完全なる協力体制
えらく面の良い幼女にお嫁さんになると言われて早数日。とはいったがこれから会うこともないだろうと爆豪は高を括っていたというのに、その期待は裏切られた。グレイズがまたもチームアップ要請を出し、なんと……件の幼女氷華の護衛を爆豪たちに依頼したのだった。
「勝己お兄さーんっ!」
「またか! 飛んでくるなって言ってんだろ!!」
「だって早く会いたかったんだもん。ゆるして……?」
びゅーんと文字通り羽が生えたかのように浮遊したまま、爆豪に突進してきた氷華に爆豪がキレる。
ゆるして、と小首を傾げて可愛い顔をする氷華に、またしても爆豪の怒りのボルテージは上がるのだった。
「おまえなんでもそうやれば許してもらえると思ってんじゃねェぞ!!」
「まぁまぁ、でも氷華ちゃん。危ないから個性使うのはやめようね。かっちゃんも君のことを心配してるんだよ」
「あ゛!? 別に心配はしてねェわ!!」
「ええ……」
「でもすげぇな、氷華はもう個性使って飛べんのか。いっぱい練習したのか?」
「? 勝己お兄さんに早く会いたいなって思ったらできちゃった」
氷華の返答に一同が固まった。氷雪の個性で浮遊して移動するというのは繊細な個性のコントロールと空中でのバランス感覚が問われる。思っただけで出来てたみたいなのは天才にもほどがあるのだ。それもたった6才である。緑谷と轟は天才だ、すごいなと褒めたが爆豪はいやなんだこいつ、と理解不能だった。
「――にしても。この街はいってェどーなってんだァ? おめーいくらなんでも狙われすぎだろ」
「一昨日は芸術家、昨日はグレイズへの私怨、今日は変質者か……大変だな」
「グレイズの管轄だし治安が悪いわけでもなさそうなのにね……街の人も親切な人が多いのになんで……」
「……おいおまえ、なんか心当たりねぇのか」
「かっちゃん、氷華ちゃんに聞いても……それに本人が一番大変な思いしてるはずだよ。問い詰めるようなことは――」
「? お父様なにも言ってないの?」
「俺らは護衛を頼まれただけだ。グレイズは特に何も……何か知ってるのか?」
「うん。私の個性、お母様の雪女がまざってるから、ちょっと目立っちゃうみたい。だから悪いこと企んでる人も惹きつけちゃう……」
まさかの個性関連だった。ただでさええらく面の良い幼女である。雪女、なるほど。道理で狙ってくる奴等揃いもそろって男なわけである。氷華は「迷惑かけてごめんなさい……」としゅんと落ち込んだ様子だった。
「気にするな。悪いことしてる人から守るのがヒーローだ」
「うん、それに雪女の個性を持ったヒーローを僕は知ってるけど、その人はそういうのもコントロールできてたから氷華ちゃんもできるようになるんじゃないかな?」
「雪女のヒーロー……」
「うん、もうだいぶ前に引退しちゃったんだけど、スノーレディって言って――」
「それ、私のお母様……」
「え!? そうなの!? あ、でも確か引退するとき結婚するって言ってたな! そうか、そうだったのかぁ……あれ、でもグレイズの奥さんって……」
「……私を生んですぐに亡くなっちゃった」
「(僕のばかああああああ)」
「(余計なこと言ってんじゃねェ!! このクソナードが!!)」
「そうなのか……辛かったな」
またしてもしゅんと沈んだ氷華に緑谷はものすごく罪悪感にかられた。慰めるつもりが傷口に塩をぬってしまった。轟が氷華の小さな頭を撫でて慰めるが氷華は回復しなかった。妙に氷華に甘いというか、距離感の近いところのある轟だが氷華が特別に懐いたりといったことはなかった。
仮免補講で間瀬垣小学校の女子児童たちを虜にしたイケメンにも氷華はまったく靡かなかったのである。爆豪がしょうがねェとばかりにため息をつき、しゃがんで氷華に目線を合わせた。
「コントロールできるようになるに越したことねーけど。俺は別にこのままでも構わねェぜ。クソの役にも立たねェ子守だと思ってたが、クソ敵共をぶっとばせる分無駄じゃねェ」
「勝己お兄さん……」
「おまえが悪い奴等吸引してるようなもんだろ。街の掃除に一役買ってんじゃねーか」
そう言ってやや乱暴に氷華の頭を撫でる爆豪に、かっちゃんがフォローするなんて! いやでももっと言い方あったよねかっちゃん!? と思いながらはらはら見守っていると、氷華がそれはもう瞳をキラキラさせて爆豪に飛びついた。
「勝己お兄さんだーいすきっ!」
「おー、子どもはそうやって子どもらしく能天気でいろや」
「うんっ! 私立派なレディになって、勝己お兄さんのお嫁さんになれるようにがんばるねっ」
「おめーほんとブレねェなァ!?」
「10年経ったら迎えにきてね」
「俺の意見は無視かァ!?」
もう元気になったんなら離れろとばかりにまたも引きはがしにかかるが、氷華もぎゅっとしがみついて離れない。その様子になんだか緑谷は爆豪がこれから先氷華から逃げ切るのは難しいだろうなと漠然としたものを感じた。だってあまりに好きすぎる。
幼馴染として、ちょっと行きすぎた分析癖も相まって爆豪のことはそれなり以上に知っている。例えば見た目の印象とは裏腹に意外と女の子にモテないとか。義理チョコの一つももらったことがないとか。そしてこんなにも熱烈に自分だけを求めてくる相手に対して結構弱いとか。轟くんにも靡かないの実は結構自尊心満たされたとか。
かっちゃん、年の差婚かぁとうんうん考えていたところ、何かを察した爆豪が「クソデク今何考えた!!?」と掌を爆破する。その爆発に氷華がまたも黄色い悲鳴を上げるものだから。「意外とお似合いだなって」とつい口を滑らせてしまい、今度こそ容赦なく怒声と共に爆破されたのだった。
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