個性婚の弊害
「氷華、そのまま集中しろ! 出来てっからしんどくても耐えろ! プルスウルトラし殺せ!」
「ぷ、ぷるすうるとら……」
「更に向こうへっていううちの校訓だ!」
「さらにむこうへっ!」
今日は片腕のサポートアイテムを外しコントロールを試みていた。だいぶ苦しそうな氷華の姿に早く解放させてやりたい気持ちはあれど、そうするにはやはり少なからず無理を強いる必要があった。甘やかすだけなら簡単だが、それは氷華のためにならないのだ。サポートアイテム一つ外しただけで猛吹雪が吹き荒れるのだから、これをコントロールできないなら氷華に未来はない。
氷華のために氷華に無理を強いるのが現実であった。
「ううっ……寒いっ」
「爆豪、炎を……」
「轟は黙ってろ。おまえは泣き言いってんな! まだやれンだろうが!」
「でもぉっ」
「爆豪……! ヒーロー志望でもなんでもないんだ、そんな相手にかわいそうだろ」
「かわいそうでやめさせて、じゃあ死にましたじゃそれこそ話になんねェんだよ……!!」
炎を出してあっためようとする轟を止める。氷華が自分の氷雪を寒いと感じてしまっているうちはダメなのだ。それを平気にさせないといけない。寒さへの耐性はもともとグレイズ以上のものを持っているはずなのだ。それを寒いと感じるということは個性に慣れていない証拠だ。身体が一般人のそれより劣るから強すぎる個性が器からあふれているのだ。これに耐えうる器を完成させることが爆豪の目的だった。
「もうっ……だめ……!」
気絶するように落下する氷華を轟が救けるよりはやく爆豪が助けた。赤い跡が残る腕にサポートアイテムをつけなおしてやる。吹雪が収まるが一向に取れないサポートアイテムに焦りが生じる。四つもあるのだ。そのうちの一つ外しただけで大災害である。普通の生活を普通に送れない氷華が不憫だった。
「……そんな大事なら、もっと大事にしてやればいいだろ」
「あ゛!? 別に大事じゃねェ!」
「そんな大事に抱えといて何言ってだ。俺より駆け出すのはやかったじゃねぇか」
「……別にそんなんじゃねェ」
そんなんじゃないと言っているが爆豪だって自分の中で少しだけ変化が起きている心情には気づいている。けれど人生の伴侶とするかというと、そんな覚悟はないのだ。ただやけに好いてくる面と個性がすごい女。そんな認識で、ついでにわずかな憐れみを感じているだけだ。
「――で、いい加減詳しく話してもらうぞ、お義父さん」
「……お義父さんという覚悟が整ったことに喜べばいいのか、それともそうまでして私に話を聞こうという姿勢に呆れればいいのか」
今は辺境へと出張して忙しくしているグレイズを、ようやく電話で捕まえた爆豪は、嫌味たっぷりにお義父さんと呼んだ。一応期限付きとはいえ氷華と結婚した身である。お義父さんというのは間違っていなかった。ちなみにA組の面々も爆豪呼びというのはあれだからという理由で氷華を下の名前で呼んでいる。
「氷華のあの個性、いくらなんでも
「……本当におまえは聡いな。結論からいうと人体実験はされていない。ただあれは……個性終末論の体現者だ」
人体実験が爆豪の中で有力な説だった。それほどまでに一個人が持つには強すぎる個性だった。なんらかの外的要因がなければああはならないだろうと踏んでいただけに、そっちの可能性であったことに少なからず衝撃を受けた。それはもしかしてと思いつつ、そうはならないだろうという希望もあったからだ。
「個性終末論、イカれた野郎が発表した世代を経るにつれ個性≠ヘ混ざり合い深化し、やがて誰にもその力をコントロールできなくなるっつーあれか」
「そうだ。私たちは……長きにわたって個性婚を続けてきた家の出身だ。そして私と妻もそうして子を儲けた。その結果、氷華は氷雪……氷系個性の真髄に触れた。身体が個性に耐えられなかったんだ。人には過ぎた力だった」
「……別にあんたン家だけじゃねぇだろ、今でも個性婚続けまくってる古い家はあるはずだ。氷華の他にそういう人間でてきてねェのおかしいだろ」
氷華の個性は間違いなく氷雪系最強の個性だろう。世界中のヒーローを探しても氷華ほどの氷雪の個性を持つ人間はいなかった。でもだからといって個性終末論が体現されたとは思わない。
「原因はひとえに、私の家と、妻の家が氷系の個性だけにこだわり続けた結果だろう。そしてたまたま氷華が強すぎる個性をもって生まれた。一族の誰かが持っていてもおかしくなかったものをあの子が受け継いでしまった、それだけの話だ」
「そんでお義母さんは早くに死んで、お義父さんはヒーロー忙しくてそれどころじゃなくて、聞き分けがいいのを理由に放置してたら
爆豪は怒っていた。グレイズが子煩悩なのもしっているが、それは氷華に対する贖罪から来てるのではないかと疑っていた。氷華は普段から後ろ向きなことを言わない奴だが、それでも本人が一番不安で怖いはずなのだ。
サポートアイテムをじゃらじゃらつけられて、肌を赤くしているのを見て、苦しい思いをしながら個性と向き合うしかない氷華を見ていると、怒りが湧いてしょうがなかった。
「俺があいつをぜってぇ生かしてやる……!! お義父さんじゃなくて俺がだ!! だからあんたも物ばっか送ってねェでちったぁ顔見せにこいや!!」
「……驚いた、それが本題か」
「ああ゛!? あったりめェだろ! あいつの荷物多すぎなんだわ! どんだけいらねェもん送っとんだ!! くだらねェ土産選ぶ暇あんならさっさと帰ってこいや!!」
「(くだらない土産……)…………そうだな。ああ、そうするとしよう」
グレイズ、実はかなり不器用であった。ヒーローとして多忙なのもそうだが、そこで得たコネクションで氷華のために動いてはいるのだが、結果的に氷華のためにはなるものの、氷華個人との交流に時間を割かない人だったのだ。割きたくないわけではなく、ただ氷華のためを思うあまり氷華への実益にこだわりがちなかなりずれた人なのであった。
例えるなら風邪で苦しんでいる子供を近くで看病して元気づけたり、優しい言葉をかけたりせず、遠くの名医を全力で呼んで子供の風邪を今すぐ治せと言ってくるような人なのであった。爆豪はよく氷華は擦れずに育ったものだと感心すらした。
「要件はそれだけだわ! じゃあなお義父さん!! くれぐれも早く顔見せにこいよ!!」
「ああ……ありがとう」
切れた通話にグレイズは思う。娘の運命を見る目は確かだったのだと。グレイズにこんなに物おじせずガツンと言ってくる者はそうそういなかった。それは氷華に対しても同様で、きっと爆豪は氷華もビシバシ鍛えているのだと思う。運命が見つかってからも最悪を覚悟しなければならなかった。最悪にならないために世界をはしごしていたが……初めて大丈夫だと確信できた瞬間であった。
top