イブも悔しい


「本当……台無しなんだよねぇ。どうしてそうまで幼いのか。個性≠フ代償に脳に異常でもあるのかな」
「……おい」
「あ、怒らないでね。本当のことを言っただけだし、煽ったのは君だろ? ホラ……宣誓で何て言ってたっけ……恥ずかしいやつ……えー……まぁいいや、おつかれ!」
「1位だ……ただの1位じゃねえ。俺がとるのは完膚なきまでの1位だ……!!」

今すぐイブはお願いをしてボンドを羽からとりたかったが、開始時に爆豪から身体的なものが関わるお願いはやめるように教えてもらったばかりだった。最悪イブの羽が物理的になくなってしまう。それこそ泣くどころじゃない。
決してイブにとってそんなことで終わらせていい事ではなかったが、爆豪が、切島が、瀬呂がこの試合に全力で挑んでることもちゃんとわかっていた。イブは涙こそとまらなかったがちゃんと役にたとうとしていた。


「待てえええ!! 待てって!!」
「しつこいなあ、その粘着質はヒーロー以前に人として……」
「勝手すなぁあ爆豪ーーーー!!!」
「円場!! 防御ガード!!」
「ハハ! 見えねー壁だ! ざまァっみろ!」
「お願い割れて!!」
「!? 取られた! 2本!」

飛び出した爆豪が円場の空気凝固に阻まれたがイブのお願いで爆豪が直感的に脆い場所を当て拳でぶち抜き物間からハチマキを奪取した。だがそれは爆豪の3位のPではなく他のPだった。瀬呂が飛ぶときは言えと苦言を呈しながら爆豪をテープで回収する。それでも3位に上がり本戦通過は確実だったが、爆豪は諦めていなかった。


「まだだ!!!」
「はあ!!?」
「完膚なきまでの1位なんだよ取るのは!! さっきの俺単騎じゃふん張りが効かねえ。行け!! 俺らのPも取り返して1000万へ行く!!」
「かっちゃん……」
「ったく!」

爆豪の勢いにイブも押されていた。勝ち負けにあまりこだわりがないイブだがこの時、この瞬間初めて勝ちたいと言った感情が芽生えた。かっちゃんの、みんなの役に立ちたい。その強い思いがイブの天使の輪に現れていた。光り輝いていたのだ。その光は爆豪と切島、そして瀬呂の3人に纏うように輝いていた。


「(!! 身体が軽ぃ。それになんだ、力が漲ってきやがる……!)しょうゆ顔! テープ!!」
「瀬呂なっと!!」
「!? 外れだ」
「羽っ子!! 全力で俺の掌治してろ!!」
「イブだよかっちゃん!!」

テープをワイヤーのように使いながら爆豪の爆発がエンジンとなり爆速で迫っていく。そして爆豪が爆破と共に物間からPを見事奪い返した。去り際に瀬呂が「好きな子いじめるの感心しねぇぜ」と意地悪気に笑った。


「次!! デクと轟んとこだ!!」

そうして向かったはいいが、時間ギリギリについた上に緑谷と轟どちらに1000万があるのかわからず迷った間に競技は終了した。


「だああああ!!」
「わー悔しい・・・! かっちゃん惜しかったねぇ……!」
「……え、今イブ悔しいって言った? 俺の聞き間違い?」
「いったよー! 悔しかった!」

すっぱそうな顔をするイブにお前の悔しい顔ってそれなんかと思いつつ、瀬呂は切島と顔を見合わせなんだか子供の成長を感じた親の気分になった。







「物間ぁ……いくらなんでもあの天使の子に対して意地が悪すぎたんじゃねーの」
「泣いてたぞあの子」
「……別に、本当の事言っただけだろ」
「好きだったくせに……なんでこうも拗らせてんだよ」
「……好きなんかじゃないさ。僕はもっと知性のあるおしとやかな人がタイプだし。あの子は幼稚で騒がしいし、おまけに知性が全く感じられない! 僕が好きになるわけないだろう」
「いや一目惚れだっただろ。見惚れてたの俺見てたぞ」

そうこの物間、障害物競争中に初めて見たイブに一目惚れなるものをしていた。ものすごく顔が好みだった。調子乗ってるA組とわかっていても即落ちだった。
だがしかしイブのあまりのクリーム脳、幼稚さに幻滅しそっこうで冷めてしまったのだ。でも顔は本当に好みであるためこの幼稚ささえなければという気持ちと、自分が一瞬でもこんなのに恋に落ちたと思うとプライドが傷ついてつい辛辣な態度をとってしまったのだった。


「ありえない……僕があんなのを好きになるなんて……絶対ありえない」
「そうかぁ? 確かに子供っぽかったけど無邪気で可愛かったけどな。正直顔だけならぶっちぎりだし、声も可愛いし。第一種目で競技そっちのけで治して回ってくれてたし……優しい子じゃん」
「…………でも頭の中はクリームじゃないか」
「それでも突っかかってる時点でアウトだろ。虐めてやんなよ。俺らB組も分け隔てなく治癒してもらってんだ。優しくしろとは言わねぇけど、嫌味飛ばしたら可哀そうだ」
「……やけにあの子の肩もつね。君たちこそあの子に惚れたのか」

むすっとした物間に円場と回原が顔を見合わせ、やれやれとため息をついた。
惚れてないと頑なに否定する癖に突っかかるのをやめられない。助けてもらった手前当たり前の擁護をすれば今度は惚れたのかときた。ここで仮にも肯定しようものならものすごく機嫌悪く詰ってくるのは目に見えていた。中身に幻滅しても顔が好きすぎて諦められないのだろう。難儀なことである。


「お前、めんどくさいよな」
「めんどくさい」
「は!? 聞き捨てならないな! 僕のどこがめんどくさいって!?」
「そういうとこだよ」
「こういうとこだよ」
「ますます意味がわからないなぁ!?」

物間の初恋は前途多難である。まずは認めるとこからだなと回原と円場は以心伝心とばかりに頷き合ったのだった。


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