かっちゃんむりだよ


第二種目は騎馬戦だった。それも障害物競争の順位がそのままポイントに反映されている。イブ自身の持ち点はビリから二番目なのでとても低かったが、1位の緑谷の点がべらぼうに高かった。一人だけ桁が違うのだ。なんと1000万である。
そしてチーム決めの時間となった。イブはぼーっとしていたが、ガシッと肩を掴まれたのだった。







「飯田くんは無理だったけど……多分もう一人はなんとか――あ、イブちゃん!」
「デクくん? どうしたの?」
「僕とチームを組んでくれないかな!? 僕に考えがあるんだ。麗日さんの個性で軽くした状態でならイブちゃんも僕たちを支えて飛べるはず。そしてなによりイブちゃんのお願いが――」
「おいクソデク! 勝手に俺の騎馬勧誘してんじゃねェ!! もうこいつは俺のって決まってんだよ! 他所当たれや!!」
「えええ!? かっちゃん!!? え、イブちゃんかっちゃんと組んでたの!?」
「うん、そうだよ! かっちゃんが誘ってくれんだぁ!」

イブの肩を掴んだ人物、それは爆豪だった。爆豪は真っ先にイブ確保に動いていたのだ。なにせチート個性持ちである。轟も狙っていたようだが爆豪の方が早かった。そしてイブはクリーム脳なので深く考えずに誘われたのが嬉しくて二つ返事で頷いた。これが先に轟が誘っていたなら間違いなくイブは頷いていたし、要は早い者勝ちのラッキーバッグみたいなものである。戦いはすでに始まっていた。


「(しまった……何より誰より先にイブちゃんを確保しに動かないといけなかったんだ……!)」
「わかったならとっとと散れクソナード!」
「クソナードってなに?」
「イブは知らなくていい言葉だ。おい爆豪! イブの前でそういうこと言うのやめろよー」
「切島はちょい過保護すぎな。いいか、クソナードってのは……」
「瀬呂も教えんな! イブの教育に悪いだろ」
「そうかぁ?」

爆豪の残りの騎馬は切島、瀬呂らしかった。緑谷は「ごめん」と言ってメンバー集めに戻っていった。結局クソナードの意味は教えてもらえなかったが「デクくんたちとも一緒に組みたかったなぁ」というイブに案の定趣旨を理解していないなと切島と瀬呂は苦笑するのだった。


「イブね騎馬戦やったことないんだ。騎馬ってどうやって作るの?」
「ん? あーもうそろそろ始まるな。爆豪騎馬作っとこうぜ」
「指図すんな。おら、騎馬作れ」
「まったく暴君なんだから……いいか、イブこうやって手を組んで……ここに爆豪がそう、乗る」
「…………かっちゃん重い」
「あ゛!? おめーが貧弱なだけだわ!!」
「むう……かっちゃんが軽くなりま――ふがっ」
「あっぶねぇ……おまえそういう人体に影響するお願いはすんじゃねぇぞ。体重ってのはすぐに変わるもんじゃねぇ。それでもその願いを叶えるとしたら物理的に何かが減る可能性が高ぇ。絶対使うな」
「ぶつりてき……?」
「あー……腕がなくなったりとか?」
「ふぇっ!!? かっちゃん腕なくなっちゃうとこだったの!? うわーーんっごめんなさいいいっ」
「うっせェな!! わかったらやるんじゃねぇぞ!!」
「絶対使わないいいいいい!!」

びえんびえん泣くイブを切島が「大丈夫だぞー」と慰める。かっちゃんのことも大好きなイブである。そのかっちゃんを傷つけるかもしれないところだったというのが物凄くショックだったのだ。競技が開始しても泣きべそをかいたイブを切島と瀬呂が必死にあやし、爆豪はイライラしつつも競技に挑んでいた。







「かっちゃん……イブ思ったんだけどね、イブが1000万Pもらえるようお願いしたらいいんじゃないかなぁ?」
「ンなもん論外だわ!! チートでもらったところでそれはズルだろォが!! そんなもんは俺が望む完膚なきまでの1位じゃねぇ……!!」
「イブいる時点でチートだと思うんですけどそれはいいんですかー?」
「それこそ使い方だろ! 羽っ子の願い事なんざはなっから宛てにしてねぇ……! 俺がこいつを組み入れたんはひとえにその治癒能力一択だわ!!」
「? じゃあイブいっぱい治すね! 治すのは得意だよ! みんなイブが治してあげる!」
「他のA組の連中には使うなよ。競技だっての忘れんな」
「ええ……!?」

だめなのー? というイブにあたりめぇだろ!! と爆豪が怒鳴る。さすがにこればかりは切島も擁護できず、イブがちゃんと理解できるように丁寧に説明をした。結局競技が終わったら治していいということに納得してイブはちょっとだけみんなに我慢してもらうと約束したのだった。








緑谷へ一直線に文字通り騎馬から飛んでいく爆豪にイブはそれはもう大興奮だった。


「わー! かっちゃんかっこいいー! かっちゃん羽ないのにイブみたいに飛べるのすごいねえ!」
「こんくれー俺にとっては何でもねぇわ!! おめーはいちいち子供みてぇにはしゃいでんな! うるせぇ!」
「ええっ! だってかっちゃんすごかったんだもん……!」
「爆豪、あんまきつい言い方してやんな。イブがこうなんはわかってて引き込んだんだろー」
「ケッ」
「まぁまぁ、イブも競技に集中しような。これ本戦かかってる大事なやつだからよ」
「うー……わかった。がんばる」

イブは唯一爆豪の騎馬の中で爆豪が自分から選んだ騎馬である。爆豪も自分から誘わなきゃイブは他所の騎馬にいっていたと理解しているだけに舌打ちするだけにとどまった。
あとこんくらいとか言ったが正直飛ぶのはかなり努力した。一定の爆破を続ける必要があるので汗腺をどうしても酷使するのだ。第一種目から飛び続けた爆豪にとってリスクを気にせず最大を打ち続けられる治癒というのはかなり魅力的だったのだ。
轟も緑谷もイブのお願い事が目当てだった。けど爆豪は違う。チートそんなものクソくらえだと胸中で吐き捨てたのだった。


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