林間合宿のはじまり


楽しみにしていた林間合宿の日が来た。雄英からバスで移動である。
移動中はわいわいとお菓子を交換したり、青山が鏡なんかを見て酔ってしまい酔いを醒まさせようと気がまぎれるようにしりとりをしたり、話をしたりして過ごした。最後の話は蛙吹の心霊体験でイブはひゅっと息を呑んだのだった。怖いのはだめなのである。

パーキングに止まると言って休憩にみんなが外に出ると、そこはパーキングなどではなかった。


「何の目的もなくでは意味が薄いからな」
「よーーうイレイザー!!」
「ご無沙汰しています」
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツ!!」」
「今回お世話になるプロヒーロー「プッシ―キャッツ」の皆さんだ」
「連盟事務所を構える4名一チームのヒーロー集団! 山岳救助などを得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年でもう12年にもなる……へぶっ」
「心は18!!」

まるでアイドルのようなヒーローコスチュームに身を包んだ彼らはお世話になる合宿先のベテランプロヒーローだった。緑谷がキャリアに触れたばかりにピクシーボブから制裁を受けてしまった。女性に年齢は禁句なのである。
そして合宿場は山のふもとだという。ずいぶん遠くで降ろされたものである。それから早ければ12時かしらと不穏な言葉を吐くマンダレイにとても嫌な予感がした。イブは相変わらずわかってなかったが、近くにいた耳郎にバスへ戻ろうと手を引かれたところ、地面が崩れ森へ放りだされてしまった。


「私有地につき個性の使用は自由だよ! 今から三時間! 自分の足で施設までおいでませ! この……魔獣の森を抜けて!!
「ぬうううっ! おと、さない……!」
「ありがとうイブ、おかげで安全着陸だわ!」
「どーいたしまして!」

なんとか羽をパタパタさせて安全着陸に成功した。腕が引きちぎれるかと思った。相変わらず貧弱である。魔獣の森というのになんだそれと思うも、なぞはすぐに解けた。
文字通り土で出来た魔獣が現れたのだ。まっさきに緑谷、爆豪、轟、飯田の4人が飛び出し攻撃した。強度はそれほどではないようで意外とあっさり崩れたが、数がとにかく多かった。みんなで協力して最短ルートで合宿場を目指すことになったのだった。


「(こーげきっ!)えいっ!」
「おお! 爆豪戦のときのビームか! すげぇぞイブ! ちゃんと戦えてる!」
「イブもがんばるっ! 怪我したらみんないってね! 治してあげる!」
「たっのもしー!」

魔獣の森を抜ける間イブは大活躍だった。怪我を瞬時に治し、疲労が溜まれば回復させる。おかげでスタミナ切れでスピードを落とすことなく進めたが、イブ自身のスタミナのなさが問題となり、最後の方は障子におぶってもらっていた。個性を使い過ぎたせいかなんだかぼんやりしている様子にこれは危ないと助けてくれたのだ。
合宿場が近づくと安心したのか寝息を立て始めたイブにみんなが苦笑する。爆豪は「なに寝とンだ! 起きろ!!」と爆ギレしていたがそれまでイブを働かせすぎたこともあり切島がまあまあと宥めて一同は進むのだった。







「イブ、起きろ。合宿場についたぞ」
「イブさん、夕飯の時間ですわ」
「さ、起きましょうね、イブちゃん」
「……むにゃ……? ごあん……?」

障子たちの声に目を開けると室内だった。どうやらあの魔獣の森を抜けたらしい。まったく記憶にない。ぼんやり混乱しているイブに、イブが終盤寝てしまったこと、障子がここまで運んでくれたこと。もうご飯の時間だというのを教えてくれた。


「わー! ごめんねしょーじくん、運んでくれてありがとー!」
「いや。イブにはずっと働いてもらってたからな。お安い御用だ」
「さ、行こ行こ! 美味しいごはんが待ってるよー!」
「もうお腹ぺこぺこー!」
「イブもぺこぺこ! 背中とお腹がくっついちゃいそう!」

そうしてようやくありついたご飯はとても美味しかった。空腹で限界というのもあるがお米も土鍋で炊いたというだけあってか、ランチラッシュに匹敵する粒立ちだった。みんながっついていた。


「あ゛!? お前その箸の持ち方なんだ!」
「う……? なんかおかしい……?」
「どーみてもおかしいだろうが! なんで握りしめてンだ! こうだろうが!」
「……こう?」
「ちげぇ!! こう!!!」
「こう!」
「よし。こういうのはちゃんとしろ、あとできるだけ箸は使え」
「はーいっ」
「(まーたパパやってるわ)」
「(完全に親子)」

勉強に付き合ってからというものの、すっかりイブに物を教えるコツを掴んだ爆豪であった。一つ一つ実践してみせるのが一番早い。はたから見れば親子みたいなもんであった。
さらに偏食気味なイブの食事にイラっとした爆豪が「おら! 野菜も食え!!」と容赦なく皿に山盛りによこしてきた。


「わあああ! かっちゃん多い! 野菜やだあああ!」
「偏食すンじゃねぇ!! わがまま言ってンな倍にすっぞ!」
「やだぁああ!」
「なら黙ってこれ食っとけ!」
「ぴぃ……おいしくない……」

めそめそしながら山盛りに盛られた野菜を食べていた。爆豪の隣に座ったのが運の尽きである。
それでも爆豪の言いつけを守ってちゃんと食べたイブは頑張った。デザートのゼリーを爆豪が「俺は甘いもんはいらね」とよこしてきたので一つ多く食べれて実にご機嫌である。
またもその様子を周囲は親子だなぁ、飴と鞭と思うのであった。


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