奇跡の連続


トーナメントが始まる前に女子たちは全員元の体操服に着替えたのだった。イブは八百万が創ってくれた肌触りの良いマントをとても気に入り、体操服の上から被っていた。なんだか高級な感じである。着替えて落ち着いたのかにこにこするイブに過保護セコム組が一息ついたのだった。

そして第一試合、緑谷と心操の試合は洗脳にかかって場外へ向かって歩いていく緑谷をめちゃくちゃはらはらしながらイブは見守った。思わず洗脳解けてと願ってしまいそうになって口をずっと手で塞いでいたほどだった。ルール違反は一番ダメである。イブはちゃんと理解していた。
個性が暴発し、洗脳が解けた緑谷が二回戦進出を決めてイブ立ち上がって万歳をしたのだった。


「イブ、百ちゃんが創ってくれたマントあってよかった……ぬくい……」
「ほんとこのマントぬくい……」
「お役に立てたならなによりですわ……!」

第二試合の瀬呂と轟の試合はすごかった。何がすごかったって轟の大氷壁である。気温が一気に下がったそれにイブは隣にいた耳郎と一緒に八百万ブランドのマントをかぶっていた。ぬくぬくする二人に八百万は感極まったように瞳をキラキラさせていた。耳郎とイブは八百万と特に仲がいいのだ。


「ステージを渇かして次の対決!! B組からの刺客!! キレイなアレにはトゲがある!? 塩崎茨! VS 顔腫れあがってるけど大丈夫か!? スパーキングキリングボーイ! 上鳴電気!!」

上鳴はトーナメントに出場することもあって試合前にやっぱり治そうとしたのだが、上鳴本人も譲らずそのまま出てしまった。上鳴もわりと過保護側である。イブを嫌な目に遭わせてしまった責任を感じていたのだった。いいやつである。
だがいいやつだが瞬殺された。もう一度言おう瞬殺された。アホになった上鳴はリカバリーガールの下へ運ばれていったのでイブの出番はやはりなかった。







「腰にベルトがあっても変身しねぇぞ! ヒーロー科青山優雅!」
「ボンジュール☆」
「VS 正真正銘の天使だ! ヒーロー科天廻イブ!!」
「イブちゃーーーん! がんばれーーー!」
「マイエンジェルーーー!!」
「……これはジェラシー☆」

男女問わずイブを応援する声に青山が嫉妬の炎を燃やした。イブの入試のときのファンと第一種目で助けた人々が自然とイブを応援しているのであった。この状況に回原と円場が恐る恐る物間を見ると、ものすごい顔をしていた。見なかったことにした。


「ううっ……イブ戦うの苦手……」
「すぐ終わらせてあげるよ☆ えいっ☆」
「ふぁああっ!」

ネビルレーザーを躊躇なくイブに放ってくる青山から飛び回りひたすら逃げるイブ。逃げ足だけは鍛えられているイブはすばしっこくネビルレーザーがなかなか当たらない。それに焦れた青山がネビルレーザーを1秒以上射出し、案の定お腹を壊して蹲ってしまった。


「! あおやまくん! またお腹痛いの? イブが治してあげる!」
「!?」
「え、イブ!? ばかおい! 趣旨分かってんのか!? あちゃ〜!」

青山の下へ舞い降り、一切の躊躇なく治癒を施す姿に会場中が度肝を抜いた。A組の面々も「やっぱやっちまったかぁ……」と頭を抱えた。
イブの治癒で腹痛を治してもらった青山は立ち上がり、何かを考えるように目を閉じ、そしてまた目を開いたときには覚悟を決めた表情をしていた。


「……二度も君に助けられちゃった。僕もヒーロー志望だ。僕を救ってくれた人を傷つけることなんてできない☆ 降参するよ☆」
「ふぇ!?」
「(青臭っ!!)青山くん降参!! 二回戦進出は天廻さん!」
「ふぇええ!?」

