「勝己くん、今日は何が食べたい?」
「……辛けりゃなんでも」

「こっちとこっちどっちがいいかなぁ……こっちかな。勝己くんかっこいいから何でも似合っちゃって迷っちゃうな」
「……そうかよ」

「勝己くんちょっとこっち来てくれる?」
「ンだよ」
「ちょっとお屋敷を改修してね。勝己くんも気に入ると思うの! じゃーんっ! トレーニングルームです!」
「!!? いや広すぎだろテーマパークか!!」

爆豪は頭を抱えていた。この見た目の儚さとは裏腹に、中々に強烈なお姫様から告白を受け精々惚れさせてみろと言ったはいいが、それからの氷華の猛攻がすさまじかった。
衣食住が意味わからんほど充実しすぎた。そしてこの感じどうも父親であるグレイズも協力しているらしい。いやなんでだ。俺人間だぞとげっそりした。
氷華がそこら辺の吸血鬼なら人間との恋愛も障害というほどではないだろうが、お姫様なのである。本来「おまえのような人間が相手とは認めない」と協会に乗り込んできたときのように牙をむき出しにするものじゃないのか。間違っても「よく来たな」などと歓迎されるものではないはずである。


「おまえら……んでそんな親子そろって歓迎しとンだ。俺ァ人間だぞ……」
「人間でも私は勝己くんが好きだよ」
「そういうことじゃねェわ。普通大反対されるもんじゃねェの。俺が受けてきた依頼でもそういうのは珍しくなかったぞ」
「それは――私の恋が期限付きだからじゃないかな。勝己くんと過ごせるのはすごくうれしいよ。でも私たちにとってはきっとすごく短い間だもん」
「……おめーでも数百年は生きてんだったか。……俺の一生なんざおまえらにとっては瞬きみたいなもんか」

つくづく吸血鬼とは規格外の化け物だと思う。同い年にしか今は見えなくても爆豪が大人になって、年を取って死ぬ時が来ても氷華の見た目は今と変わらないだろう。
だから人間と恋に落ちた吸血鬼は人間を眷属にして同じ時を生きようとする。ふと思う。こんだけしがみついて好き好きしてくる氷華にその選択肢はないのかと。


「おまえは俺のこと眷属にしようとか思わねェのか」
「……勝己くんは眷属になりたい?」
「なりたくはねェ。お前に生殺与奪を握られるようなもんだろ」
「うん。そういうと思ってた。しないよ。勝己くんが嫌がることはしたくないし、それに……私は吸血姫きゅうけつきだから」
「……責任は果たすんだったな」
「……うん。じゃないと大変なことになっちゃう」
「よくわかってンじゃねェか」

王家の抑止力あってこその吸血鬼社会である。だからこそ王家に反逆を企てるものは少なくないが、それでも秩序を保っているのは王家の力あってこそだ。王家の純血を絶やすことは吸血鬼社会を瓦解させる起因となる。
今は思う存分恋をしている氷華も爆豪の死後はちゃんとそれを受け入れ、純血と縁を結ばねばならないのだ。
未来を想像して辛くなったのかぎゅっと氷華が爆豪に抱き着いてきた。爆豪はため息をつくと「おまえ、結構甘えるよな」としょうがないとばかりに頭を撫でてやる。

先日揉めた氷華が誂えさせた武具は根津にも申請をして携帯できるようになった。爆豪の想像以上に気合を入れた品であったようでベストジーニストが触れたところ結界が発動し手を弾いた。吸血姫の想い人のための品。そこまでされたらもう受け取るしかねぇなと思ったのだ。それにいざ使ってみたところ出てきたのは氷だったがこれが爆発的威力を齎した。正直かなり気に入った。意匠は氷華を彷彿させる洒落たもので、自分の男だと主張される気分になったが、まぁそれはそれである。







「お。来てたのか」
「……エンデヴァーんとこの」
「……それやめてくれ。あいつの名前出されんのは嫌だ。轟か焦凍でもいいからこっちで呼んでくれ」
「あ? なんかめんどくせーな」

