あなたが私に火をつける
「頑張れよ白雪!!」
「いいぞ白雪!! B組きっての強個性の力を見せつけてやるんだ……!!」
「ま、爆豪ってのがちょっと怖いけどね。かわいい顔に傷がつきませんよーに」
「ん……頑張ってくるね」
「ね、円陣組まない? 氷華の勝利を祈って!」
「いいな、やろう! おっしゃB組集まれー!!」
取蔭が案じるように氷華の頬を一撫でし、拳藤の提案でB組で円陣を組んだ。団結力なら随一のB組の仲の良さはカメラにもしっかり収まっており、これを見たミッドナイトが歓喜に悶えていた。
氷華は轟と飯田の試合の間、爆豪に万全な状態で挑むため控室で自分を氷漬けにして涼をとることにし、B組の声援を背にその場を後にした。
「氷華、私だ。入るぞ」
「お父様……」
「そのままでいい、おまえはぎりぎりまでそうやって身体を冷やしていなさい。……今までろくにおまえの行事に来れなかったからな……準決勝くらい、応援をと思って来ただけだ」
人気ヒーローだった氷華の父は、今まで学校行事にろくにこれたためしがなかった。
母はすでに病没しており、周りが親に囲まれる中、氷華は一人であることが多かった。それもあって今回父が体育祭に来てくれるのがとても嬉しかったのだ。
「嬉しいです。わざわざ応援に駆けつけて下さるなんて」
「親としてやっと当然のことができた。今まですまなかった。おまえには私しかいないというのに」
「そんなっ、いいんです! 私はお父様がどこかで誰かを救っているのだと思えば、とても誇らしかったのですから」
「氷華……」
それは氷華の紛れもない本心だった。ネットニュース速報で父の活躍を目にする度、誇らしい気持ちでいっぱいになった。救けを呼ぶ人々のもとに飛んでいける、救ってくれる、それが自身の自慢の父だったのだから。
それに氷華は父に蔑ろにされているなど一度も、一瞬たりとも思ったことはない。忙しい合間を縫って父が自身に授けてくれた技は、今日だって氷華を幾度となく助けてくれた。
父の背中をなぞるだけではだめだと、
「準決勝は爆破の爆豪だったな。気をつけなさい、私はここでおまえを見ている」
「はいっ、お父様……! 頑張ってきます!」
もう時間だ。轟と飯田の試合は轟の勝利で終わったらしい。
氷を戻すと父が氷華の頭を撫でてくれた。父が見ててくれる。それだけで氷華は何倍も頑張れる気がした。
爆豪との対決が始まる。焦がれた熱が、そこにある。
『準決勝第二試合、の前に飛び入りゲストの紹介だぜー!』
『B組担任のブラドキングだ! うちの可愛い可愛い生徒がここまで進んだんだ! 俺も加わらせてもらう!!』
「僕らのブラキン先生ーー! 最高だーーー!」
実況にB組担任のブラドキングも加わり、B組の客席が沸き立った。
情に厚く、生徒に愛を持って接しているブラドキングはB組で大人気だった。
氷華もこれには嬉しそうに表情を輝かせ、少し見上げると、目に入る範囲にいる父の姿も相まって胸がいっぱいだった。
お馴染みとなった氷華コールといい、完全に氷華を応援する会場のムードに爆豪がうんざりした様子で「ケッ……」と吐き捨てた。
「氷雪……楽しめそうだ」
「(やっぱり、楽しんでる顔じゃない)私
わずかに目を見開いた爆豪は、興味なさそうに「そうかよ」と返す。
準決勝第二試合が始まる――。
『容姿・人望・頭脳・個性! すべてを兼ねそろえた才色兼備! 白雪VS一回戦二回戦と容赦なし! 実力は本物!! 爆豪!! 両者見合って――ファイッ』
「空中戦なら私が有利!」
「そいつぁどうだろうな!?」
開幕常闇戦と同じように上昇した氷華に猛スピードで爆豪が迫ってくる。
思っていたより速いそれに氷華は一瞬驚くも、吹雪で迎撃しつつ、
「(やっぱ造形速度やべぇな!!)邪魔だ!!」
爆破で氷龍霰華の頭を粉々にしたはずだった、けれどそれは綻んだそばから新たに氷を生み出し、
『掌からしか使えない爆豪と違い、うちの白雪は自在に操れる!! その上二対一に持ってきた!! いいぞ白雪そのままやってしまえ!!』
「っっんだこれ!? 回復しやがった!?(こんな能力は今まで見せてねぇ、隠してたんか……いや、使うまでもなかったんか!)」
「私の氷雪は雪女と氷結の複合個性。雪女っぽいことならなんでもできるのっ」
「ご丁寧に説明垂れやがって余裕かくそがぁ!!」
「え、そんなつもりじゃっ」
ブラドキングの親ばかのような氷華寄り全開の実況もろくに耳に入らないまま、爆豪が驚いてくれて嬉しくなった氷華はついぺらっと喋ってしまった。
