天使じゃなかった


朝の集合が5時30分だった。イブはなかなか起きれず、ぐずるのを八百万や蛙吹といったお姉さん組がなんとか宥め、準備を手伝いなんとか集合に間に合った。
相澤が爆豪に体力テストのときのハンドボールを渡してきて、今どれだけ伸びてるかを測定したがあんまり変わらなかった。個性そのものが伸びていないからだという。だからこの合宿では個性を伸ばしていくらしい。それがまた死ぬほどつらいというのだから恐ろしいものである。


「天廻はこっちに来なさい」
「……すぴー」
「イブちゃん起きて。相澤先生が呼んでるわ」
「う、うう……ねむい……」
「……起きなければ補習を倍にする」
「ぴっ! おきた! おきたよせんせー!」
「……最初からちゃんとしろ。お前は特に時間がないからな」
「? はーい」

そうしてイブが相澤に連れてこられた先にはラグドールがいた。ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツの一人で個性はサーチ。その個性で見た人の居場所や弱点などいろんな情報を知ることが出来る。どんな個性を持っているかなど丸わかりなのである。


「天廻、お前はラグドールに個性を見てもらえ。お前はまず知るところから進めなきゃ話にならん」
「アチキのサーチでどんな個性か暴いていくよ! さ! 見せて見せて!」
「すごーい! おねがいしまーす!」
「ふむふむ……ん? んんんんん???」
「どうしました、ラグドール」
「この子の個性……天使エンジェルじゃないね!! びっくり!!」
「え……ええええええ!!? イブ天使じゃないのおおお!?」

あまりの驚きについ大きな声を出してしまったイブの叫びは周りで個性強化をしている生徒たちにも伝わり、大きな動揺を生んだ。だって見るからに天使である。それでも天使じゃないというのだから何事かって話であった。
しかもイブにおいては天使という個性に目を付けられ親から引き離され、どこかでか幼少期を過ごしナガンがいなくなってから雄英に引き取られたという実に特殊なケースである。実は天使じゃなかったんですというのはちょっとかなり受け入れがたかった。


「え、じゃあなに? イブただの羽と輪っかがあるだけの天使っぽいなにか……?」
「ラグドール、これはいったい……」
「アハハハハ! そう悲観することないね! この子の個性はもっとすごいよ!」
「? もっとすごい……?」
「そう! なんと女神ゴッデス!! 天使よりずっと上の階級! 激レアどころの個性じゃないよ!!」
「ごっです……?」
「女神さまってこと!!!」
「? イブ、神様……?」
「そう!!」
「わーすごーいっ!」

イブはそのすごさをちゃんとは理解していなかったがすごいのはとにかく伝わった。半面、相澤は少し頭が痛かった。天使の個性というだけでも多方面から狙われていたというのに、女神ときた。これは更に警戒を強める必要があった上にイブ自身にその個性をちゃんと理解させなければならなかった。


「それで、その個性の概要は」
「んー、大体この子が使ってる治癒とか願い事の認識で間違いないね。ただ、大きな願いを叶えようとすると代償も大きいはずなんだけど……この子の場合、知識量に極端な制限がかかってる。それで普段からお願い事の容量を増やしてる感じかなぁ……」
「あ、それかっちゃんも似たようなこといってた! イブがクリーム脳? なのはちーと? のだいしょーだって!」
「ああ。俺の抹消をかければ多少の知識は蓄えられます。普段は上書き保存のように古い知識から消えていってますね」
「まぁ……この子の不思議なところは普段は知識に限定されてるところかな。思い出とかはちゃんと残ってるみたいだし、よっぽど忘れたくない何かでもあったのかなぁ。でも、あんまり大きな願い事だと忘れたくない大事なものも消えていくから気を付けてね」

そのよっぽど忘れたくない何かには心当たりがあった。小さい頃どこにいたのか、なにをしていたのかは覚えてないのに火伊那おねーちゃんの事だけは覚えている。イブの大事な思い出。突然いなくなってしまった。いつかまた会いたいと思うおねーちゃんの存在はたしかにイブの人格形成に大きく関わっていた。


「ま、この子の個性伸ばしはひたすら治癒駆け回って、みんなの成長を願うことかな! 最高のバフね!!」
「はーいっ! みんながプルスウルトラできるようにイブお願いするー!」

そうしてイブはA組B組問わず駆け回ることになる。疲労で屍となっているみんなの体力を回復させ、筋繊維がブチブチに千切れたところを回復し、またブチブチに千切れたところを回復しとサイクルを組み、爆豪の掌も治癒し、リバース寸前の麗日を救い、暗闇で凶暴になった黒影の制御をしている常闇の傷を癒しなどと回りながら、定期的にみんながとってもプルスウルトラできますようにとお願いをする。
結構イブもきつかった。個性を行使しすぎてとても眠かった。眠りに入りそうになると相澤が補習を倍にするぞと脅しに来た。起きるしかなかった。


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