期末試験


相澤同席での爆豪の教え殺しは功を奏し、イブはある程度の知識を詰め込むのに成功した。イブの事情が事情なだけに相澤が可能な限り時間を割いてくれ、クリーム脳の理由を知った緑谷たちも家に帰った後もラインなどで教えてくれたのがよかった。
イブは今までの遅れを取り戻す勢いで成長していたのだった。


「わーっ! かっちゃん! デクくん! いーだくん! とどろきくん! ももちゃん! やったよイブちゃんととけたー!」
「おめでとう! やったねイブちゃん!」
「頑張ったな」
「力になれたならなりよりだ! イブくんもよく頑張ってついてきた!」
「ええ! よく頑張られて……!」
「ッケ! 俺が教えてやったンだから当たり前だろーが」
「うんうん! みんなのおかげー! ありがとー!」

もうイブはるんるんだった。今なら何でもできそうな気さえした。演習はヒーロー科の一般入試で使ったロボだというが何とかなる気がしたのだ。
だがそんな思いもむなしく、今年から敵活性化を危惧し、対人での試験に変更されてしまったのだった。予め先生が決めた生徒のチームアップで先生に勝てというものだった。難易度爆上がりで早くもピンチである。







「制限時間は30分さ! 君たちの目的は「このハンドカフスを私に掛ける」or「三人のうち一人がこのステージから脱出」!」
「戦闘訓練と似てるな」
「逃げてもいーんですか!?」
「なんでなんで? ヒーローって戦わなきゃなんじゃないの?」
「うん。何しろ戦闘訓練とは訳が違うのさ! 格上の敵に会敵したと仮定し、戦って勝てるなら良し。けれど実力差が大きすぎた場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明なのさ!」

期末試験の演習、イブは上鳴と芦戸とのチームアップで校長の根津が相手だった。
根津は動物から個性が発現した世界的にも例を見ないすごい人……人だ。ナガンがいなくなった後、どこからか聞きつけた根津がイブの保護を申し出てくれてからというものの、イブは雄英でわりと平和に暮らしてきた。外に出れなくたって広すぎる雄英の敷地内でイブが退屈しなくていいようにたくさんのものを与えてくれた。根津はイブにとって義理の父親みたいなものだった。






「ふにゃあああ!」
「イブー!! 大丈夫ー!?」
「だいっじょばない……!!」
「あ! 傷出来てる! 治癒しろ治癒! 痛かったろ可哀そうに……!」

飛べるイブがいるのだから簡単に突破できるだろうと思われたが、なんのことはなかった。根津の個性はハイスペック。人間以上の頭脳というものである。そのため頭脳戦に於いて根津の右に出る者はいない。
イブが真っ先に脱出ルートまで突っ走るとわかっていた根津は、フィールドを壊しながら思うように飛べないようにあちこちに罠がしかけられてあったのだ。


「マジかぁ! 上鳴〜〜放電で何とかできないー!?」
「どこにいるかわかんねーのに無駄撃ち出来ねーよ。足手纏いが欲しいか!?」
「イブ、アホになってるのは治せても中のでんき? までは元に戻せないよ」
「そう! 俺は蓄えた電気を放出するだけだから……切れたら終わり!」
「ええ! じゃあダメかー! どわあ!!?」
「ぴぃいい!」

鉄球が建物をなぎ倒して迫ってきた。恐ろしいったらありゃしない。
逃げるだけで精一杯の状況である。時間が迫っていた。条件達成を知らせるアナウンスが鳴り響く。イブは決意を固めた。


「みなちゃん、かみなりくん……!」
「なに!? どうした!?」
「どっか痛めたか!?」
「ううん……イブがゲートまで飛んでいく!」
「ええ!? イブは対策されてるから危ないって! さっきだって怪我したじゃん!」
「そーだよ! 鉄球とか飛んでくるんだぜ!? ちょっと痛いとかじゃないって!」
「でも、イブみんなで合宿に行きたい……!!」

うるっとした瞳に恐怖とそれ以上の決意を携えてイブは口にした。それに上鳴も芦戸も驚いた。
イブは怖がりだ。それでもその恐怖を押して試験の合格をもぎ取ろうとしている。みんなで合宿に行くために。それに押されるように芦戸と上鳴が頷いた。


「よしわかった! 俺らでイブのサポートするぞ!」
「うん! イブに迫ってくるやつは全部アタシたちに任せて! みんなで合宿行こう!!」
「……うんっ!!」

そうしてイブたちは力を合わせて頑張った。迫ってくる瓦礫に恐怖しながらも体育祭で第三関門のとき二人が元気づけてくれたのを思い出していた。
大丈夫怖くない。見た目と音はすごくても……二人の個性の方がずっとすごい。その思いは当たり前のように紡がれた。芦戸が瓦礫を溶かし、上鳴が機械を片っ端からショートさせていった。


「「いっけーー! イブーーー!!」」

あと少し、ゲートまであと少しというところで惜しくも終了の合図が鳴ってしまった。ぺたんと落ちてしまったイブに二人が慌てて駆け寄る。


「うっううっ……間に合わなかったぁ〜! みなちゃんとかみなりくんがっみちつくってくれたのにっ、ううっ、ごめんなさ〜いっ」
「なに言ってんだよ。イブが頑張ったから俺たちも頑張れたんだぜ?」
「そうそう、イブが立ち上がるまでアタシたち何も出来なかったしさ。最後の悪あがき、できたのイブが立ち向かったからだよ〜」
「なんかもっと守らなきゃって思ってたのに、逆に奮い立たされたわ。すげぇ成長しててビビったぞ」
「合宿行けなくても、アタシらは一緒だしさ……一緒に補習がんばろっ」
「俺ら三人ミラクル運命共同体ってな!」
「う、うんっ、ミラクルうんめいきょうどうたいー!」

えぐえぐと泣くイブに二人が元気づける。残念な結果に終わったが少しだけ心はプルスウルトラできた試験だった。
また、その後根津が来て反省点をいくつか上げた。中でもやはり大きかったのは三人の単純な面である。校長はちゃんと脱出ルートを一つだけ残していたのだ。それに気づかず個性のゴリ押しで進もうとしたため時間切れとなったという点には反省せざるをえなかった。頭もちゃんと使わなきゃ勝てるものも勝てない。筆記試験ワースト3が集まっているだけあって頭の痛い話であった。


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