連れ去られた


「補習組、動き止まってるぞ」
「オッス……!!」
「すいませんちょっと……眠くて……」
「しんどいよぉ……」
「昨日の補習が……」
「だから言ったろキツイって」

本当に死ぬほどキツかった。相澤は立て続けに補習組の課題を上げていく。イブに関しては長時間連発使用による容量の増加と大きなお願いも叶えられるよう代償となる知識の蓄えが課題であった。
けれどそれ以上に6人に壁となって立ち塞がるのは――


「そして何より期末で露呈した立ち回りの脆弱さ!! おまえらが何故他より疲れているかその意味をしっかり考えて動け。麗日! 青山! おまえらもだ。赤点こそ逃れたがギリギリだったぞ。30点がラインだとして35点くらいだ」
「ギリギリ!」
「心外☆」
「気を抜くなよ。皆もダラダラやるな。何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ」

イブにも原点がある。大好きな火伊那おねーちゃんの見えない傷も癒せるヒーローになりたいと願った。どんな傷も治せるヒーローに。そのために必要なことであった。








「爆豪くん包丁使うのウマ! 意外やわ……!!」
「意外って何だコラ包丁に上手い下手なんざねぇだろ!!」
「出た! 久々に才能マン」
「イブもちょっと上達したよ!」
「俺が教えてんだから当然だわ!!」
「皆元気すぎ……」

相澤の原点の話が効いていた。イブは意欲を取り戻し包丁も熱心に爆豪に教わっていたのだった。
けれど出来たのはやっぱり店で出されたら微妙な感じの味であった。まぁそれは仕方ないと言うもの。







「腹もふくれた皿も洗った! お次は……肝を試す時間だー!!」
「その前に大変心苦しいが補習連中は……これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ」
「すまんな日中の訓練が思ったより疎かになったのでこっち・・・を削る」
「うわああ堪忍してくれえ試させてくれえ!!」
「(イブ怖いのも暗いのも苦手だから助かった……)」

イブからしてみれば相澤は救いの神のようなものだった。正直震えるどころの話ではない。暗い森を歩くだけで怖くて怖くて仕方ないのに、その上肝試しだなんて生きた心地がしないったりゃありゃしないのだ。


「今回の補習では非常時での立ち回り方を叩きこむ。周りから遅れをとったっつう自覚を持たねえとどんどん差ァ開いてくぞ。広義の意味じゃこれもアメだ。ハッカ味の」
「ハッカは旨いですよ……」
「あれぇおかしいなァ!! 優秀なハズのA組から赤点が6人も!? B組は一人だけだったのに!? おっかしいなァ!!!」
「どういうメンタルしてんだおまえ!!」
「昨日もまったく同じ煽りしてたぞ……」
「心境を知りたい」
「ブラド今回は演習入れたいんだが」
「俺も思ってたぜ。言われるまでもなく!」

その瞬間マンダレイからテレパスが送られた。内容はなんと敵が二名襲来したというもの。他にも複数いる可能性があり、動ける者は直ちに施設に戻り、会敵しても決して交戦せずに撤退をというものだった。








『A組B組総員――……戦闘を許可する! 敵の狙いの一つ判明――!! 生徒の「かっちゃん」と「イブちゃん」!!』
「君……!」
「爆豪とイブ……!?」
『「イブちゃん」はそのまま施設で待機!! 「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!! 単独では動かないこと!! わかった!? 「かっちゃん」!!』
「かっちゃん……」

イブは自分を狙っている可能性があるとは襲撃の知らせを受けた時点で予測していた。伊達にずっと狙われていないのである。けれどまさか爆豪まで狙われているとは思わなかった。爆豪はそりゃ強いしいい個性をもっているけれど、敵にとって利があるとは全く思わなかったからだ。


「とにかく、アタシたちでイブを守ろう!」
「おうっ!」
「けど爆豪の方だって……! こっちはこれから人が増える。俺は爆豪探す!」
「確かにあっちは肝試し中だもんな。バラけちまってる」
「ダメだ! おまえらはここにいろ」
「ダチが狙われてんだ。頼みます行かせてください!!」
「ダメだ!」
「敵の数が不明ならば戦力は少しでも多い方が!」
「戦えって!! 相澤先生も言ってたでしょ!!」
「ありゃ自衛のためだ。皆がここへ戻れるようにな」
「相澤先生が帰ってきた。直談判します!」
「……や……待て、違う!」

扉から炎が繰り出された。イブを近くにいた物間が庇うように抱きしめたが、ふとその感触が消えた。物間が慌てたように探すが返事は返ってこない。炎を操血による煙が晴れるとそれが最悪の事態であることに気付いた。イブの姿がどこにもなかった。
トゥワイスが新たに増やしたMr.コンプレスの分身による個性だった。


「あの子が奪われた!!」
「すぐに追う!! ブラドはここを頼んだ!!」
「イブ、うそでしょ……! アタシもっ!!」
「ダメだ! 天廻のことはイレイザーに任せろ!」
「でもっ!!」

みんな酷い顔だった。ついさっきまでそこにいたのに一瞬で奪われた。物間も血の気が引いていた。たったさっきまで腕の中にいたのに。一瞬で消えた。まるで最初からそこにいなかったかのように。
その後相澤が追ったものの、いつかのワープゲートの個性で爆豪共々奪われ、すでに逃げられた後。完全敗北だった。


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