あなたと私の初デート
体育祭終了後、爆豪と連絡先を交換した氷華はそれはもうご機嫌だった。
HRにブラドキングが明日と明後日は休校だと伝えると、氷華は天啓を得た気がした。HRが終わると真っ先にスマホを取り出し、追加された爆豪とのまだまっさらなトーク画面を開く。
「(明日か明後日、デートしませんか?)」
送信と、迷いなくタップした数秒後既読が付き、わくわくしていると「誰がするかボケ!!!」と返信がきた。トーク越しにもそれはもう色々爆発させているだろう爆豪が浮かんで、嬉しくなった氷華はちっとも懲りずに追撃した。
「(お家にお父様自慢のトレーニングルームがあるので休校ならちょうどいいかなと思ったのだけど、予定があるなら残念。また今度一緒にやりましょう)」
送信すると今度は既読がつかなかった。これで用はとりあえず終わったので、問題ないと氷華も帰宅することにした。結局既読がついたのは次の日の昼に近い朝で「それをはよ言えや!!」とこれまた爆発した返信が来てさっそく当日デートの運びとなった。なおこれをデートと呼ぶのかは定かではないが氷華はとっくにそのつもりである。
「爆豪くんっ、こっち!」
「おう……」
昼過ぎに駅で待ち合わせ、現れた爆豪に氷華がそれはもういい笑顔で手を振っていた。何も知らない人が見たら完全にデートの待ち合わせである。結局相手の思うつぼにはまった爆豪は釈然としないものの、やはりNO.4ヒーローの自宅に備えられたトレーニングルームの誘惑には勝てなかった。それにこのおっとりとしていながら中々押しの強い氷華の実力も本物なのだ。観客という邪魔な存在がいない中で手合わせしたい気持ちも強かった。
「おいこら、勝手に手繋いでんじゃねぇ!!」
「あ……勝手にごめんね? 繋ご?」
「誰が繋ぐか!!」
小首を傾げて氷華はちっとも断られるとは思っていない様子でキラキラしている。爆豪の怒鳴り声に通りかかったおっちゃんが「照れ隠しかー! いいね青春だねぇ! 体育祭見たよ! なかなか似合いな二人じゃないか、別嬪な嬢ちゃん頑張んなー!」と陽気に声をかけた。それに無邪気に返す氷華にこの女まじか、と爆豪は恐ろしいものを見た気がした。
完全に通行人からは彼カノに見られている、もう爆豪は完全に素直になれない系彼氏だった。冗談じゃない。だがここで氷華の機嫌でも損ねてNO.4自慢のトレーニングルームを見れない使えないなんてそれこそ冗談じゃない。なんのために新幹線使って遥々ここまできたというのか。断腸の思いで爆豪はしぶしぶ、本当にしぶしぶながら受け入れることにした。ご機嫌な氷華はそれはもう上機嫌で腕まで勝手に組み、あのねあのねと話を振ってくる。こうなれば自棄だ。幸いどんな適当な返事でも氷華は満足らしい。だがそれはそれとして覚えてろよこのクソアマァぜってぇ泣かす。
「いや……まじかよ」
氷華の振る舞いやNO.4ヒーローの自宅というのでそれはまぁそれなりの豪邸だろうと覚悟はしていた。だがあくまでもそれなりであった故にこの自宅には驚かされた。
大豪邸だわ。なんだこれ、門から玄関までが遠い、とにかく遠い、なんでまたどデカい噴水なんてあるんだ。なんのためだよ。てか庭どうなってんだここは西洋貴族か。もうツッコミが追い付かなかった。なんかどっと疲れた。体育祭より疲れた。もういいからさっさと案内してくれとさえ思った。
結果としてNO.4ヒーローが特に力を入れているトレーニングルームは大満足どころじゃなかった。もう俺ここに住むとまで思った。氷結ヒーローとだけあってか、冷気に関係する機材がよく働いている。全力で氷華とぶつかるそれはもう最高に楽しかった。その上サウナまで完備してあるこの自宅ときたら最高だ。最高としか言えねぇ。轟との決勝戦もここまで来る道すがらもこの時間だけはもう何もかもどうでもよくなった。控えめにいっても最高だった。
何かを察知したのか、氷華がせっかくだから泊っていかないかと誘ってきたときには思わず頷きかけた。いやダメだろ!! それはダメだろ!! 全力で説教した。
かわりにじゃあどうかご飯だけでも食べていってほしいと瞳を潤ませ懇願してくる氷華に折れ、爆豪は謎に激辛料理を馳走になった。おまえ料理できるんかと驚いたがなかなかどうして……美味い。
彼は知らない、トーナメントで当たったのを機会に氷華が芦戸と連絡先を交換しており、そこからまるで連絡網のごとく爆豪の好物が割れているなど。
「また明日もきてね、待ってるから」
「……おう」
結局明日も来ることにした。いやだって……ダメだろこれは。抗えねぇ。
爆豪は謎の危機感を感じつつも、やはりこればかりは抗えなかった。
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