楽しくない障害物競争


障害物競争が始まった。イブには羽がある。4kmもあるのだ、歩くより効率がいいためイブは開始前から飛んでいただがそれが功を奏した。スタートと同時に轟が氷結で妨害を仕掛けたのだ。飛んでいたイブは奇跡的に回避し、前へ進むことが出来ていた。


「甘いわ轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」
「っぶな」
「二度目はないぞ」
「びっくりした〜! イブね、飛んでなかったら凍ちゃってたんだよ」
「イブ運だけはいいもんなぁ」

イブは飛びながら聞いて聞いてと近くにいた瀬呂に話しかけた。くるくる飛び回るイブに「お前もちゃんとゴールするんだよ」と瀬呂は苦笑した。大事な競技であるがA組の末っ子が心配だったのだ。イブは元気よく「ゴールするー!」と答えたのでとりあえず大丈夫だろう。クリーム脳だがA組みんなのいうことはちゃんと聞くのだ。


「クラス連中は当然として、思ったよりよけられたな……」
「轟のウラのウラをかいてやったぜ。ざまあねえってんだ! くらえオイラの必殺――」
「峰田くん!!」
「わー! だいじょうぶー!?」

峰田がロボットに跳ね飛ばされた。第一関門ロボ・インフェルノ。ヒーロー科の入試で出た仮想敵が障害物として立ちふさがっていた。イブは峰田に駆け寄り傷を治してやった。


「イブおまえ……オイラを治してくれるのか? 体育祭だぞ。ちゃんとわかってんのかおまえ……」
「? 体育祭だからとかはよくわかんないけど……イブはA組みんなが怪我するのいやだよ。怪我したらね、イブが治してあげるんだ」
「おまえ……天使か……」
「そだねぇ、イブの個性は天使だねぇ」

峰田はもちろんそういう意味で口にしたわけじゃなかったが、にこにこして治してくれるイブは本当に天使だった。性欲の権化と名高い峰田でさえそれは侵しがたい尊い聖域に感じた。峰田が浄化された瞬間である。これ以後峰田はイブに対して性欲を向けることができなくなった。そういうものを向けていい相手ではないと理解したのだった。セコムがまた一人増えた。
それからもイブはロボ・インフェルノの妨害で傷ついた者たちを癒していった。


「下敷きになんて大変だったねぇ……もう大丈夫だよー」
「ありがとなイブ!」
「……A組にもいい奴いんだな。助かった、ありがとな」
「どういたしましてー! A組のみんな優しいんだよ。イブいつも助けてもらってるんだぁ」

にこにこしてA組のみんな大好き! と表情に現れているイブに鉄哲は苦虫を嚙み潰したような顔をした。羽があるんだから爆豪たちのように突破できるはずなのに、競技そっちのけで怪我した奴らの治療にあたってるのを見るとそりゃ過保護にもなるだろうといったところである。
潰される心配のない硬化とスティールの個性を持つ切島と鉄哲はイブに礼を言うと先に突破したが、イブは残って次々治療していくのだからなんだか本当に天使みたいだと思った。


「チョロいですわ!」
「道が拓けた!」
「あの0Pがこんなたやすく……!」
「さ、イブさんも行きましょう!」
「え、でもまだとどろきくんの氷で動けない人たちが……」
「あちらの方々は棄権扱いになりますので先生方が対処してくださいます。イブさんもゴールできなくてはみなさん心配されますわ!」
「あ、そうなんだぁ! うん、イブねせろくんとゴールするって約束したんだぁ。がんばんなくちゃ!」

大砲を創ってロボ・インフェルノを攻略した八百万がイブを促した。ほっとくとどこまでも治癒しに飛んでいってしまうイブを案じていたのだ。出来ることならA組みんなで第二試合に進出したいものである。それに心優しいイブが人助けをしていて進出できなかったなんて悲しい結末にはしたくなかったのだ。八百万はすっかり蛙吹と並んでイブのお姉さんだった。







ロボ・インフェルノを抜けると次の第二関門はザ・フォール。綱渡りだった。またしても飛べるイブには関係なく進めるものだったが、落ちかけている人を見かけるとつい飛んで行ってしまう。力のないイブが抱えて上がることは難しく、必死で羽をパタパタさせているのを気づいた麗日が個性を使って助けてくれた。


「お茶子ちゃんありがとー! イブねちょっとね腕が引きちぎれるかと思ったよぉ……!」
「イブちゃんここでも人助けしとるんやね……すごいヒーローや!」
「う? え、そうかなぁ……じゃあイブを助けてくれたお茶子ちゃんもヒーローだねぇ!」
「わ! 眩しい……! あかん照れてまう!!」

輝く笑顔でヒーローと言われてしまった麗日はそれはもう大層照れた。その後もA組のみんなに応援され、助けられイブはなんとか第三関門に来た。一面地雷原怒りのアフガンである。地雷の位置はよく見たらわかるようになっている。が、飛べるイブには関係ない。全体的にこの障害物競争飛べる人間にやさしく出来ている。まったくもって豪運ラッキーである。


「ううっ、こわい……」
「やっぱイブ止まってたかー! 大丈ー夫! マイク先生も言ってたけど、音と見た目が派手なだけであんま痛くないから!」
「そうそう! ほら! 俺の電撃のが派手でかっこいいだろ!? 大したことねーって!」
「ほんとだぁ! ありがとー! イブもうだいじょーぶ!」

浮遊して地雷原の派手なギミックにビビッて止まっていたイブを芦戸と上鳴が元気づける。中でも上鳴が電気を纏って派手アピールしたのが効いた。こっちの方がかっこいい! とクリーム脳が変換されたのだ。そうしていざ再チャレンジである。順調に進んでいた頃、緑谷が先頭にいた轟と爆豪を追い越しなんと1位でゴールした。「デクくんすごーいっ!」と声を上げていると、苦しむ声が聞こえ振り返ると青山がお腹を壊していた。


「わー! 大丈夫あおやまくん!」
「レディ……大丈夫じゃないかな☆」
「イブ治してあげる! いたいのいたいのとんでいけ〜!」
「ありがとうレディ、君はまさにエンジェルだね☆」
「そうだねぇ、イブの個性はエンジェルだねぇ」

そうして青山を治し終えると今度こそイブも青山とゴールを果たした。ビリから二番目とビリである。それでも第二種目にA組全員進出したことでわいわいと騒いでいた。


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