その日はNO.4ヒーローグレイズからエンデヴァーがチームアップ要請を受け、無事にヴィラン逮捕に繋がったときの事。エンデヴァーの下へインターンに来ていた爆豪、轟、緑谷も逮捕へ貢献し、グレイズからも「インターン生にしてはよくやった」と無自覚に一言多いお褒めの言葉をもらい、昼でもご馳走しようとえらく高そうな店へ連行されそうなときの事だった。
グレイズの相棒サイドキックが慌てた様子でやってきた。


「大変ですグレイズ! お嬢様が! お嬢様が敵に攫われたそうです……!!」
「場所は」
「それがものすごいスピードで移動してまして! 護衛が追ってますが振り切られそうです!」
「いい、私が行く」

それだけ言うと猛スピードで遠ざかっていくグレイズに話を聞いていたエンデヴァーや爆豪たちも追っていった。グレイズは迷いなく街中を進んでいく。「場所分かるンかよ!」と思わず爆豪が口に出すと、エンデヴァーが絶えず通信で相棒たちがポイントを伝えていると説明してくれた。
そしてエンデヴァーたちにも通信で情報共有がなされ、挟み撃ちするように四方に散った。


「! 子どもを抱えて逃げる明らかに怪しい奴! こいつらか……!」

なんと敵は複数犯だった。しかもかなり数が多いずいぶん堂々とした誘拐犯である。グレイズが躊躇いなく氷結を繰り出していくが子どもを投げ飛ばし他の奴らに託していくなど何としてでも誘拐してやるという信念を感じる。
肝心の子どもだがパニックになって泣き叫んで暴れていてもなんら不思議ではないというのに、極めて落ち着いていた。肝の据わった子どもというか、感情の起伏が乏しいというか随分変わった子どもだなといった印象である。

爆豪は子どもを抱えている敵に急接近すると、気づいた敵が子供を投げ飛ばすより早く行動した。


閃光弾スタングレネード!!」
「っくそ!! 何もみえねぇええ!!」
「くたばれこのクソ敵!!!」

子どもを奪い取り至近距離で「死ねェ!!」と爆破をお見舞いする。無事子供を保護した爆豪に「感謝する」とグレイズが寄ってきたので爆豪が子どもを差し出そうとするとコスチュームを引っ張る感触があった。なんだ、とみると子どもが目を輝かせて爆豪を見ていた。


「すごいわお兄さん! 救けてくれてありがとう!」
「……おー」
「私、氷華っていうの。お兄さんは?」
「……バクゴー、仮の名だけどな!」
「……お兄さんのお名前が知りたいな……」
「あ? んなもん知ってどうすんだよ……爆豪。爆豪勝己だわ」
「勝己お兄さん……! ありがとう勝己お兄さん。私、大きくなったら勝己お兄さんのお嫁さんになるね!」
「…………は?」

氷華というえらく面の良い幼女にぎゅっと抱き着かれ、お嫁さんになるとふわふわと笑顔で言われた爆豪は大変混乱した。他所に散っていた敵を片付け合流した緑谷と轟が意外そうに爆豪を見ていた。
エンデヴァーとグレイズだけが状況を把握していたのだった。


「グレイズ、いいのか。運命とはいえあの子はまだ6つだったろう」
「……運命に年齢は関係ない。予想より大分早かったが……この子が見つけてしまったものは仕方ないだろう」

どこか心配そうな様子で尋ねるエンデヴァーとは逆に、グレイズは実にどっしりと構えていた。
その「運命」という単語が混じる不思議な会話に緑谷がおずおずと尋ねるのだった。


「あの……運命ってなんですか? あの子グレイズのお子さんですよね? なんかすごいかっちゃんに懐いてるっていうか……」
「運命とは雪女の個性を持つ者の習性みたいなものだ。あの子の母親が雪女の個性で、その習性が受け継がれている。一度この人と決めてしまえば結ばれずにはいられない、そういう習性だ」
「え、ってことはつまり――」
「あの子は爆豪と結ばれるってことか……?」
「そうなる」
「いや勝手に決めんな! 俺の意志が介在してねェ!!!」

勝手に決められる将来に爆豪がキレた。だが運命がどういったものか、雪女がどういうものかをよく知っているエンデヴァーとグレイズは諦めろとばかりに相手にしなかった。
爆豪が未だに抱き着いて離れない氷華を引き離そうとするが、いやいやと嫌がって離れない。強引に離そうとすると優しい緑谷と轟が「かっちゃん! 相手は子どもだよ!」「乱暴にしてやるな」と止めにかかる始末。爆豪の味方がいない。


「っだあああ! もう離れろやああああ!!」
「やだやだっ、勝己お兄さんと結婚するー!」
「俺にその気はねェんだわ!! 第一ガキがマセたこと言ってんじゃねェエエ!!」

氷華と爆豪の攻防を見たグレイズがとりあえず昼にしようと切り出す。事後処理は相棒たちに任せることにしたのだ。氷華の誘拐を企てた動機も、あまりの美しさについ目がくらんでといったよくある動機であった。護衛の気が緩んでいたために起きた事件だったので、護衛を変えるなり今一度扱き上げるなりすれば解決である。
父親のとこ行けとばかりに氷華を差し出そうとする爆豪に取り合わず「あまり乱暴に扱ってくれるな」と釘を刺してそのまま移動した。爆豪は当然キレたが、その爆発的なキレ加減にも氷華は好感を抱いたようで「勝己お兄さんかっこいい……!」とキラキラしていた。緑谷はその独特の感性に変わった子だなと目を見開いていた。







「勝己お兄さんはなにが好き?」
「あ゛? 答える義理はねェ」
「冷たい言い方してやるなよ。爆豪は辛い物が好きなんだ」
「おい勝手に答えてんじゃねェ!」
「わかった、辛いものたくさん練習するね……!」
「せんでいいっつーの! ったく年の差いくつだと思ってんだ。現実的じゃねぇわ」
「んーっと、私は6歳だから……えっと、勝己お兄さんは……?」
「10歳差かよ。子供の10歳差は大分でけーぞ。諦めるんだなァ」
「やだ! 勝己お兄さんがいい……!」
「男見る目だけは褒めてやる。が、俺はガキには興味ねェ!」
「かっちゃん……! あまりムキにならないで……」
「クソデクはだぁってろ!!」

爆豪たちと氷華が話している間、エンデヴァーはグレイズに「本当にアレでいいのか」とどこか心配していた。爆豪の実力や上昇志向は評価しているが、娘の相手と考えると少々頭が痛い。対してグレイズは落ち着いており、運命から逃れられる者はいないとどっしり構えていた。経験者は面構えからして違うものである。
実際全く相手にされないどころかガキは論外と跳ね除けられた氷華は強かった。


「でも私、勝己お兄さんがだいすきよ」

氷華の整った顔が華やぐ。爆豪も緑谷も轟も、エンデヴァーでさえもこれには驚いた。儚げな見た目の反してハートが強い。ほら何の心配もいらないだろうとばかりにグレイズが一つ頷いたのだった。

 


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