なんかよくわからないがイブが二回戦に進出した。戦わずして勝利を収めたイブに「これがヒーローの本来の在り方かもしれない」と言い出すプロヒーローもいて何が何だかわからなかった。







「さて光と闇の共演! ヒーロー科常闇踏陰! VS ヒーロー科天廻イブ!」
「遊んでやるよ!」
「ふぇぇえ……だーくしゃどう怖い……」

くいっと指を動かして挑発してくる黒影にイブはすっかりビビっていた。
試合が始まるとすぐに上昇し逃げようとするが黒影も浮遊体である。ちょこまか逃げるイブを追いかけて「おにごっこかぁ!? いいぜ! 捕まえてやんよ!」と威勢よく迫ってくる黒影に恐怖しびえんびえん泣きながら逃げるイブに、なんだか虐めている気分に常闇はなったがイブの光が天敵であると見抜いていたため気を抜くことはなかった。


「おらよっと!!」
「ひゃああ! かすった! 今イブの羽にかすったあああ!」
「逃げてばっかじゃ勝てねーぞ! 攻めて来いよ!」
「うわあああんっ怖いよおおお」

黒影ちょっとやんちゃなところがある。だがそれ以上にその見た目である。正直影のお化けっぽい。イブはお化けと暗いところが大の苦手である。そんな黒影に追いかけられて攻撃されるというのはイブに多大な恐怖を与え、それが限界に達したイブは一際大きい泣き声を上げると天使の輪からものすごい光が放たれたのだった。


「ひゃんっ!! フミカゲこれヤバイ! オレ、消滅する!」
「やむを得ん!! 審判! 降参する!!」
「常闇くん降参! 三回戦進出天廻さん!!」

だがびゃんびゃん泣いているイブは聞いちゃいなかった。というか必死過ぎて聞こえなかった。観客も呆気に取れれる中、爆豪と緑谷が冷静に分析していた。今までと違いこれはお願いではなくイブの恐怖をピンチと認識して個性が出たものである。爆豪は騎馬戦のとき光を纏ったことといい、イブが願わずとも思いの強さに応じてなんらかのバフが付与されているのではないかと推測していた。
ちなみに怖いなら早々に棄権すればいい話だが、イブは「降参」も「棄権」という言葉の意味もわかっていなかった。青山も常闇もなんか言ってイブが勝った扱いになっているがどういうことか全く理解していなかったのである。クリーム脳なことで。


「天廻頼むその光を抑えてくれ! 黒影が消滅する!!」
「うわあああんイブってよんでえええ。だーくしゃどーどっか悪いのおおお」
「わかった! 呼ぶ! 呼ぶからその光を……!」
「ひっく、だーくしゃどう怖いけどA組の仲間だもん……治してあげるっ」
「!? イブ!!? 待て何をする気だ……! 黒影ーーーー!!」

親切心で黒影に治癒するイブに常闇は肝が冷えるどころではなかった。悲痛な叫びが響くが、常闇の予想に反して黒影は復活していた。眩い光を放って治癒されたというのに元気であった。


「黒影おまえ……無事なのか!?」
「フミカゲこいつヤバイ! オレ消滅させられるかと思ったのに! 治してもらった! オレ復活! アイツ怖いけどイイヤツ!」
「(あの光とは別種のものなのか……)すまない、助かった。黒影を救ってくれたこと礼を言う」
「ふぇ、ううん……だーくしゃどう怖かったけど、イブもだーくしゃどうにひどいことしちゃったみたいだから……治ったならよかった」
「(まるで無垢な子供だ……)不思議な奴だな、お前は」

まるでよくわかってない様子でめそめそしているイブを立たせ、一緒に席まで戻ってやることにした。先ほどの好戦的な様子が鳴りを潜め、「オマエすごいな!」とフレンドリーに話しかけてくる黒影にイブは少しずつ慣れていった。見た目は影の塊だが闇が深くなければ人懐っこくて可愛いのだ。あとA組補正がとても効いた。精神年齢も合致するのか意外と意気投合し、戻ってくる頃にはすっかり仲良しになっていたのだった。


戻る top