教師たちを巻き込んだ浮気騒動だったが、爆豪と氷華が改めて擦り合わせを行ったことでそれも収束した。爆豪にとってはするはずのなかった告白をしてしまい、大変不本意であったが、結果的に氷華が落ち着いたことでそれもまぁいいかとは思えた。
今日は休日、氷華の実家の方に泊まっていた。気になる二人の関係だが、これが進展を見せていた。


「んじゃ、付き合うとっからはじめるってことでいいな」
「うん」
「んで予定通り離婚はする。これもいいな」
「……うん」
「不服そうだなァ……聞き分けたんだろォが。ちゃんと飲め。俺も折れてやったろ」
「……うん。折れる……」
「泣くなって」

思わずといったようにぽろっと泣き出した氷華を爆豪は抱きしめてやった。あの浮気疑惑を経て告白してしまった以上爆豪も腹をくくり、付き合うことにした。もう彼カノである。
ちゃんと好きだとも伝えたのだ。氷華が嫌で離婚するわけではなく、大事なことだからこそちゃんとするために別れるという選択は爆豪らしいともいえたが、一方で、好きならこのままでいたいという氷華の気持ちに逆らったものでもあった。


「別に離婚しても俺ら付き合ってンだろ。紙切れ一枚の契約がなくなるだけで、俺らは何も変わんねェ」
「変わっちゃうよ……結婚してる浮気と、付き合ってる浮気はちがうもの……」
「待てこら。誰が浮気じゃ。俺がンなことするわけねーだろ! それは怒るぞ!!」
「だ、だって……! 勝己くんかっこいいからっ、絶対女の子ほっとかないんだもの〜!」

想像してリアルに浮かんでしまったのか氷華の涙がボロボロと止まらなくなる。爆豪はもう頭を抱えた。嫉妬深いにもほどがある。
ちょくちょくあれから顔を出すようになったグレイズから、雪女は嫉妬深いから気をつけるようにと散々忠告された意味がようやく身に染みた。同時にこれは雪女の習性であるためどうにもならないことも爆豪は理解していたし、大体にして問答無用で氷漬け、精気を奪って制裁などが主流であるらしく、まだ氷華はこれでだいぶ理性的な方だというのだがら雪女とは恐ろしいものである。氷華の母親は大分勝ち気でわがままであったらしく、グレイズの女性人気を思うとあの人も相当苦労したんだろうな、とある種の尊敬の念を抱くのであった。


「おまえ……自分の面が良いのは知ってんな」
「ひっく……う、うん……」
「飯がうまいのも知ってんな」
「うん……ぐすっ」
「んで何より、俺のこと世界で一番好きなのお前だろ」
「うんっそうだよ!」
「じゃあ何も不安になることねェだろ。おまえより上の女なんてそうそういねェし……第一、さすがの俺も女なんておまえだけで手いっぱいだわ……他所に目を向けることはねェから安心してろ」

本当は俺もお前が好きだから安心しろと言えたらよかったのだが、爆豪の好きは氷華の好きより育っていないのを誰より理解している。氷華はずっと爆豪の熱に焦がれたその日から爆豪だけを見て、爆豪を夫にすると何の迷いもなく決めてしまった。爆豪にはそこまでの愛が育っていないのだ。恋はしている。可愛いと思うし守りたいと思う、好きだと思う。けれど結婚したいとはまだ思えないのだ。
でもそれでもいつかちゃんと、自分を好いてやまないこの女にプロポーズの一つくらいしてやりたいとは思っている。これを言ったら結婚したままで問題ないと言い出すのがわかっているので言わないが。


「ぐすっ……浮気、しない……?」
「しねェ」
「もししたら……?」
「しねェって……。あーもうそうだな……そんときゃおまえの好きにしろ。なんでも言うこと聞いてやるから」
「結婚してくれる……?」
「浮気した男でも結婚してェのかよ……おいこら泣くなって億が一にも起こらねぇ話だわ! ったく、いいぞ結婚してやる。ついでにおまえの事幸せにしたるから泣き止め……もうおまえここんとこ泣きすぎだわ。目玉溶けっぞ……」

氷華の冷たい身体がいつもより温く感じる。泣くとこいつでも体温上がるのかと爆豪はぼんやりと思った。雪の結晶が瞬く氷華の瞳に吸い込まれるように瞼にキスをしてやった。ぎゅうっと強く抱き着いてくる氷華に応えてやるように頭を撫で、軽く口づけていく。爆豪も女と付き合うのは初めてだったが、それでも氷華は恋愛において大変積極的だったので、どうしたらいいかは掴めていた。氷華がしてほしいと願ってきたことを爆豪はなんでもない事のようになぞっていく。
氷華も少しずつ落ち着いてきて、震える声で口にした。


「今も幸せにして……勝己くんにしかできないもん……」
「おー……一応聞いてやる」
「…………えっちしたいな」
「は!!? おま、おまえなぁ!? 話聞いてたか!? 俺ら――」
「大好きな彼氏とえっちしたいって思うのは……おかしなこと……?」

氷華の瞳は爆豪の予想に反して真剣なものだった。もっといつものわがままのように軽いノリで言ってるのだと思っていた。けれど氷華は真剣だ。真剣に爆豪に問うている。大好きな彼氏と、彼女と……そういうことをしたいと思うのはおかしなことなのかと。
そしてそれは爆豪にも言えた。彼女とそういうことがしたいと思うのはおかしなことか……自分だってそういう欲があることを爆豪だって感じていた。氷華としたいのか、どうなのか。ここまで言わせて手を出す覚悟があるのか、ないのか。
爆豪は大きく息を吐くと、氷華に真剣に向き合った。







「そんなの、何もおかしくねェ……俺だって同じだ。おまえとシてェ」

ふわふわとようやく笑った氷華を抱きかかえ、ベッドに移動する。二人は初めてそういうことをした。経験なんてない者同士だったけれど、それでも二人のペースで一つ一つ重ねた。そうして、自分の腕の中で可愛く啼く氷華を心底愛しいと感じた。熱に浮かされる。なんだかひどく長い夜だった。

 


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