少し落ち着いた氷華がお茶を淹れてくると出て行った間に焦凍が部屋に来客した。エンデヴァーのところの焦凍は色々あって父親のことが嫌いなのである。


「あいつなら茶淹れにいったぞ」
「そうなのか。じゃあここで待たせてもらうよ。帰ってくんだろ」
「……勝手にしろ」

焦凍と氷華は実に数日違いで生まれた従姉弟らしい。この焦凍は氷華を大事にしているようでちょくちょくこうして会うことがあった。いつも特に約束はしていないようだが結構頻繁に来ている。
純血の吸血鬼とは血統に重きを置くため、名家同士では血を濃くするために親戚同士で婚姻を結ぶことも少なくないと聞く。氷華は氷系に秀でた力を持っているし、焦凍も炎と氷を得意とする。なんとなく、自分がいなくなった後氷華と縁を結んで吸血鬼社会を盛り立てていくのはこいつではないかと爆豪は密かに考えていた。


「最近氷華が毎日楽しそうだ。おまえのおかげか?」
「あ?」
「違うのか? 俺と話すときはほとんどおまえの話か料理の話しかしねぇんだが……」
「……別に違うとも言ってねェわ」
「そうか。ならやっぱりそうなんだな。いつもありがとな」
「……何でおめェが礼言うんだよ……」
「氷華は大切な従姉弟だ。あいつが楽しそうにしてると俺も嬉しい」

思わずずっこけかけた。相変わらず氷華といい、その親戚といいふわふわしてやがる。最初こそ、でも氷華は俺のだってマウントかと身構えたものの、そんなことはなかった。
爆豪と氷華の恋はいわゆる許されない恋というやつであるはずだ。けれどそういう障害が目に見えて立ち塞がってくることはなかった。それが何だか気味が悪い。


「楽しそうなのも今だけだわ」
「? なんでだ?」
「……人間と吸血鬼の恋愛なんざ、悲恋もいいとこだろうがよ」
「……そうか」
「俺はどうしたって吸血鬼ほど長くは生きれねェぞ。そんなもんを一生分の恋にすンのは……バカだろ」

さっきだって氷華は辛くなっていたのだ。泣くとわかってるし、氷華が次の恋に踏み出せるほど器用な女ではないことは接していてもう十分に分かった。爆豪と氷華の恋は悲恋で終わる。今は楽しく幸せそうに過ごしていても、きっと泣き暮らす。そんなこともわかんねぇのかと爆豪は周囲の止める様子もない様に少しイラっとしていた。


「……俺にはそういうのよくわかんねェが……それでも、氷華は今楽しそうだ」
「俺がいなくなった後の方がどうしたって長ぇよ」
「そりゃ種族が違ぇんだから仕方ねぇ。でも、氷華だってそんなの承知で一緒にいるんだろ? ならいいじゃねぇか」
「何がいいンだよ何が」

どこか苛立った様子の爆豪に、焦凍は少し考えて、思い出したようにそうだ、と続けた。


「……恋は落ちるもんなんだと」
「あ?」
「姉さんの受け売りだ。落ちたら最後どうしようもない。ただその人を求めて進むだけだ。氷華は進むことを選んだんだろ。だったらおまえも……最期のその時まで氷華と一緒にいてやってくれ」
「……」
「安心した。氷華の片想いならちょっと辛ェなと思ってたんだが、ちゃんとお前も氷華が好きみたいで」
「は!? 誰が好きだって!? 別に好きじゃねぇわ!!」
「? 好きだろ。じゃなきゃこんなに赤の他人の氷華の将来のことまで思えねぇ……と俺は思うんだが……」
「…………うっせ黙れ」
「お。わかった」

恋は落ちるもの。そんなの爆豪だってわかっている。今まで可愛いとか感じたことがなかったのに、氷華にそれを感じてしまってからずっと氷華のこれからが心配でならない。まだ自分に残された時間はたくさんある。けれど吸血鬼にとってはそんなものは一瞬なのだ。
自分は死ぬまでの間にどれだけのものを氷華に残せるだろうか。自分がいなくなったあと氷華が泣き暮らさないといいと思いつつ、それは無理だろうなとも思う。なら泣いてても、自分と過ごした時間を何より尊いものとして抱きしめて生きていってほしい。

14歳にして吸血姫と邂逅し、見初められた爆豪少年はそんな大局を見ていたのだった。

 


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