ここから始まる新たな物語
春、爆豪たちの卒業だった。氷華はと言えばペアリングを買ってもらって以降、大幅な成長を見せ、ついにサポートアイテムが全て外された。目立った暴走もなく、ある程度はコントロールをすることができるようになり、晴れて普通の人と同じ生活ができるようになったのだ。
それが分かるとA組内でお祭り騒ぎとなり、爆豪と氷華が上手く行っているのもあって冷やかされたり、それに爆豪がキレたりと大変賑やかに過ごしたのだった。
そして卒業といえば当然爆豪たちも寮を離れることになる。離婚こそしたが恋人関係であることもあり、変わらず職員寮の方で一緒に暮らしていたが、それも卒業したらなくなるだろうと氷華は理解していた。
なにせ自分はもう、晴れて普通の人間と同じ生活ができるただの一般人である。爆豪は卒業後はベストジーニストの下で
「卒業おめでとう、勝己くん」
「おー。こうしてみると案外あっけなかったな。三年とかあっという間だわ」
「うん、そうだね。勝己くんと初めて会ったのが約一年前だけど……昨日のことみたい」
「それはいくらなんでもあっという間過ぎんだろ」
思わず笑った爆豪に氷華が寂しげな表情を浮かべた。きっともう今みたいには会えない。毎日おはようからおやすみまで過ごしていた約一年を思うと、その落差に耐えられる自信がなかった。けれどわがままを言って、言うことを聞いてもらうような子供っぽいこともしたくなかった。右手の薬指に輝いたリングの意味を、もらった気持ちを軽んじるようなことはしたくなかったのだ。
「……おまえ、俺になんかいうことねぇの」
「え? 言うこと……? あ、今までありがとう?」
「……おいそれ、ともすれば別れ話だぞ」
「ええ!? やだ! 別れない!!」
「……はぁ……おまえも大人になったって喜べばいいのかねェ」
爆豪は残念なものを見るような目で氷華を見て、大きくため息をつくと真剣な表情で氷華を見つめた。それに氷華はどきりとする。どうしよう全く心当たりがない。びくりとしたまま爆豪を見つめ返すと、爆豪が小さく笑って氷華の手を掴んだ。
「氷華」
「ひゃ、ひゃい」
「一緒に暮らすぞ」
「え……え、ええ!?」
チャリンと掌に金属の塊が落ちる。カギだった。口ぶりからして爆豪の新居のカギ。しばらく放心していた氷華だったが、意味を理解するとボロボロと泣き出した。
もうお約束のそれに爆豪は慣れた様子で「やっぱ泣くよなァ」と拭っていく。
「もうグレイズには話してある。家具も雑貨もおまえに選ばせたの部屋に運んである。あとはおまえが頷くだけなンだけどよ。どうする、氷華チャン」
「ふぇっふぇええっ! 一緒に暮らすぅっ」
「だよなァ。ったく、ぜってェ一緒に暮らすって言い出すと思ってたンに。おまえも成長したなァ……」
「だっだって……! かつきくんが指輪くれたのにっ、わがまま言って、言うこと聞いてもらうのやだったんだものっ」
ボロボロと大粒の涙を零す氷華に爆豪は笑った。
本当に氷華の好きは疑いようがない。疑いようがなく爆豪のことが好きで、爆豪が与えた意味も、その気持ちも、やりたいことも、丸っと含めて尊重してくれる。
だから爆豪はもういいかと思ってしまうのだ。こんなに自分を好いてくれて、自分も好いた女なのだから。全てを許してやれる。
「……おまえほんと俺のこと好きな。俺の気持ちだけは尊重すンだよなァ……もういいわ。おまえのわがままの1つや2つや3つ……俺が全部叶えてやる」
「ほ、ほんとっ……?」
「そんくらいの甲斐性はあるわボケ。おまえは男を見る目だけは確かだからなァ。精々自分の見る目に感謝しろや」
「感謝する〜!!」
「クッソ素直でかわいいなァおい」
泣いて抱き着いてきた氷華を抱きしめて爆豪は慣れたようにあやしていた。
氷華がわがままを言うのは自分と……それからまぁグレイズくらいだ。それが意外と心地がいいものだと思い始めた頃には、氷華への恋心を自覚せずにはいられなかった。自分にだけわがままで、誰より好きでいてくれる。自分の大事なものを尊重しようとしてくれるのを感じたら、もうなんでも許してやろうという気になれた。
グレイズが、ベストジーニストが、相澤がまぁ予想通りの展開になったなと爆豪の脳内で顔を見合わせていた。雪女に見初められたら最後逃げられない。爆豪もそうだった、逃げる気をなくしてしまった。あまりに一生懸命で真っ直ぐな愛情を向けられてしまったから。プライドも苛立ちも雪にまぎれて一緒に溶けていってしまった。
「勝己くん」
「んだよ」
「私と結婚してくれる……?」
氷華が不安げに聞いてくる。覗いた瞳がまだ潤んでいた。
爆豪はしょうがないなとばかりに顎を優しく掴んでキスをした。
「結婚してやるからもう少し待ってろ。最高のプロポーズしたるわ!!」
嫁を無理やり押し付けられて、恋人になって、離婚して、またいつか結婚する。
めちゃくちゃな順序だがこれでいい、これがいい。誰かに強制された結婚ではなく、爆豪勝己は自分の意志で白雪氷華と結婚するのだ。
そして最高のプロポーズをして結婚式を挙げ、氷華とちゃんと家族になるのは――そんなに遠くない日の事だったという。
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