羽を落とされた日


「おはよう、天廻イブ。神の力を宿す少女よ」
「……だれ……?」
「人は僕をAFOオール・フォー・ワンという。天廻イブ、君に少しお願いがあってね。USJで弔は君の個性に目を付けた。そして僕も体育祭やついさっき貰った・・・個性で君の個性がいかに素晴らしいか実感した。ついては……その個性を弔のために役立ててはくれないだろうか」
「とむら……イブしってる、雄英襲ってきて、デクくんにひどいことした人でしょ……イブ、そんな人の力になんかならない。イブをみんなのところに帰して……」
「……残念だ。ならその個性は僕が貰う・・としよう」

AFOオール・フォー・ワンの魔の手がイブに迫っていた。逃げなきゃいけないとわかっていたけれど、身体に力が入らなかった。それは恐怖だ。圧倒的な力の差、死をリアルに意識させられる巨悪。
イブはただ震えることしかできなかった。








「……つまりその受信デバイスを……八百万くんに創ってもらう……と? オールマイトの仰る通りだ。プロに任せるべき案件だ! 生徒おれたちの出ていい舞台ではないんだ馬鹿者!!」
「んなもんわかってるよ!! でもさァ! 何っも出来なかったんだ!! ダチが狙われてるって聞いてさァ!! なんっっも出来なかった!! イブだってあんな近くにいたのに! 俺ァ守ってやれなかった!! 今頃すげぇ怖い思いしてるはずなんだよ!! きっと泣いてる!! ここで動かなきゃ俺ァヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」
「切島落ち着けよ。こだわりは良いけどよ今回は……」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が皆が正しいよでも!! なァ緑谷!! まだ手は届くんだよ!」

切島の叫びが部屋の向こうまで響いていた。それを聞いている人間が一人いた。その人は思案顔を浮かべると、話がまとまったのを聞き届けてその場を後にするのだった。







「ひっく、ぐすっ……ううっ……いたい……痛いよ……」

爆豪は目の前の光景が信じられなかった。攫われて二日、当初はイブまで攫われていたとは思わなかった。友達を連れてきてやるよと言われ、文字通り荷物のように持ってこられたのが羽をなくした・・・・・・イブだった。
背中には根元から羽をもぎ取られたかのような痕があり、ものすごい出血だった。羽を落とされたからかいつもより輪っかの輝きも鈍い。治癒しろと呼びかけたがイブはあまりの痛みに聞こえてないようだった。


「ンで俺は拘束だけで、そいつは羽落とされてんだよ……! そいつの方が雑魚だろが!」
「しょうがないだろ。どういうわけかコイツの個性奪えなかった・・・・・・んだから。お願いってやつされるとうぜぇし、ちょっと他に何も考えられないようにしただけさ」
「(個性を奪う……!?)さすがクソヴィラン! やることクソの極みだなァオイ!」

つけられたテレビから雄英の会見が流れ出ていた。内容は敵の襲撃をまたしても許し、二人も生徒を誘拐された雄英の批判だった。
これはスカウトだといって死柄木が爆豪の拘束を外すよう命じる。けれど何を言われたって爆豪は曲がらなかった。オールマイトが勝つ姿に憧れた。それが爆豪の原点だから。容赦なく爆破を繰り出し、蹲るイブを背に庇った。
テレビからは爆豪の体育祭での粗暴な面を指摘する声が上がっていた。イブの激レア個性とそれに伴う保護の杜撰さ、そしてイブ自身の極端な幼さを危惧する声と、それ故に体育祭で発覚したお願いを悪用されたときの恐ろしさを訴える声があがる。冗談ではなかった。自分が敵に与することは億が一にもないし、イブだって善悪の判らない子供ではない。


『行動については私の不徳の致すところです。ただ……体育祭でのソレら・・・は彼の理想の強さ≠ノ起因しています。誰よりもトップヒーロー≠追い求め……もがいてる。天廻もまた、ずっと狙われ、日常を脅かされてきたからこそ、悪に与することはない。あれを見て隙≠ニ捉えたのなら敵は浅はかであると私は考えております』
「ハッ、言ってくれるな雄英も先生も……そういうこったクソカス連合! 言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねぇぞ」
「……っ、イブ……も、たた……かうっ」

まだ激痛が襲っているだろうに起き上がってイブも前を見据えていた。
相澤の言葉が、爆豪の姿勢がイブを立ち上がらせたのだ。みんなのところに帰るために戦うことを決意したのだった。
けれど輪っかは依然として鈍い光を放っている。思うように個性を使えない様子に爆豪はもちろん、連合も気づいていた。手負いのイブを抱えてどう切り抜けようかと爆豪が頭を悩ませる中、ピザーラ神野店……オールマイトたちが救出にやってきたのだった。


「もう逃げられんぞ敵連合……何故って!? 我々が来た!」
「オールマイト……!! あの会見後にまさかタイミング示し合わせて……!」
「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ……ピザーラ神野店は俺たちだけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめ手練れのヒーローと警察が包囲している」
「怖かったろうに……よく耐えた! ごめんな……もう大丈夫だ少年! 少女!」
「こっ……怖くねぇよヨユーだクソッ!!」
「イブも……こわく、なかった……!」

精一杯の強がりだとオールマイトもわかっていた。イブの羽を落とされた様子にオールマイトがさらに怒りを燃やした。
あっという間にヒーローたちが場を制圧し、これで一件落着と思いきやあの声が聞こえた。AFO。いきなり脳無が現れ、そして爆豪とイブの口に何かが侵入し文字通り飲まれていったのだった。神野の悪夢は続く。


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