恋人らしいこと
爆豪が焦凍と話をしてしょうがなく自身の恋心をある程度認めてから2年が経った。16歳である。少し身体ががっちりとしてきた。氷華が以前にも増して抱きしめられたがる。恋人のようにいちゃつくこともそれはもう増えたが、依然として爆豪はこれといった告白はしていなかった。そんなもん言わなくたってもうわかんだろって感じである。
「勝己くん、今日はお泊りできる?」
「ん。まァ……できねェことはねェな」
「じゃあお泊りしよう? 一緒に寝たいな」
「バッ! お前なァ……!!」
氷華の甘え癖は相変わらずであった。それはもう爆豪とて恋人みたいなものなのだからいいとして、泊まるのも何度かあったものの、まさか一緒に寝たいとくるとは思わなかった。
傍付きのメイドである切奈は今にも黄色い悲鳴を上げそうだったし、一佳の方はちょっとかなり戸惑っていた。性格が出る。
「だめ……?」
「…………おまえ、何されても文句言うんじゃねぇぞ」
「? 勝己くんが何かするの?」
「……そういうことだがよ、おまえ知らねぇンか」
「よくわかんないけど、私勝己くんにされることで嫌なことなんてきっとないよ?」
「……おいおまえら、席外すからしっかり教えとけ」
箱入りが過ぎる。爆豪は庭に出て深いため息をついた。なんだか色々試されているような気さえしてくる。その間主に切奈が嬉々として男女のことを氷華に教えており、一佳はげっそりしていたのだった。
「……で、理解したンか」
「…………うん」
頃合いを見て戻ってくると氷華が両頬に手を当ててぽうっとしていた。雪のように白い肌が赤く染まっている。どうやら本当に理解したらしい。まぁ、随分大胆なお誘いであった。
「どうすンだ。一緒に寝るってンなら俺はそういう意味と受け取るけどよ。おまえは?」
「……うん、私も同じ気持ち……」
「……ったく大胆なお姫様だなァ。土壇場でやっぱやーめたとか聞かねェかンな」
「言わないもん」
ちゅっと軽いキスをする。口ではこういったが爆豪は氷華がやっぱり無理となるならそれでもよかった。吸血鬼と人間の時間の流れは違うのだ。一生抱けないとなると話は変わってくるが、とりあえず何度か挑戦すりゃいいと思っていたのだった。
「……おい、おまえ大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……」
「ガチガチじゃねェか……」
「だって恥ずかしいんだもの……」
いざそういう時間になると氷華が随分と緊張していた。まだ何もしていない。おそらく切奈の計らいであろう氷華は薄着だったというか……やけにひらひらしたベビードール姿でそこにいた。それがまた恥ずかしかったのだろう、似合ってはいたが返って緊張してしまったようだった。
「ほら……こっち向け」
「ん……」
キスをして頭を撫でて、それから優しく抱きしめる。段々キスを深くしていってそっちに集中させた。力が抜けてふにゃんとする氷華をそのままベッドに横たえて唇を離す。ツーっと銀の糸が引いた。
頬を上気させとろんとした目をしている氷華を見下ろし、爆豪が思わずといったようにつぶやいた。
「すきだ……」
「……ふぁ」
氷華が何て言われたのかその意味をちゃんと理解する前に爆豪が照れ隠しのようにまたキスを始めた。胸を優しく揉まれ、少し尖った耳を甘噛みされて甘い声が出た。もう何が何だかわからない。爆豪の興奮したような吐息が擽ったい。「かつきくん……」「氷華……」甘えるように呼べば呼び返してくれる。そういえば初めて名前呼ばれた気がすると回らない頭で氷華はそんなことを思った。
何も怖いことはなかった。ただ気持ちいなってのと爆豪が余裕をなくしたような顔が印象的だった。お互いがお互いに夢中だった。「すき、すきっ……かつきくん、すき……!」「……ん、俺も……好きだわクソっ」相変わらず口は悪かったけど。氷華に触れる手はどこまでも優しかったし、なんだかとっても幸せだった。
「起きたか。身体平気かよ」
「ん、へいき……でもまだ眠たいな」
「なら寝てろ。まだおまえたちが起きるには早いだろ……って、寝んじゃねぇのか」
身体を起こしてぎゅうっと抱き着いてきた氷華に爆豪が疑問を呈す。とても寝る感じではない。すりすり擦り寄ってくるから完全に甘えたモードである。
「甘えたい気分」
「散々甘えただろうが」
「んー、ふふ」
「何笑ってんだよ……」
「勝己くんが好きっていってくれて嬉しかったなって」
「……野郎の最中の好きほど信用できねぇもんはねぇぞ」
「え……」
「…………まァ、俺のは信用してもいいけどよ……」
「うんっ、信用する……!」
つい意地悪を言ってしまったが、氷華がそれはもうショックを受けた顔をしたので訂正した。すぐに機嫌を直してぎゅうぎゅう抱き着いてくるものだから本当にチョロくて心配になる。爆豪は身体も繋がったからか以前よりずっと氷華を身近に感じていたし、自分の彼女だという自覚も強くなっていたのだった。
「勝己くん」
「ンだよ」
「私、勝己くんの彼女だよね……?」
「……付き合ってねェ女抱くわけねェだろ。しかもおまえだぞ……」
「えへへ、そうだよね……やっぱりそうだよね……!」
「ったく、当たり前ェのこと聞いてンな」
「わかってたけど言ってほしかったの〜!」
氷華のふわふわの髪を撫でながらそんな話をした。本当に今更であった。その後もいちゃいちゃと過ごしては「勝己くん、また甘えたいな」と甘えてきた氷華の声に押されるように再び睦合う。
――これが二人の蜜月の始まりだった。
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