爆豪が氷華を奪還して間もなく、グレイズが到着した。見つかった安堵と、その酷く衰弱した様子にグレイズは荒れに荒れていた。せっかく事件の概要を聞き出すため爆豪が生け捕りにした誘拐犯たちを殺しそうな勢いだったので、遅れてやってきた師であるベストジーニストと一緒に宥めるのに苦労した。妻に続いて娘まで同様に奪われるところだったのでそれも無理はないかもしれないが。

氷華を休ませるために屋敷に戻ろうにも、屋敷自体が使用人と狩人、攫いに来た吸血鬼によって酷い有様であったため、協会の方に身を寄せようにもグレイズが却下し、氷華が攫われたのを受け親戚と言うこともあり協力してくれていたもう一つの王家、轟家に一時的に身を寄せることになった。
そこで事件のあらましを詳らかにするため、グレイズとエンデヴァー、協会の重鎮、そして氷華を直接助けた爆豪も轟家で一堂に会することとなった。


「グロリアは王家の血こそ引いていないが、純血名家の生まれだ。妻が亡くなってからしばらくして氷華付きのメイドとして召し上げたのだが……氷華との関係は良好だった」
「でもあのオバサン、アンタの娘殺そうとしてたぞ。むしろ憎くてたまんねーって感じだったけどな」
「爆豪、口の利き方に気をつけなさい。この方々は吸血鬼社会を牽引する王家のご当主方だ」
「私はかまわない。おまえが私の娘を救ってくれた。礼を尽くすのはこちらだ、感謝する」
「……別に。俺は依頼をこなしただけだわ」

吸血鬼の王家の当主とかいうからさぞ偉そうなんだろうなと思っていただけにグレイズの妙な寛容さが少し意外だった。エンデヴァーも特に気にした風もなく、とりあえず氷華が見つかってよかったと安堵していた。
その氷華といえば今は客室で休んでいる。同い年の親戚であるエンデヴァーの息子、焦凍とその姉の冬美がみてくれていた。少し前に意識が回復して、グレイズの血を飲んだのでしばらくしたら回復するだろう。

協会の方でも取り調べを終えたようで調書が届いた。
それをグレイズが確認すると、まぁ中身は爆豪の想像通りだった。


「……そうか、アレは後妻を狙っていたのか……何故そうなった……」
「アンタ本気で言ってんのか……?」
「爆豪……」
「不可解だ。私には雪華さんがいる、氷華もいる。後妻など不要だ」
「……だが我々は王家だ。それだけで後妻の座を狙う者も多くいるだろう」
「私は後妻など不要だと表明している。私の妻はあの方だけだ。なぜアレは妻になれると思ったのだ……不可解だ」
「頭のイカレたババアの思考回路なんざしらねェよ。なんか勘違いでもしたんじゃねェの。ちょっと褒めたとかそんくらい些細なことだったりしてな」

爆豪の見解はまたしても当たっていた。母親が亡くなって塞ぎこんでいた氷華を根気強く支えてくれたものだから、一度だけ感謝を伝えたのだった。それだけで恋に落ちてしまったグロリアは次第に妻の忘れ形見にしてグレイズの愛を一心に受ける氷華を疎ましく思い始め、恋に盲目になったグロリアは分不相応な望みを抱き恐るべき凶行に走ったのだった。


「何はともあれ、協会の幹部まで関与したあってはならない事件だった。協会もこれを重く受け止め、武具に関して私の許可なく持ち出すことは何人たりとも許さないことにした。もちろん、強行突破できないようにセキュリティ強化済みさ。これはたとえ純血の吸血鬼でも破れないクオリティだよ」
「……狩人ハンターの大半は吸血鬼に恨みを持つ者で構成されている。私も屋敷の中に閉じ込めて置けば安全だと油断していた。会長、先の無礼のお許しを」
「何、気にしてないさ。お嬢さんを保護できた上にセキュリティも見直せたのだから結果オーライってやつさ!」
「我々はこれからも協会とは懇意にしていきたいと思っています。何卒よろしくお願い申し上げる」

正直吸血鬼協会の会長が何でネズミもどきなんだよと思うこともあるが、その手腕は確かだった。セキュリティのためと言えばしょうがないが、爆豪は武具の持ち出し手続きが面倒になることに憂鬱な気分だった。だがこうなっては仕方ないというものである。
白雪家の使用人と吸血鬼、狩人が共謀して起きた事件なのである。氷華の母親のときにすでに対策されていたはずだが、それもまぁ人間にとってはずいぶん昔の事である。当時の会長も根津とは違う者であったし、穴があったということだろう。グレイズとしては遺憾だろうがひとまず根津を信じることにしたようだった。

そして話もまとまりやっと解放されると思いきや、氷華についていたはずの冬美が控えめに顔を出した。


「えっと……氷華ちゃんが起きたんだけど……救けてくれた狩人の男の子に会いたいって……」
「爆豪か。グレイズ、どうしましょう」
「氷華が会いたがっているというなら止める理由はない。爆豪といったな。氷華に会ってやってくれ」
「……っち、しゃーねェな」

正直面倒だったが相手は王家である。爆豪はこれも仕事と思って応じることにした。ベストジーニストから「くれぐれもお嬢さんに乱暴な口を叩かないように」と釘を刺されるのが鬱陶しいったらなかった。

 


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