お勉強がんばる


相澤から夏休みの林間合宿の案内がされ、それに伴い期末試験で赤点をとった者は合宿に行けず、学校で補習地獄だというものだからイブはそれはもう頑張っていた。合宿自体にはイブも行けるというのだからなおさらである。
林間合宿なんてしたことがないイブにとって大好きなクラスメイトたちと寝食を共にできるというのは大変魅力的だったのだ。

合宿したことがないというイブに心打たれた面々が、なんとしても一緒に行こうとイブをサポートしてくれた。放課後残って勉強を教えてくれたのである。だがしかし、クリーム脳であるため少し前にやったところを忘れていたりなど難航していた。そして期末試験まで一週間が切ろうとしていた。


「……イブみんなにこんなに教えてもらってるのに……ちゃんとできてない……うぇーんっ」
「泣かなくていい、お前はよくやってると思う」
「と、とどろきくんっ」
「さ、涙を拭きましょうね、失礼しますわ」
「ありがとぉ……」
「意欲も人一倍だし、ちゃんと僕たちの話も聞いてるんだけどな……」
「ああ、教えた直後はちゃんとできている。だが日が経つと古い記憶から抜けているな……」
「(なんだかまるで容量に上限があるみたいだな……一定の知識が入ると上書き保存されていくみたいな)」

随分前からちゃんと取り組んでいるにも関わらずイブの成績は上がらなかった。そこにみんな疑問を抱く。ただわからないとかではなく、教えたこと自体が丸っと抜けているのだ。こんなのやったっけ? といった感じである。
イブはクリーム脳だがクラスメイトの話はよく聞いている。自分の為に時間を割いて勉強を教えてもらっているというのもありやる気も姿勢も申し分ない。それだけにどこか違和感があった。


「でもイブちゃん、相澤先生の授業はちょっと覚えてるよね」
「確かに。相澤先生の教科はさほど教えなくとも解けている」
「相澤先生の授業が好きなのか?」
「う……あいざわせんせーね、イブのお勉強ずっとみててくれたんだけど、すごくきびしくてね……なんかよくわかんないけどおぼえてる」
「厳しい……ねえ僕たちもしかしたら――優しすぎるのかもしれない!」
「なに!? まさか……いやたしかに。俺たち全員苛烈な指導はできそうにないな!」
「がんばってっからな……あんま厳しいこと言おうとは思わねぇ」
「そんな……イブさんに厳しく接するなんてできそうにありませんわ……!」

先生役だった緑谷、飯田、轟、八百万の成績上位者たちは打ちひしがれた。相澤は確かにスパルタ指導だった。思わずミッドナイトやプレゼント・マイクが同情するほどだった。だが四人に厳しく教えるだなんてとてもできそうになかったのだ。心を鬼にして接しても、イブがしゅんとしてしまったらすぐさま謝りたくなる。四人にはできない。そう思ったが……四人は逆に閃いた。イブに厳しく教えられる人材が一人このクラスにはいたのだ。
だがいくらなんでも彼はやめた方がいいのではと思う八百万とは逆に、イブの願いはみんなで合宿に行くことだと諭した飯田により決行することになる。


「か、かっちゃん! お願いが……!!」
「クソデクが何の用だ! 死ねっ!!」
「うっ……!(やっぱり僕からじゃだめだあああ)」
「爆豪、イブの勉強みてやってくれねぇか。俺たちじゃちょっと優しすぎるみてぇで覚えらんねぇ」
「あ? 教えるのも舐めプかよ! いいぜ教え殺したる……!!」
「へーちょうどいいな! 俺も爆豪に教えてもらうとこだったんだ。一緒に頑張ろうな」
「がんばるー!」

四人の成績優秀者たちにも無理だったというのが爆豪の自尊心を満たしたようであっさり許可が出た。
イブが雄英から出られないのもあり、休みの日もイブに教えるために場所を貸してくれるらしく爆豪たちは雄英に集合することとなったのだった。
とりあえずおそらく最適解の先生も決まったところでランチである。







