体育祭が終わる


「うそでしょ……イブが……戦ってる……!」

原点を思い出し、ヒーローになりたいと心に据えてからのイブは今までと違った動きをしていた。以前攻撃手段はなかったがスピードを活かし爆豪をひきつけ、場外に出すよう狙っていたのだ。イブはちゃんとみんなの試合を見ていたし、線から出てはいけないと教えてくれた八百万たちの話をちゃんと覚えていたのだ。


「おめーもなんか攻撃とかできねーのか!! 見てェ!!」
「そんなのないよ!」
「じゃあ今作れ!!」
「わかった!!」

依然として爆豪の爆破を怖がる素振りはあったが、治癒を常に自分にかけ怪我をしたと認識するより早く治していくといったスタイルをとっていた。痛みに怯む瞬間がないので派手な爆発の見た目と音に止まらなければイブのスピードの方が上である。翻弄することができていた。
素直なイブが爆豪の要望に応えるべく必死にクリーム脳を働かせ攻撃手段を考えてみる。お願いごとで何かをするのが浮かんだが、身体的なものは危ない可能性がある上に、個性把握テストのときのようにNGになる可能性があったため、イブはどうしようかとうんうん唸るが、そこでそーいえばと気づく。騎馬戦のときも常闇のときもお願いはしてないけど強く思ったら輪っかが光って助けてくれたのだ。もしかしたらまた応えてくれるかもしれないとイブは集中して祈りをささげた。


「(こーげき!!)」
「!! っぶねぇな……!!」

イブの思いに反応するという見立てはあっていたようで、輪っかからビームのように光線が出た。ものすごく速かった。見ていた青山が「僕と被ってる☆」とどんよりしていた。
だが集中していなければ出せないそれにイブが爆豪に背後をとられまたしても爆破される。攻撃に集中して治癒をとめていたためもろに食らって焼け焦げた羽にイブが今度こそ泣いた。


「うええっん、イブの羽がぁ……!」
「並行処理できるようになれよ! イブ!」
「ぴゃーんっ!」
「天廻さん場外! 決勝戦進出爆豪くん!」

場外に俯せに倒れ、羽が焦げてめそめそするイブにしょうがねえなとばかりに落ち着いて治癒するように呼びかける。イブの原点がおねーちゃんだというのは理解できたからだ。そのおねーちゃんが褒めてくれた自慢の羽というのはこのクリーム脳にとって大きな意味があるのを察した。
飛ばれるとめんどくさいので羽を潰したが、別に憎くてやったわけでもない。ずぴずぴ泣くイブを「やりゃできんじゃねーか、その調子で精々頑張れよ」と声をかける。なんだかおかしな話だが、イブと特殊な関りが多かったからか、爆豪に父性のようなものが芽生えていたのだ。素直に「がんばるぅ」とえぐえぐ答えてくるイブの様子に、「親子」を重ねる者たちも少なくなかったという。







決勝戦は轟が途中で炎を使うのをやめてしまい、爆豪は不完全燃焼ながら宣誓通り1位を取ることになった。イブは家の都合で早退した飯田と並んで準優勝である。お立ち台に立って注目を浴びるのは落ち着かなかったが、完膚なきまでの1位を渇望していた爆豪がこんな1位は認めないと激しく暴れたことで厳重に拘束されているのを見ると、イブ以上にずっと目立っていてなんだかとっても安心できた。爆豪への好感度やら信頼度が爆上がりである。


「天廻少女おめでとう! なんとも君らしい戦い方だった。君の人を救けたいという気持ちは君をこれからもっと成長させるだろう。ただ、自衛の手段ももっと学ばないとな。治すだけでは救えないものもある」
「はぁい! イブね、どんな傷も治せるヒーローになるよ。かっちゃんが思い出させてくれたんだぁ」
「うん。爆豪少年が君を大きく成長させた。これからの君を楽しみにしているよ」

最後にオールマイトからメダルをかけてもらい、ハグをする。もらったメダルにはしゃぐようにくるくる回るイブを物間が見ていた。「かわ……ごほん、ちょっとはやるみたいだね。いやでも知性は感じないが」と手を組んでブツブツと口にしているのを回原と円場がまぁたやってるよとばかりにやれやれと肩を竦める。爆豪に羽を爆破された二度とも過剰反応していながらこれなのである。拗らせてるにもほどがある。


「かっちゃんかっちゃん! イブねお願いしなくてもちーと? 使えたんだよすごいでしょー!」
「知っとるわ!! それがなんだ!! 並行処理できなきゃ意味がねェっつったろ!!」
「へーこーしょりってなぁに?」
「これもわかんねぇのか!! おめぇ聞きゃなんでも答えてもらえると思うなよ! 甘えンな自分で調べろや!!」
「はーい!」
「うそでしょイブ……あの状態の爆豪に話しかけてるよ……」
「まるで雛鳥だな」
「何だかんだイブ成長させてんの爆豪だもんなぁ……ありゃパパだわ」
「爆豪がパパとか……! ブフォォッ!! 似合わねぇ……!!」
「おめーらもコソコソ笑ってんじゃねぇ!! クソがっ!!!」

雄英体育祭これにて閉幕。


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