憧れてやまなかった熱を至近距離に感じて氷華は最高に機嫌がよかったのだ。それを余裕と受け取った爆豪が怒りの爆破をかまし、目にも止まらぬラッシュを仕掛けた。
「こんなもんっ!! どんなもんでも無限ってわけねぇ!! 爆破して爆破してシャーベットにしてやらぁ!!!」
「(私の個性は周りのためにも長引かせちゃいけない……速攻行動不能にしなくちゃ。掌を凍らせて爆破できなくしたら私の勝ち!!)いっけぇっ!!」
爆豪が氷龍霰華を相手にしている間、氷華もただ見ていたわけじゃない、身体を冷やし会場の温度を下げた。その上で上げた出力のまま爆豪の掌目掛けて技を放った。
だがやはり恐るべき反射神経。氷華が放ったそれに見てから反応し、対処した。氷華はそこであることに気づく。
「なに……? 切島くんたちのときより爆破の威力が上がってる……!?」
爆豪が自分と同じスロースターターなのは理解していた。汗腺から何らかの爆破にいたる燃料を出しているのも知っている。けれどこれは知らない、明らかに爆破の威力が上がっている。
にやりと不敵に笑う爆豪にぞくりとしたものを感じつつ、解明しなければと頭を働かせる。
「(麗日さんと切島くんには手を抜いていた……? ううん、そんなことは
「考え事とは余裕かぁ!? 動きが単調になってっぞ!!」
「余裕なんかないっ! あなたに挑戦するのにそんなのあるわけない……!!」
物間の言った通り、爆豪には情けも容赦も油断もない。氷華が思考にリソースをかいたのを目ざとく察知し、すかさず追撃してくる。思考がまとまらない。
爆豪が
「(だめだわかんないっ、解明するまで保つ相手じゃない……! なら……こっちから見つけに行かなくちゃ!!)」
『白雪!! ここでまさかの爆豪に急接近!!』
「っは、てめぇの個性で接近してくるとはなぁ!! 好都合だ爆破してやんよ!!」
向かってくる爆撃を氷龍霰華で盾にし、爆豪にぎりぎりまで迫る。掌に何か答えが、ヒントがあると確信していた氷華は、目の前に翳されたそれに対しても怯むことなく目を見張り続け――焦がれた熱が零距離で火花を散らした。
「っ!! きゃあっ!!!」
『顔面っ!! 顔面にまともに入ったああああ!! 白雪大丈夫かーーー!!?』
『白雪ーー! 白雪しっかりしろーー! 傷は浅いぞーー!!』
プレゼント・マイクとブラドキングが騒ぐ中、B組の客席の方でも同じ騒ぎが起きていた。特に仲のいい取蔭は「ああっ氷華の可愛い顔がっ!!」と狼狽えており、拳藤が背中を支えて宥めていた。
だが一方で物間は意外にも静かに「捨て身だがいい判断だった」と氷華を評価した。
「まさか、私の個性がこんな反応するとは思わなかったな……」
「――気づいたんか」
未だに定まらない焦点と強烈な痛みを感じる顔にやっぱり爆豪くんはすごいなと感じる。
ずっと全力で戦ってきてこの威力、汗がかきにくいようにフィールドも自分に有利な銀世界に変えている。
でもそれすら彼には何のハンデにもならなかった。至近距離で見た彼の掌。粒だったきめ細かな爆発。顔面に触れたからわかった、
「爆豪くんの爆破に必要な分泌物って……凍ると威力が増すんだね」
爆破する直前、甘い香りを氷華は感じていた。おそらくそれが爆豪が爆破に必要な分泌液のようなものだろう。それらが確かに凍っていたのをみた。麗日と切島のとき以上の威力を爆豪が出しているに大きく関係していることは明白だった。
「(これ以上戦いが長引けば不利になる。出力は……だめだ、ヒーロー科以外の観客が持たない。どうする……)あっ氷龍霰華!!」
「おい雪女! これで終わりか!? まだあんだろ!!」
その間に氷龍霰華に与えた生命力が費えた。大爆発と共に氷龍霰華を下した爆豪は不敵に笑っている。ギラギラと輝くその眼光に氷華は息を吞んだ。
なんて熱だろう。なんて眩しいんだろう。溶けちゃいそう。芽吹いた感情に氷華は思う――あなたが私に火をつける。
「爆豪くん! 私あなたに勝ちたい!!」
「来いよ雪女!! 俺がおまえをねじ伏せる!!」
氷華は爆豪に肉迫する。極限まで神経を研ぎ澄まし、父の教えを思い出す。自分には雪女の
「あ!!?(消えた! 雪にまぎれた!! どこだ!! 見て反応しろ、見たらすぐ爆破する!!)――は、」
会場が水を打ったように静まり返る。爆豪の目の前にいきなり現れた氷華は――爆豪に口づけていた。
口から直接冷気を送り込む。身体の芯から冷やしていく。もう汗なんて出ないように。
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