「普通科目は授業範囲内からでまだなんとかなるけど……演習試験が内容不透明で怖いね……」
「突飛なことはしないと思うがなぁ」
「普通科目はまだなんとかなるんやな」
「一学期でやったことの総合的内容」
「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」
「あとはほぼ基礎トレだよね」
「筆記も演習もあってイブパンクしそう……みんなと合宿行きたいな……」
「行きましょうイブちゃん。あんなにがんばってるんだもの、きっと大丈夫よ」
「試験勉強に加えて体力面でも万全に……あイタ!!」
「ああごめん。頭大きいから当たってしまった」
「B組の! えっと……物間くん! よくも!」

イブはいつもの苺と生クリームのサンドイッチを食べながらみんなと試験について話していたところ、緑谷の頭に物間のトレーがぶつかった。まったく悪びれがない。
物間は緑谷と麗日の斜めに座っているイブを見ると呆れたような顔をむけてきた。


「君、またそれ食べてるの? たまには違うのも食べたらどうかなぁ? そんなのばっかり食べてるからクリーム脳なんじゃない?」
「(また? 物間くんイブちゃんが何食べてるのか把握してる……?)クリーム脳って……ちょっと」
「なんだよ、本当のことだろ」
「? おいしいよ? ものまくんも食べる?」
「……いらないよ。そうじゃなくて、もっとこう主食になるものを食べたらどうなのかな? そんなデザートのようなものでよくヒーロー科の授業を受けれるね」

嫌味のような心配ともとれる言葉に麗日たちは顔を見合わせた。よくわかっていないイブがものすごく不思議そうな顔をしている。なんか食べているものが物間的によくないと思って、じゃあ物間は何を食べているのだろうとメニューを覗いた。


「ものまくんはなにたべてるの? なんだかふしぎなお料理だね?」
「フランス料理だよ。なに? 気になるの?」
「はじめてみるからちょっと気になる。おいしい?」
「美味しくなきゃ頼まないよ。仕方ないな……ちょっと失礼するよ」
「うん?」

分厚めのなにかのお肉のようなものを一切れ物間がイブの皿に分け与える。横に彩られた野菜のグラッセも分けてやるという優しさを見せた。それに緑谷たちは衝撃を受ける。物間が、あの物間が……妙にイブに突っかかるとは思ったがこれはもしかしなくてももしかするかもしれないと察した。


「わー! いいの? ありがとう!」
「別に。行儀よく食べるんだよ。君はちょっと……いや、かなり残念だから」
「ん? よくわかなんないけどわかった」
「……ま、これを機にこの料理の良さがわかればいいかな」

一連のやり取りを緑谷たちがガン見していたことにやっと気づいた物間の情緒がやはり壊れた。ヒーロー殺しの件を持ち出し君たちA組の注目は期待値ではなくトラブルをひきつけるもので、そのトラブルに自分たちも巻き込まれるかもしれないとぶっ壊れ始めると、拳藤が来て手刀を食らわせるのだった。


「物間シャレにならん! 飯田の件知らないの?」
「拳藤くん!」
「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ」
「(心が……)」
「心……? イブ治せるかわからないけどがんばってみようか……?」
「気にしなくていいぞ。こいつのはなんていうかそういうものだから……」
「そういうもの……」

お行儀よくフォークで物間が分けてくれたお肉を食べるイブに拳藤は物間のトレーを見て、ちょっとは成長したのかと少しだけ感心した。イブが目立つというのもあるが、事あるごとにイブの一挙一動を気にしては情緒がぶっ壊れる物間に呆れていたのだ。
それでもまぁ物間が素直になったとは到底思えず、余計な一言二言あったのだろうとは察した。

物間が世話をかけた詫びとでもいうように、拳藤は例年の期末試験の演習の内容を教えてくれた。なんでも先輩に知り合いがいるらしい。入試と同じ対ロボとのことでみんなほっとするが、イブは変わらず不安でいっぱいだった。ちゃんと戦ったのなんて爆豪と体育祭で当たった時くらいだし、それもちゃんと戦闘できたかというと怪しい。ロボでもなんでもイブはちゃんとできる自信がなかった。


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