氷華がグレイズと会える日までを指折り数えて待つ間も訓練は激しさを増していた。時間は待ってはくれないのである。今まで接してきた誰よりも氷華に厳しく接する爆豪にも氷華は比較的大人しく従っていた。
爆豪に甘えたいと駄々はこねるがそれでもどうして爆豪が自分に厳しく指導するのかを理解していたからである。

爆豪のスパルタ教育の甲斐あってかサポートアイテム一つ外した状態での氷雪のコントロールのコツを掴み始めていた。初めて自分の意志で氷雪を出したり止めたりできたとき、爆豪が「っしゃあ!!」と叫んだのがとても嬉しかった。氷華と誰より向き合い、氷華の成長を願い、氷華の進歩を喜んでくれた。氷華にとって爆豪が特別である所以でもあった。


「勝己くんできた! できたよぉ!」
「ちゃんと見てたわ! やりゃできンじゃねェか!! おまえその調子でそれ外したままいろよ。コントロールできてんだ。そのままの状態のが定着する」
「は、はずすの……? ちょっと不安だな……また暴走するかも……」
「今暴走してるか? してねェだろ。ならできンだろーよ」
「勝己くん簡単に言うんだものっ」
「俺はできねェと思ったことはさせねェ」
「でもぉ……」

今までサポートアイテムを外して生活してこなかった不安から氷華がぐずると、爆豪はしゃーねェとばかりにため息をついて、意を決したように告げた。


「この状態キープ出来たら……おめーの要望一個聞いたる」
「ほんとう!? 私頑張ねっ!!」
「急に元気だなオイ!!」

飴と鞭が大事なのだ。才能マンたる爆豪はその辺をよく心得ていた。特に運命というものに強い執着を見せる氷華には効果覿面であった。途端にくるくると浮遊しだす氷華に、爆豪がぽかんと一瞬口を開けて勢いよく叫ぶ。


「いやおまえ成長しすぎだろ……!!?」

浮遊するというのはバランスが難しいのだ。そのバランス感覚もそうだが、個性出力が大きく関わってくる。それを今の今でやってみせた氷華に、爆豪は運命自分をうまく使うのが近道だと確信するのだった。
要は課題を与え、クリアしたら爆豪が氷華を甘やかしてやるというもの。その甘やかしのレベルは氷華の求めるレベルでなければ餌にはなりえない。かといって課題に対して餌がでかすぎれば次が躓く、絶妙な匙加減である必要があった。







「あっごめんなさいまた……」
「いいよいいよ、ちょっと冷たい風来たなってくらいだし」
「今日はちょっと温かいもの食べてるものね。きっと身体がびっくりして出ちゃったんだわ」
「ええ、氷華さん大分上達していますわ」
「これ外したまんま生活できてるって進歩だよなぁ。氷華ちゃんがんばってて偉いわ。爆豪も意外といい先生みたいだしぃ?」
「うっせ」

今日の夕飯はビーフシチューだった。温かいもの全般が苦手なためビーフシチューを冷ましながら食べていたのだが、湯気で身体が反応してしまったらしい。ちょっと冷たい風を出してしまったが、それ以外はおおむね良好に生活を送っていた。まだ一つ外れただけであるが、ほぼコントロールできているので大きな進歩である。







「勝己くん勝己くん! もう一週間経ったよ。暴走しなかったの!」
「知っとるわ! だから何だ!」
「ご褒美がほしいなっ」

そしてついにご褒美、飴がきた。
爆豪は自分が言い出したのもあり、しょうがないと聞く姿勢になった。


「で、何が所望だ」
「はいっ! 勝己くんとちゅーしたいですっ」
「欲望に忠実だな!? ちっ! 二言はねェ。どっからでもかかってこいや!!」
「わぁ! 勝己くん大好きー!」

やっぱなしともしない潔い爆豪に氷華は好きが溢れてとまらなかった。こういうところ信頼できるのって素敵。氷華は爆豪にぎゅうっと抱き着いて「ベッドでしたいな」と促した。爆豪的にもう勝手にしろと言った感じだったので素直に従ってやった。そうして爆豪を座らせて膝に跨ってくる氷華に「おい」と思わず声が出る。氷華が「やだぎゅうしながらしたい」と聞かなかったためもう諦めた。せめてもの抵抗で俺ァ抱きしめてなんかやらねェと言った感じである。


「勝己くん……」
「……もう勝手にしろ」
「私のお願いもちゃんと聞いてくれるの好きだよ。いつもありがとう」
「そういうのいいからさっさと終わらせろ」
「ふふ、照れてる。勝己くんかっこいいのにたまにかわいいね」
「あ゛!? 誰が可愛いだって!? つか照れてねェわ!!」
「ムキになるところもかわいい。大好きだよ」

重なった唇に爆豪の怒声が飲み込まれる。至近距離で見た氷華の顔は相変わらず人間かと疑いたくなる程整っていて、儚さを感じさせるその容姿と積極過ぎる内面とのギャップで爆豪はどうなってんだと思ってしまう。冷たいからだが胸に押し付けられてひやっとする。
触れる柔らかい身体に何も思わなかったと言ったら嘘になるが、それでも爆豪と氷華の今の関係は夫婦と呼ぶにはあまりに遠すぎた。


「ぷはっ……いつまで続けてんだバカ。もういいだろ」
「やだ。まだ足りないもん……」
「おまえ頭悪くねェのに変なとこ抜けとんだ。ちゅーしたいとかアバウトすぎんだよ。毎日するとかのがよかったンじゃねェの」
「え!! わぁあ私のばかぁあ…………勝己くん、毎日ちゅーしたいな?」
「もう遅ェわ。次のご褒美にでもお願いすンだなァ」
「わーんっ! いじわるううう」
「誰が意地悪だ! 俺ァちゃんと約束守ったかンな!!」

余計なことを言ってしまったのは次のステップへ進みやすくするためだと爆豪は一人心の中で言い訳をした。断じて悪くねェなどとは思ってなどいないと強めに主張する。けれどそう主張する時点でそう思っているのを認めているのと同じだと冷静な自分もいた。もう頭の中は爆発寸前であった。
肝心の氷華は後悔でいやいやと拗ねていた。ばかがちったァ頭回せやと苛立ちをこめて跳ね除けるのだった。

 


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