目覚めた氷華は先の鮮烈な熱を思い出していた。純血の吸血鬼の方が能力で言えば上であるが、それでも爆豪が放ったあの熱の温度がいつまでも胸に残っていた。言動は決して紳士のそれではなかったが、それでも爆発的なあの野性味をとても好ましく思っていた。
思い出してわずかに熱を持つ頬を訝しんだ焦凍が「まだ具合悪いか? 俺の血飲むか?」きいてくるのを「大丈夫」と笑って返した。そんなんじゃないというのを氷華はわかっていた。爆豪が放つ熱を見た時、氷華はずっと会いたかったと思ってしまったから。

そうして冬美が爆豪を連れてきてくれたとき、氷華は胸の高鳴りを確かに感じた。


「この度は危ないところをお助けいただきありがとうございました」
「……別に、依頼こなしただけだ」
「それでもあなたがもう少し遅ければ本当に大変なことになるところでした。心より感謝申し上げます。申し遅れました、私は氷華。白雪家の一人娘になります。お名前を伺っても?」
「爆豪勝己」
「爆豪くん。ありがとう、爆豪くん」

爆豪は正直またしても思ってたのと違う感じで内心困惑していた。
吸血姫というくらいの身分と容姿を兼ねそろえた存在である。その上信頼していた傍付きに裏切られ、人間にひどい目にあわされたばかりであった。
普通もっと、なんでもっと早く来なかったんだとか、おまえたち人間が憎いとか、なんならもっと暴れていても不思議ではなかっただけに、こうも素直に感謝されるとは思ってもなかった。
娘が会いたがっているというだけですんなり娘と会わせたグレイズもグレイズだが、だいぶふわふわした親子なのだと思う。
親戚だという氷華の傍に控える焦凍は警戒を怠っていない様子であるし、普通これが正しいんじゃねぇのと爆豪は少々呆れてしまった。


「んじゃ俺はこれで。失礼しますオヒメサマ」
「え……?」
「……もう用は終わっただろ」
「え、あ……そう、ね……そうだわ……」
「? まだなんかあんのかよ」
「よかったらお茶でも飲んでいきませんか? 私その、もうすこし色々お話したいな」
「はぁ?」

まさかのお茶のお誘いに爆豪は眉をひそめた。面倒くさい上に話ってなんだよ話って何話すんだよと言った気持ちであった。完全に今のはお姫様のその場の思いつきである。
どういうわけかお姫様はまだ爆豪に帰ってほしくないようであった。まったくもって意味がわからない。吸血鬼のお姫様の考えることは突飛であるなと思うのだった。

だがまぁ、焦凍がそれを却下するだろうと思っていた。ずいぶんお姫様を大事にしているようであったし、この中じゃ爆豪を唯一警戒していたものだから。けれど意外なことに「準備してもらってくる」とあっさり許可が出た。いやなんでだ。姉の冬美が「私がやるよ」と準備しに出ていってしまう。いやまて本当にそれでいいんか。爆豪はもしかしてと考えに至る。こいつら親戚よろしく全員ふわふわしてんのかってやつである。大体合っていた。







「お菓子とか食べ物とかはそんなに人間と変わらないって聞いたんだけど……ほんとかな?」
「ああ……間違ってねぇよ」
「よかった。爆豪くんは何が好き? 甘いもの嫌いといけないから辛いのも用意してもらったんだけど……食べれる?」
「問題ねぇ」
「飲み物は? 紅茶は好き? それとも炭酸? 私は紅茶が好きだな。お砂糖を入れるの」

なんかこのお姫様ぐいぐいくんな。と爆豪は少し引いていた。ずっと屋敷に閉じこもっていたというし人間が珍しいのかもしれない。これはもしかしてペット扱いでもされてんのかとキレかけたが、どうもそうではない。どちらかというとお姫様の方がペットのようなものだった。飼い主の気を引きたくてあれやこれやと構って攻撃をしかけてくるペット……爆豪はやはり何が何だかわからなかった。


「ねえ爆豪くん、爆豪くんは狩人なんだよね? その若さであの依頼を受けるってことはものすごく優秀なんでしょう?」
「あ? そりゃそうだな。俺はすげぇ優秀だ」
「やっぱり! あのね、爆豪くんが掌から出してた爆発、あれって狩人の武具の一つ?」
「それがどうした」
「すごいなって思ったの! あんなに大きな爆発もだけど、爆豪くんまるで純血の吸血鬼みたいにピョンピョン跳ねてるんだもの! あれって誰でもはできないんでしょう?」
「あったりめーだろ。俺はそこらの有象無象とはちげぇんだよ」
「ふふ、爆豪くんってとってもすごいのね」

正直に言おう。悪くなかった。ご機嫌取りで言われてるのであればそっこうブチギレるところであったが、氷華の瞳はどこまでもキラキラと輝いていたし、そんなに煩くはないもののテンションも上がっていた。
心から爆豪くんすごい! 素敵! といった感じは爆豪の自尊心を満たしたのだった。だからつい、気分がよくなってしまった爆豪はつい、あまり考えもせず頷いてしまったのだった。


「またこうして私と会ってくれる? 爆豪くんのすごいお話もっと知りたいな……」
「しょうがねぇから教えてやるよ。あんた箱入りが過ぎるしな」
「! 嬉しい、ありがとう……!」

あとベストジーニストから情報提供された激辛好きにはたまらない食事が爆豪の機嫌を爆上げしていた。
腹が満たされて、協会本部に帰ったころ爆豪はようやく正気に戻る。







「いやなんでだ!!?」

いつの間にか吸血鬼のお姫様とおそらく定期的な接点を持ってしまったのも、それに軽く頷いた自分も爆豪は信じられなかった。
だがしょうがない、まだ14歳だもの。育ち盛り、思春期の男の子に轟冬美の四川麻婆と氷華の整い過ぎた美貌は効果覿面だった。
けれどそれを爆豪がしょうがいないと思えるはずもなく、次こそは流されねぇと爆燃えするのであった。

 


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