輪廻をめぐって
爆豪が人としての一生を終えて実に数百年の時が流れた。氷華はやはり寂しくて涙する日々を過ごしていたが、爆豪が最期まで残してくれた思い出を大事に抱えて生きていた。
もう氷華も成人を迎えた立派なレディである。白雪の姫としてそれは多忙な日々を送っていた。今日は屋敷内で氷華の成人を祝してパーティーが開かれている。名家の純血の吸血鬼もそれは多く参加し、実に賑わっていた。
「氷華様、ご成人おめでとうございます」
「ありがとう。わざわざ遠くから来てもらって嬉しいわ」
「白雪の至宝の記念すべき日でありますから。つきましては氷華様にご紹介したい者がおりまして」
「誰かしら?」
誰かしらといいつつ、氷華は微笑みの下でまただわ、と内心ため息をついた。先ほどから息子だ親戚だといった紹介が多いのだ。純血の姫の成人であるからここぞとばかりに縁を繋ごうと必死なのである。
「氷華様、ご成人おめでとうございます。私も純血の成人した男として是非ご挨拶をさせていただきたく……!」
「まぁ、ありがとう」
「……氷華様、本当に美しいです。どうかあなたの美貌に魅せられた哀れな私にご慈悲を……」
「……ごめんなさい。私には心に決めた方がいるのです」
手に触られる前に氷華はきっぱりと拒絶した。もし触られでもしたら爆豪がそれはもう怒ってしまう「おまえあれだけ触られンなって言っただろうがくそがあああ!!」といった感じである。晩年も爆豪の爆発的な独占欲は健在であったし、気の短さは年を取るにつれ丸くなってきたが、それでも口酸っぱく「男には気をつけろ」「絶対油断すんな」と言われ続けたものである。
「まだ……あの人間を引きずってらっしゃるのですか……?」
「引きずるというより、信じているのです」
「信じる?」
「……彼は私を迎えに来るといったので。有言実行の人ですからきっとそのようになるでしょう」
彼は、爆豪はいつだって有言実行の男であった。まして吸血鬼の王である父にお嬢さんをくださいとまで言ってのけ、迎えにくると宣言したのだ。そして父もそれを受け入れた。だからきっと大丈夫、いつかは必ず訪れる。今際の際も爆豪は自分との未来を約束してくれたから。
「ですが……」
「やめとけ。氷華はこの調子で何年もこんな感じなんだ。俺の求婚もとっくに蹴られてるからな」
「しょ、焦凍様……!」
「わかったらさっさと行け。しつこいのはよくねェぞ」
「は、はい……」
「焦凍くん、ありがとう」
「いや、大したことじゃねェ。お前も大変だな」
焦凍は相変わらずいい従姉弟であった。求婚なんて言ったが、氷華と爆豪のために提案してくれたときの話だ。それでも求婚する輩を蹴散らすには楽だという理由で氷華に振られた男の体をしてくれていたのだった。本当にいい従姉弟である。
「もう爆豪の奴、転生してんのかな」
「どうかな……でもそんな気もする。勝己くんせっかちだから」
「そうだな。すぐ生まれなおしてそうだ。となると……今子どもか?」
「そうかも。大体……5歳くらいかな……?」
「なら今回のパーティーに参加できなくもない、か……?」
「うーん……なかなかそれくらいの子を連れてくるお家もない気がするなぁ」
「それもそうか」
吸血姫の成人パーティーである。そんな大事な場に子供を連れてくる家はほとんどないだろう。氷華はすっかり今回の再会は諦めていた。それとなく純血の家にも該当する男の子がいないかと探ったりしていたのだが、まだそれらしい情報はなかった。けれどなんとなく、氷華は爆豪がどこかにいるような気がしていた。
そんな談笑を焦凍と続けていると、ものすごい勢いで焦凍に突進してきた子どもがいた。
「お」
「しょ、焦凍くん!?」
間の抜けた焦凍の声とは裏腹に、氷華が慌てた声を出すとその突進してきた子どもが今度は氷華に抱き着いた。クリームにも似たとげとげとした金髪。わずかに見えた赤い目。氷華は理解するより先に涙がこぼれた。
「ったく!! おまえは俺の言うこと聞きゃしねぇ!! 男には気をつけろって言っただろーが!!」
まさにその姿は、その声は、その口調は爆豪勝己その人だった。爆豪の保護者であろうと男と女が顔を真っ青にして焦凍と氷華に謝罪と爆豪に離れるように言う。二人が口にした「勝己」それは間違いなく爆豪の名前だった。
氷華はぎゅっと爆豪を抱きしめる。ボロボロ泣く氷華に焦凍がよかったなと笑った。
「会いたかった……! 会いたかったよ勝己くん……!!」
「俺もだわ!! 吸血鬼ってのはほんと長生きだな!? 俺が生きてたときより転生してから今までの方が長いってほんとやってらんねーわ!」
「そうだよ……思い出だけじゃやっぱり辛かったよ……!」
「……それはまぁ悪かった。でもいいだろもう、ちゃんと迎えに来たぞ! 氷華!」
「うんっ、うん……! 迎えに来てくれてありがとう……!」
騒ぎを聞きつけ、駆けつけたグレイズがこの光景を見てすべてを察した。「思ったより遅かったな」とグレイズが言うと「ジジイとババアが俺の言うこと信じてなかったンだよ! おかげで予定狂っちまった!」不満たっぷりに爆豪が吠えた。
爆豪は転生して喋れるようになるとすぐ、氷華に会わせろ、俺が運命だとそれはもう訴えていたのだが、純血名家といえど爆豪の新しい両親はわりと謙虚なほうであったようで、そんな恐れ多い、そんなわけがないと爆豪の言葉を聞き入れなかったのだった。
だがあの手この手でなんとか氷華に確実に会える成人パーティーの参加をもぎ取り、そうして今に至るという。爆豪の両親はまさか本当だったなんて、氷華様に寂しい思いをさせて申し訳なかったと今度は違う意味で顔を真っ青にするのだった。
「いえ……彼を生んでくださったこと深く感謝いたします」
「良いところに生まれたな。おかげで姻戚関係に悩まされることはなさそうだ」
「俺がンな苦労こいつにさせるわけねーだろ!」
「そうだな。ところで……私に何か言うことはないのか?」
グレイズがいたずらに問いかける。爆豪は揶揄われていると思いつつも、腹をくくって今一度許しを請うた。人間の時願った言葉を少しだけ変えて。今の爆豪ならできる宣言だった。
「…………お義父さん、お嬢さんを嫁にください。
「勝己くん……お父様、私からもどうか……」
「もとよりそのつもりだ。幸せになりなさい」
氷華の成人パーティー、それは同時に氷華の婚約も発表された。
夢想した未来がそのまま形となる。好きな人とずっと一緒に生きていく。これこそ完全無欠のハッピーエンドだった。
「大好きだよ、勝己くん」
「俺も。お前が好きだ」
――吸血鬼社会の未来は明るく希望で満ちている。
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