すごい人がいっぱい!


いよいよ入学式である。イブは真新しい制服に身を包み1年A組の教室を目指した。教室に着くとなにやら男の子が二人揉めていた。


「どうしたの?」
「あ゛!? うっせぇな! お前こそなンだ!!」
「むっ? 君は確かリカバリーガールと一緒に治療にあたってくれていた……君も新入生だったのか」
「うんうん。イブはイブだよ。イブって呼んでね」
「うっっぜなんだこいつガキじゃねぇか!!」
「わかったイブくんと呼ぼう! 俺は飯田天哉だ」
「くん? イブ女の子だよ。いーだくんおめめ……あー眼鏡だねぇ。じゃあ仕方ないね」

勝手に納得してにっこり笑うイブに飯田も何が何だかわからなかった。独特の雰囲気である。爆豪も急に現れた不思議ちゃんにイライラしてしょうがなかった。そのやりとりを緑谷が目撃してものすごい顔になっていた。
怖かったツートップが絡んでいる上に助けてくれた天使の女の子が臆せず絡んでいるのだ。もう何が何だかわからなかった。
そんな緑谷に気付いた飯田が緑谷に挨拶に来る。そこでイブも緑谷のことを思い出し駆け寄ってきた。


「腕すごかった人だよね。合格したんだおめでと〜!」
「ああああありがとうっ! 君も新入生だったんだリカバリーガールと一緒にいたからてっきり在校生かと……!」
「イブ、雄英に保護してもらってるからお手伝いいっぱいしなくちゃなの」
「保護!? え、それ喋って大丈夫なやつ!?」
「……忘れちゃった」
「ええええ」

しょうがないクリーム脳なので。それからドアが開き麗日もやってくる。イブが顔を輝かせて「お茶子ちゃん!」と名前を口にすると「イブちゃんや!」と麗日も反応しひしと抱き合った。感動の再会である。
麗日と緑谷も面識があるようで麗日がぐいぐい話しかけていると寝袋に入った相澤が登場した。


「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
「えー、あいざわせんせーイブはお友達ほしいな。きっとその方が楽しいしがんばれるよぉ」
「お前は特に遊んでる暇なんてないからな。ちょっと黙ってなさい」
「むー」

相澤に言われた通り黙るイブ。スパルタ指導が効いている。イブが黙ったところで仕切り直すと、相澤は体操服を着てグラウンドに集合するよう指示を出した。
個性を使った体力テスト……個性把握テストの始まりである。







「びゅーーんっ!」
「おおっ速えええ!」

第一種目50m走は簡単だった。羽で飛んだのだ。スピードだけは少し自信があるのだ。なにせ相澤の勉強地獄から逃れるために逃げ足を鍛えたので。すべて失敗に終わったが。
握力も握力計バグらないかなと思ったら本当にバグってくれた。だがバグでしかないためこれは無効になった。泣いた。


「あいざわせんせ〜! なんで〜!」
「バグでしかないからだよ。おまえやるならもう少し方向性変えろ。機械自体を変えても意味ねぇぞ」
「わっかんないいい」
「それを考えなさい」

びえーんっと泣くイブを見兼ねた蛙吹が回収する。


「私、蛙吹梅雨っていうの。梅雨ちゃんって呼んで」
「づゆち゛ゃん」
「あなたはイブちゃんよね? イブちゃんって呼んでもいいかしら?」
「う゛ん。呼んで」
「ありがとうよろしくねイブちゃん」
「ん、よろしくつゆちゃん」

弟と妹がいるだけあって蛙吹は大変面倒見がよかった。次第に落ち着いてきたイブに周りにいたクラスメイトたちが話しかけていく。見るからに目立つ子であったのと相澤と知り合いである様子を見て気になっていたのだ。


「イブちゃんの個性ってやっぱり天使!?」
「うん、そうだよ」
「どんなことできんだ?」
「えっと飛べて、怪我治せる……? あと願い事を叶えてくれる……?」
「激レア個性じゃん! ねぇ相澤先生とはどんな関係なの? 面識あるよね?」
「あいざわせんせーは……お勉強教えてくれる……」
「一気にどんよりしたな大丈夫か!?」
「お勉強……嫌い……」

物凄く嫌いだと訴えてくるような苦い顔に思わず笑った。見た目は本当に天使というだけあって優れているのに中身が子供っぽい。上鳴なんかは最初あからさまに下心があったが、話してるうちになんか違うなと思った。同い年のはずなのに幼い子供を相手にしている気になってくる。
イブはすっかりクラスのマスコットポジに落ち着いていたのだった。

そうして最後目立った記録を残せてなかった緑谷が機転を利かせ指一本だけを犠牲にすることで記録を伸ばした。
そして最下位除籍は最大限の力を発揮させるための合理的虚偽ということが判明し、1年A組は21名誰も欠けることなくスタートを切ったのだった。


「デクくーん、怪我治して――」
「天廻、その必要はない。婆さんのとこ行かせる」
「イブ治せるのに? どうして?」
「どうしてもだ。いいか天廻、緑谷の怪我は俺がいいと言うまで今後一切治すなよ」
「ええっ!? あいざわせんせーいじわるしちゃダメなんだよー!」
「意地悪でもなんでもこれは必要なことだよ。お前らは相性が悪いからな」

むうっとした顔をするイブを「早く行け」と言って促す。
イブの治癒はリカバリーガールの体力を使うものと違いノーリスクである。自損してしまう緑谷とそれを無条件で治せるイブの組み合わせは最高であり最悪であると言えた。
相澤の目的は緑谷に力のコントロールをさせることであった。







下校時間になると麗日と出るタイミングが一緒だったのもあり、もっとお話がしたかったイブは校門まで見送ることにした。雄英に保護されているイブはこの敷地内にある宿泊スペースでお世話になっているのだ。初日の感想や好きな食べ物など話して帰っていると前方に飯田と緑谷がいるのが見えた。緑谷の怪我が心配だったこともありイブたちは二人に駆け寄った。


「イブくんに∞女子じゃないか」
「麗日お茶子です! えっと飯田天哉くんに緑谷……デクくん! だよね!!」
「デク!!?」
「え、違うの? テストのときデクって呼ばれてたのに?」
「あの……本名は出久で……デクはかっちゃんがバカにして……」
「蔑称か」
「べっしょうってなぁに?」
「侮辱して呼ぶってことだ」
「ぶじょく……」
「バカにするってことだ」
「あーそうなんだ! かっちゃんひどいねぇ」

根気強く教えてくれた飯田はいい奴であった。緑谷が爆豪をかっちゃん呼びしたのでイブにとって爆豪はもうかっちゃんであった。かっちゃん意地悪の方程式ができた瞬間である。


「でも「デク」って……「頑張れ!!」って感じでなんか好きだ私」
「イブもそう思うよ。言いやすいし」
「デクです」
「緑谷くん!! 浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回……」
「コペ?」
「コッペパン美味しいよね〜」

そうやってワイワイ話していると校門まであっという間だった。「また明日ー!」と手を振ると「また明日」と手を振り返してくれた。
入学早々お友達ができてイブはいいスタートダッシュを切っていたのだった。


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