速すぎるよホークス


職場体験当日、イブは駅を物珍し気にきょろきょろと見渡していた。それをホークスの事務所まで引率で来てくれたミッドナイトにちゃんと前を向くよう注意される。「はーい」と間延びをした返事をすると職場体験先が一緒らしい常闇と合流するのだった。


「いい? 私はあくまであなたの送り迎えしかしてあげられないから、職場体験中はホークスたちの言うことをよく聞いて、頑張るのよ」
「はーいっ!」
「……お返事だけは立派なんだけどねぇ。私たちの言うことはあんまり聞いてないから心配なのよ。悪いけど常闇くん、この子のこと頼んだわ。どういうわけかクラスメイトの言うことだけはよく聞くから」
「心得た」

雄英の外に出られて浮足立っているイブにミッドナイトが心配でたまらないといったようにため息をついた。気分は過保護な母親である。
常闇は基本的に頼りにされるのは好きであるし、黒影ダークシャドウ自身が日の光の下では子供のように無邪気というところもあって苦には感じていなかった。窓の外を興奮したように眺めているイブに対しても無邪気な奴よといった感じで見ていたのだった。







「いらっしゃい、常闇くん、イブちゃん」
「(名前……?)一週間世話になる」
「よろしくおねがいしまーすっ!」
「じゃ、てきとーに俺についてきて。ついてこれたらだけど」

挨拶もそこそこにホークスが飛び立っていく。あまりにも速すぎるスピードに面食らいながらも「追うぞ!」と常闇が言ったのでイブもちゃんと追いかけた。言ってくれなきゃあまりに突然のことに固まってしまっていた。
イブは羽がある上にスピードには自信があったのでホークスを見失うなんてことにはならなかったが、ホークスはイブよりずっと速い上に的確だった。事件を未然に防いでいる。ホークスの相棒サイドキックたちはただの事後処理係となっていた。でもホークスは速過ぎる上になんでも一人で出来た。相棒たちが言うようにこれが一番効率がいいというのは本当だった。







「ううっ……もうイブ疲れた。もう飛べない」
「天廻……」
「イブって呼んでくれなきゃやだって言ったもん」
「すまないイブ」

職場体験三日目。イブは頑張った、頑張ったのだが疲れ果ててしまった。ホークスはとっても速いし待ってなんてくれない。時折ちらっとイブがついてきているのを確認するとにこりと笑ってもっとスピードを上げたりして意地悪だ。イブはただホークスと追いかけっこをしてるだけだった。
体力がないのもあって、イブはすっかりやる気をなくしてしまっていたのだった。


「イブ、この職場体験に不満があるのは俺も同じだ」
「とこやみくん……」
「だが、立ち止まってしまったらそこで終わりだ。俺たちの価値は俺たちで示さなければならない。ホークスを二人で見返してやろう」
「ふたりで……?」
「ああ」
「フミカゲ! オレもいる!!」
「そうだったな。三人でやってやろう」
「オウヨ!」
「……うん!」

そうしてすっかり元気を取り戻したイブはまた頑張るのであった。三人で励まし合い、ホークスに食らいついていった。その姿にホークスは驚いた様子を見せるも、やはりそれだけだったが相棒サイドキックたちからはその姿勢を高く評価された。
次第に三人の間には絆が芽生え、後処理にしても息の合ったいいチームワークを見せていた。この一週間もまったくの無駄ではなかったのだ。







「イブちゃん、ちょっといいかな?」
「ホークス? なになに? イブになにかごよう?」
「ご用ご用。ちょっとイブちゃんの個性がみたくてね」
「個性……?」

職場体験最終日前日の夜、イブが宿泊しているホークスが手配したホテルにホークスが訪ねてきた。
ホークスは自分の剛翼で腕に大きく傷を作るとそれを差し出してきた。


「なにしてるのホークス!? いたいよー! それはいたいよー!」
「あははっすごい慌てっぷり。これ治してくれる?」
「いいけど、ホークスそのために怪我したの……? ごめんね、イブ怪我してないと怪我は治せないから……」
「うん。それは当たり前の事かな」

クリーム脳は健在、相違なしと内心でホークスは静かに分析した。イブが治癒してくれるのを確認して、治ったらまた剛翼で先ほどと同じ傷を作るものだからイブはもう何が何だかわからなかった。


「なんで!? イブ治したよ!? なにかいやだった!?」
「ううん。大変気持ちよかった」
「? 気持ちいからまたしてほしかった……?」
「おっと、それだけ聞くと俺ヤバイやつだし捕まりそうだな」
「? ホークスなにかわるいことしたの……?」
「……さぁね。そんなことより、今度はこれお願いで治してくれる?」
「お願い……ホークスの腕がよくなりますように……でいいの? ホークスの腕変にならない? なくなったりしない?」
「しないしない」
「じゃあ……ホークスの腕がよくなりますように!」

イブの天使の輪っかから光が放たれ、ホークスの腕の傷が瞬く間に治癒した。
スピードはお願いと治癒そんなに変わらない。やはりイブのお願いはその状況に応じて手段が変わるとみていいだろう。治癒できるイブがそばにいるためにお願いといいつつ治癒が使われている。イブが治癒を使用できる範囲外なら別の手段で治ったであろうとホークスは推測した。
けれど体育祭で見たところお願いというものにはイブの意志が深くかかわっている。そのあたりに心当たりがあったホークスはこれ以上得られる情報は現状ないと判断する。


「ありがとう、良い個性だ。遅くに悪かったね。おやすみ」
「あ……行っちゃった。ホークスってほんと速いんだから!」

本当に嵐みたいだった。イブはあくびがでてきてもう寝ようとする。さっきもうとうとしていたところをホークスの来訪で起こされたのだった。イブはいい子なので早くに寝るのだ。そう、イブが眠れるように火伊那おねーちゃんが頭を撫でてくれていたのをなんだか思い出した。







「ええ……ええ。特に変わったところはありません。以前・・の記録のままとみていいでしょう。いや、俺の話もそんなに聞いてませんよ。ただ、同じ職場体験に来ているクラスメイトの言葉はよく聞いてます。――ええ、間違いなく、ナガンの呪いは活きてます。……はい、引き続き接点は持ち続けます。はい、はい……それでは」

公安に連絡しながら、ホークスはイブのホテル周辺にうろつく敵を同時に始末する。
雄英から出た途端イブは狙われた。それは職場体験中も同じことで、幸い常闇に励まされたイブが頑張ってついてきてくれたのもあり、ごく自然に退治することができていたがやはり体育祭の影響が強いと見た。


「難儀なことやね。鳥は自由に空を飛び回るのが一番たい」


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