氷華に関して4点。爆豪が評価しているものがある。
1つは個性。規格外の氷雪はぶっ殺し甲斐があって大変よろしい。
2つ目は男を見る目。この俺を掴んで離さねぇのはめんどくさいが、その見る目は評価せざるを得ないと爆豪も思っている。
3つ目は料理の腕前。正直胃袋を掴まれた。爆豪が辛い物を好きだと知ってからは毎度激辛料理を作ってくる。今まで食べた激辛の中での一番を日々更新してくるのだ。
4つ目はその面。爆豪もこれは認めざるを得ない。今まで見た人間のどんな面より整っている。クラスの奴らが「妖精さん」だの「天使みたい」だのとはしゃいでいた。だから薄々こういう輩が出てくるだろうとは思っていた。思っていたが爆豪の予想を遥かに上回っていた。


「やぁ氷華さん! ご機嫌麗しゅう! お加減はいかがですか?」
「こんにちは物間くん。今日もみんなのおかげで元気に過ごせてるわ」

爆豪はまた来たのかとげんなりした。
氷華が雄英の寮で暮らすようになってからというものの、氷華の美貌に射抜かれた人間が氷華のもとを訪れていた。運命が実力申し分なく、多少丸くなったとは言え気性も荒い爆豪であるから二年などは1、2回訪れては自分の気持ちに区切りをつけていたが、物間は諦めるどころか積極的に氷華と交流を持とうとしていた。


「轟くんちょっと失礼。借りるよ」
「お」
「さぁ、氷華さんこちらに」
「あ、ありがとう? 轟くん大丈夫……?」
「ああ――」
「あははっ! 大丈夫ですよ。これでもヒーロー志望、これくらいならびくともしません」
「そ、そう……?」

借りると言ってすぱーんと轟の頭を叩いて個性をコピーした物間に氷華は微妙な顔をする。
この物間、氷華には紳士的だがA組の面々に微妙に当たりが強い。轟も大丈夫だというように頷くので、氷華は多少の疑問はあれど、あまり気にしないことにした。


「それにしても氷華さんは今日もお美しいですね。なんだか嬉しそうだ。何かいいことがありました?」
「え、わかる? いいことがあったの」
「当ててみても?」
「ええ」

すると物間がコピーした炎で温めた手を伸ばし、氷華の両手を包み込んだ。氷華も不思議な顔をして物間を見ている。物間は優しく微笑むと甘く囁いた。


「僕と会えたから……ですか?」

物間の整った王子様フェイスをもってするとこのような臭い台詞も様になっていた。物間の負の面を知っているA組の面々は微妙な顔だったり冷めた目をしていたが、氷華はそんなこと知る由もないので戸惑ってしまった。
迂闊に否定するのもよくないような、けれど肯定なんてしたらそれこそ浮気である。氷華が見える範囲に居てくれている爆豪に助けを求めるように視線を送ると、ものすごくめんどくさそうな顔をして来てくれた。


「残念、外れだ。グレイズが近いうちに来んだよ。そんで浮かれてんだ、自信満々で可哀そうになぁ……おめーの出番はねェよ!」

物間の腕をチョップして氷華の手を無理やり解放する。「お前も何大人しく握られとンだ! ちったぁ抵抗しろ!」「ご、ごめんなさい……!」ぴしゃんと怒られて縮こまる氷華を見た物間がキッと鋭い視線を爆豪に向ける。


「さすが爆豪、氷華さんという素晴らしい女性にも声を荒げるか。そんなんじゃ愛想をつかされるぞ。僕としては万々歳だけどね」
「ってこいつ言ってっけどおまえ俺に愛想着かすことあるンか」
「? ないよ?」
「だとよ。当てが外れたなァ?」

それはもういい笑顔だった。如何にも悔し気な顔をした物間に気分を良くした爆豪がご褒美だと言わんばかりに気まぐれに氷華の頭を撫でた。滅多にない爆豪からのアクションに氷華は嬉しくなり爆豪に抱き着いた。


「ああ何故なんだ氷華さん……! いや、いつかきっとあなたも気づくはずだ、本当にあなたのことを想っているのは誰か……! それまで僕はあなたに愛を示し続けると誓いましょう……!」

爆豪が珍しく振り払ってこなかったため、抱き着いて離れずここぞとばかりに甘える氷華に、物間のやけに芝居がかった台詞は聞こえていなかった。それを爆豪はおまえじゃこんな氷華は見れないだろうとばかりに見せつけていく。許容限界を超えた物間が負け犬のように「今日はここまでにしておこう! でも次こそ氷華さんに選ばれるのはこの僕だ……!」と帰っていった。「そんな日はこねェよ」と鼻で笑うと、よしもういいぞとばかりに氷華を引きはがした。


「もう終わり……?」
「ん。もう用は終わった」
「もうちょっと甘えたいな……」
「ダメだ。甘え癖つくだろ。おめーはまだやること山ほどあんだろが。甘えてる暇ねェぞ」
「あう……」

ほら今日のトレーニング残ってるだろちゃんとやれと氷華を連行していく爆豪の後姿をA組の面々は微妙な顔で見ていた。


「ねぇあれさぁ、爆豪さぁ、絶対認めないけどさぁ……独占欲丸出しだったよねぇ」
「ねー! 物間くんに「氷華は俺のだー!」って見せつけてたよねぇ」
「あれで無自覚なんかねぇ」
「いや多分、かっちゃんなら気づいてると思うよ。でも認めたくないんじゃないかな……」
「あー爆豪っぽい。落とされるの嫌そうだもんね」
「もう氷華ちゃんの方は落とされてんのになぁ」
「溶けちゃう、だもんねぇ。氷華ちゃんかぁいい……」
「くそ爆豪のやつあんな美少女を嫁にもらっておいてしかもあんなに好かれておいて許すまじうらやまあああぐふっ」
「峰田ちゃんうるさいわ」
「爆豪も内心可愛いと思ってるはずなんだけどねぇ、プライドがねぇ……」

うんうんとみんなして頷く。嫁を無理やり押し付けられたなんて聞いた日にはさすがに心配したが、実際お嫁さんと会ってみたらなんてことはなかった。いい子だしかわいいし、なんかふわふわしてる。それに何より爆豪のことが大好きすぎた。次第に応援ムードになるというもの。
スパルタすぎやしないかと思うときもあるけれど、氷華の身体の事情を聞けば納得してしまう。氷華のことを本当の意味で爆豪は思いやっている。それを理解してしまえば二人の恋模様が気になってしかたなかった。


「でも物間じゃ恋敵にはなれねぇなぁ、氷華ちゃんが一途すぎた!」
「それいうなら誰も無理じゃない? 轟の面でも靡かないよあの子」
「ねー! 轟くんにあんなに優しくされたら勘違いしちゃいそうなのに!」
「そうなのか……俺は氷華の事他人と思えねぇから、あいつが元気でいてくれるならそれでいい」
「うむ! 人命優先、彼女の命の保証ができればな……」
「ケロ、氷華ちゃん本当に爆豪ちゃんが大好きなんだわ。ここは優しく見守りましょう。大丈夫、二人ならきっとうまくいくわ」
「そうですわね……きっと大丈夫ですわ。私たちも出来る範囲でお二人をサポートいたしましょう」
「ああ、そうだな……!」

ここに爆豪と氷華を見守る会が静かに結成されたことを本人たちは知らない。
その頃氷華は爆豪に文字通りビシバシ鍛えられていたのであった。

 


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