補習だよ


「あれぇおかしいなァ!! 優秀なハズのA組から赤点が6人も!? B組は一人だけだったのに!? おっかしいなァ!!!」
「いやおまえが補習かよ!!」
「あ、ものまくんだー!」
「ハハッ! 君が赤点なのはわかってたよ! なにせクリーム脳だからね! 筆記で躓くに決まってると思ってたさ!」
「イブ筆記は合格したよ」
「なんだって!!?(僕は合格してないぞ……!!?)」
「かっちゃんたちがたくさん教えてくれたんだー! でも演習でつまづいちゃった」
「あれも惜しかったけどなぁ……物間聞いてくれよ、イブすごかったんだぜ! 鉄球とか瓦礫がバンバン降ってくる中ゲート目前まで飛んで行ったんだって!」
「そうそう! あの時のイブ最高にかっこよかったんだから!」
「えへへ、ほめすぎだよー!」
「…………へ、へえええ……や、やるじゃないか……」

あまりに予想外のイブの活躍に物間は血の気をなくしていた。物間は策略家であるし、作戦立案だったりとB組でも一目置かれる存在ではあるが、意外なことに勉強ができないタイプであった。頭はいいが勉強は苦手。それでも雄英のバカ高い偏差値はあるのだから頭はいいのだが……雄英の中では勉強ができない方であった。
そんな中筆記でおそらく一人だけ赤点をとってしまったという事実は物間のプライドをボロ雑巾のようにズタズタにした。クリーム脳にクリア出来たというのにクリアできなかった自分とは、というやつである。絶望しかなかった。


「君でもあの試験をパスしたのか……」
「? あーでもね、かっちゃんがイブが覚えられないの個性の影響だってあばいてくれなかったらむりだったよー、イブ教えてもらったこと全部抜けちゃってたや」
「個性……?」
「なんかねー、イブがお願いを叶えるだいしょう? らしいよ。だからイブクリーム脳? なんだって」
「……は」
「ものまくんが体育祭のときに個性のだいしょうに脳に異常があるっていってたのほんとだったみたい! ものまくんすごいね、一番にイブの個性知ってたんだね!」
「…………」
「あ、物間死んでる」

物間のライフはもうゼロだった。体育祭のときは一目惚れした人がこんなに幼い人だと思わず、そのことにプライドが傷つけられてものすごく嫌味を連発してしまった。正直本当に個性のせいで脳に異常があるとか思っていたわけではない、親の顔が見てみたいといったように、どんな教育をしたらこうなるんだと思っただけである。
それがまさか本当に個性の影響だったとは……イブは嫌味に気づいた風もなく一番に気付いてたんだね、すごーいって感じである。もう色々主に心が痛くて仕方なかった。

それから始まった補習は当然身が入らず、よくわからないまま進んでしまうのだった。







「物間、ちょっといいか?」
「……A組が何の用かな」
「体育祭のときおまえ、イブの親の顔がみたいってたろ……そのことなんだけどよ」
「随分深刻そうじゃないか。なに、もしかしてあの子親いないの?」
「……」
「……肯定か」
「本人は気にしてないみたいだけど、会ったことねぇんだと。あんまこういうの部外者が告げ口なんてするのよくねぇんだけど、おまえたまにイブにちょっかいだすだろ。漢らしくねぇけど、それでも俺はイブにそういうこと言ってほしくねぇんだ」
「……言わないよ。僕だって別に……傷つけたいわけじゃない」

物間のライフはもうオーバーキルであった。なんて失言だらけなんだろう。気にしてなかったとはいうけれど、それでも嫌なことを言ったことには変わりなかった。
子供っぽいと思う、色々残念だしもったいないと思うし、もっとこうだったら、ああだったらと思うことばかりだ。あの子は泣き虫だし、目に入るときはにこにこしてるか、ぴぃぴぃ泣いているかのどちらかだ。







布団に入ってからもイブのことばかり考えていた。どんなふうに今まで育ってきたんだろうと今度はマイナスな気持ちからではなく、心配が勝った。親の顔を知らないというイブ、個性のせいで知識に制限があるイブ、その個性故に行動すら制限されているイブ。なんだかとても不憫だと思った。


「(なんで……こんなにあの子のことばかり浮かぶんだ……)」

体育祭で会ってから、イブのことを目で追ってしまう。何か話していると気になる。今日も午前中個性が天使じゃなくて女神だったって判明してたなとか、昼は爆豪に怒られながら包丁扱ってたなとか、何をどこでしていたのかを把握している自分に若干引いてしまった。これじゃまるでストーカーだ。
ストーカーなんて冗談じゃない。ヒーロー志望が笑えない。昨日の間接キスを妙に意識してしまって、相手はまだ精神的に子供だと理解しているのにそれでもドキドキしてしょうがない。物間は知っている。それが何なのか。けれどそれを認めたくはなくてまだ気付かないふりをした。


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