焦凍が出してくれた提案を氷華が爆豪に話すと、爆豪は深く考えだした。そして氷華を膝に乗せて抱きしめると髪を梳いて口を開く。


「おまえはこれ受けたいんか」
「…………出来るならそうしたい。勝己くんの子どもが欲しい」
「……わかった」

爆豪の脳裏に焦凍の姿が浮かんだ。強い純血の吸血鬼。もう一つの王家の三男坊。エンデヴァーの最高傑作。焦凍なら自分がいなくなったあとも氷華によくしてくれるだろうと思う。自分と氷華の子もきっと可愛がってくれる。人間と吸血鬼のハーフというのは変わらないが、焦凍が守ってくれるなら希望はあった。
氷華は子どもが欲しいという。爆豪だってできることならそうしたい。自分がいなくなった後の氷華が少しでも希望を持てるのならそれでいい。そう、思っていたはずなのに。







「……かつき、くん……?」
「…………悪ィ、やっぱ無理だわ」
「どうしたの……? 気持ちよくなかった……?」
「そうじゃねェ……そうじゃねェんだよ……!」

無理だった。子どもを作ろうとして、自分の子どもが氷華と焦凍と、そして氷華と焦凍の子どももいる中で、氷華がふわふわ笑って幸せに暮らしているのを想像すると無理だった。
自分のいなくなった後、泣き暮らさないといいと思っていたのに、自分がいなくなった後、何の憂いもなく幸せに誰かと家庭を築いている氷華を想像すると、なんでおまえ俺がいねぇのに平気なんだよ、と腹の奥からドロドロとしたものが渦巻いて仕方なかった。
赤い瞳に涙を浮かべる爆豪を氷華が慌てて身体を起こして宥める。


「勝己くん、どうしたの? 何か嫌だった……?」
「ああ嫌だ! おまえもう、もう……俺が死んだ後幸せになんかなるんじゃねェ……!! ムカつくから一生俺のこと引きずって生きてろ……!!」
「……え?」
「俺が死んだあとのうのうと結婚して野郎の子ども産むなんざ認めねェし、俺との子どもが他の野郎をお父さんなんて呼ぶのも許さねェ!! 俺だけの氷華でいろや!! クソ!!」

もう大爆発だった。爆豪はもうボロボロと泣いて怒っていたし、氷華も呆気にとられた。絞め殺すのかというくらいに氷華をきつく抱きしめ「俺が死んだらおまえも死ね」なんて物騒なことを言い出すし「何でおまえ吸血姫なんだよ。一人っ子とかふざけんな」「グレイズ今からでも子ども作れよ……」「おまえを攫ってやりてェ」もう無茶苦茶だった。今まで心の奥底に閉じ込めていた欲求が次々とあふれ出す。
氷華もそれを聞くたびに涙が零れてきた。きっとずっと、心は一緒だ。自分だって爆豪以外の誰かと結婚なんかしたくない。


「なァ氷華、俺が死んでも俺だけに縋って生きろよ。救いは思い出だけでいい」
「いいよ。いいよぉ……勝己くんだけでいいよ……!!」

夢想する。もし自分が吸血鬼だったら、氷華が人間だったら。悲恋にはならなかった。爆豪の時が停まっても氷華の時は停まらないし、冷静に考えたら氷華のこれからの時は永遠にも等しいのだ。それをたった瞬きのような間の思い出だけをよすがに生きろと言うのは無茶苦茶が過ぎると爆豪もわかっていた。
でも、今この時だけは……押し込めた本音を吐き出したかった。


「ったく、平気だと思ってたのによ……いつの間にかそんなン無理になるくらいおまえのこと好きだわバーカ!! おまえの一生貰わねェとやってらンねーっての!!」
「全部あげる。ずっと勝己くんが好き……大好き、愛してる」
「俺も……愛してる」

どうかこの恋が永遠でありますように。祈りにも似た願いがいつか形となればいいと、そう思った。







「……本当にいいのか? 俺は気にしねぇぞ?」
「おまえが気にしなくても俺が気にすんだよ。おまえも他の野郎共もお呼びじゃねェんだわ。こいつはずっと俺のだかんな!」
「うん。ありがとう焦凍くん。でも大丈夫。二人で決めたから」
「そうか……気が変わったらいつでも言えよ」
「誰が変わるかバーカ!!」
「かつきくんっ」

氷華を後ろからすっぽり抱きしめてグルルルルと威嚇する爆豪に氷華が諭した。焦凍はまったく気にした風もなく「長生きしろよ」と爆豪に声をかけて帰っていったのだった。


「おまえほんと気をつけろよ……男には気をつけろ」
「心配性だねぇ……大丈夫だよ」
「おまえのそういう大丈夫はあてになんねェんだよ。ほんと気をつけろ!」
「ふふ、はーい」

いまいち信用していない爆豪が氷華に口酸っぱく男に気をつけろ、隙を見せるな、俺以外と結婚すんじゃねぇぞと伝える。くすくす笑いながら返事をする氷華に焦れたように「聞いてンのか!?」吠える爆豪の様子をグレイズが小さく微笑んで見守っていた。それに気づくと爆豪は真面目な顔つきになり、グレイズのところに歩みを進めるとがばっと頭を下げた。


「お義父さん、お嬢さんを嫁にください」
「勝己くん……!?」
「ほう」
「必ず迎えに来ます。氷華さんが泣かなくていいように。一緒にちゃんと・・・・・・・幸せになるために」
「……ああ、わかった。待っている・・・・・
「あざっす!!」

このプロポーズから時は流れ、数十年があっという間に経過し、爆豪は瞳が落っこちるのではないかと心配するほどボロボロ涙をこぼす氷華に抱きしめられて大往生を迎えた。二人の間に子供はいない、氷華の救いは思い出だけ。けれど確かに二人はこれからの未来に希望を託していたのだった。

――夢想する。もしも、自分が純血の吸血鬼だったなら。悲恋をハッピーエンドに変えれるはずだ。もう大事な彼女が泣かなくていいように。

 


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