん」
「それならいい」
爆豪の隣に座った氷華の隣で、轟が氷華を温めようとしていた。依然として個性が暴走している氷華は、吹雪などをサポートアイテムで食い止めてはいるが、身の内から凍えるその冷えはどうにもならなかった。本来はそれに耐えうる身体を備えているはずだが、雪女としての覚醒がいまいちのためまだ寒さに慣れていないのであった。
爆豪は轟の献身的な様子にやっぱ運命間違えてんだろと思わずにはいられない。氷華には熱が必要だ。けれどそれは自分じゃなくても轟にだってできることなのだ。なにせ半冷半燃である。個性の組み合わせ的にもお似合いであったそれだというのに、どういう因果か氷華は爆豪じゃないとだめなのだという。
轟があっためている間も爆豪の手を握って離さない氷華にため息がでた。
「勝己くん……?」
「ンだよ」
「ため息ついてた。何か悩み事?」
「そーだな、なんで俺がおまえの運命なんか考えてたんだよ」
「何でって……勝己くんが私を溶かしちゃったからだよ?」
「あ? んだその溶かしたって。おまえ俺がしらんだけで溶けたことあったんか……よく生きとったな」
「あっ、溶けたっていうのは比喩というか……初めて私の心に火をつけたのが、勝己くんなの」
「ンだそれ」
まったくもって意味はわからなかった。氷華はぼんやりとした少女であったらしいのは、グレイズから聞いている。反応が薄いというか、酷く大人しい性格だったと。それが今では爆豪にはわがまま三昧である。グレイズにも頼み込んで援護射撃を頼むなど確かに性格の変化というか、やけに精巧な人形に命が芽吹いたかのような変化であった。
「氷華は爆豪が好きなんだな」
「うんっ、大好き」
「爆豪も氷華が好きだと思うぞ。よかったな」
「ほんとう……?」
「ちょっと待て勝手なこと言ってんな轟!」
「? お前ら仲良しじゃねぇか。仲良しなら好きだろ」
「別に仲良くなんざ――」
「うん、仲良し。勝己くんいつも優しいの」
「俺がいつ優しくしたよ……」
「勝己くんいつもあったかいんだよ。私をあっためてくれる」
思わず言葉に詰まった。あっためるといっても爆豪の個性は爆破であり、轟のように氷華の身体を温められるような使い方はできない。いやまぁ火を点けて焚火みたいなことはできるが、そんなんで氷華の身体は温まらない。
ベッドで氷華が寄り添ってくるときも、背中越しに回ってきた手を包んでやるくらいしかできない。けれど氷華はまるで宝物のように爆豪の手をとって頬にあてた。
「ほら、あったかい……」
あまりにも氷華が幸せそうな顔をするから、爆豪も何も言えなくなってしまった。ぐっと胸が締め付けられるのを感じる。轟が何かを察したように炎を消して「爆豪、あとはおまえがあっためてやれ」と去っていった。轟の炎の方がよっぽどあったかかったろうに、役に立ったろうに。
氷華の顔はあなたが一番だと雄弁に語っていた。
「おまえ……俺のじゃないとダメなんか」
「? 私は勝己くんのがいいよ。一番幸せで……あったかいの」
「……そーかよ」
なんだか勝てる気がしなかった。氷華が自分のことをあきらめるはずがないのもそうだが、ここまで求められるのも悪くないと思ってしまったのだ。そんなに俺じゃないとだめってんなら、少しくらい折れてやると色々経験して少し丸くなった爆豪は思った。
「俺がおまえを助けてやる。この俺が協力してやんだ、お前も頑張れよ」
「! うん……!!」
氷華を助ける。20歳になっても、それからたくさん年をとっても、笑って過ごせるように。そう決意を固めたA組寮のとある夜のことだった。
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