そのとき彼らは


時は少し遡る。切島と轟が行くと決めて今晩決行すると緑谷に話、言われた通りに夜集合した緑谷と八百万、轟と切島に……飯田が止めに来た。
飯田は怒っていた。ヒーロー殺しのとき私怨で何も見えなくなった、ルール違反をして警察に守られた自分たちがなぜ再び同じ過ちを犯そうというのか。飯田は救われたからこそもう二度と繰り返してはいけないと友のために怒っていたのだった。
八百万もまた万が一に備え、自分がストッパーになれるように来たのだと言う。そして切島たちも何もルール違反をしようとしたわけではなかった。戦闘なしで救け出す。隠密行動が切島たちがルール違反を侵さない範囲で戦おうというのだった。
そして飯田も自分も連れて行けと言う。少しでも戦闘を匂わせたら引き戻せるように。

そのとき蔭から意外な人物が現れた。


「A組ってほんっと無謀だよねぇ! ルール違反しなきゃいいわけじゃないんだけどねえええ!」
「もっ!? 物間くん!!?」
「なんでお前がここに!?」
「君たちさァ、声大きすぎなんだよ。病室の外まで丸聞こえ! 病院内では静かにするって当たり前のことだよねええええ」
「そりゃあ熱くなった俺が悪かったけどよ……」
「……密告でもするのかと思ったが、それなら姿を現すはずねぇよな。何が目的だ」
「当然、密告なんてしないさ。僕の要求はただ一つ――僕も連れてってよ」
「え!? なんで物間くんまで!?」
「連れてってくれないなら告げ口も辞さないけどね! どうする!? 連れていく!? 告げ口される!? 僕はどっちでもいいけどねええ!?」
「言うことめちゃくちゃだな!? わかった、わかったよ! 連れてくって!」
「賢明な判断だね!!」

独特のテンションに周囲は唖然であった。しかもA組というわけでもない、B組である。正直なんでお前がというやつであったが、物間は一向に理由を話そうとはしなかった。
ただ、緑谷だけが薄々イブ絡みだろうなと思うのだった。それだけ食堂の件は印象的だったので。







「オッラァ!! コッラァ!!」
「なる程変装か」
「違ぇもっとアゴをクイクイやんだよ」
「オッラァ!」
「ハハハハハッ、変装のクオリティなら負けないぞ! A組きみたちよりB組の方が上だ!!」
「夜の繁華街! 子どもがうろつくと目立ちますものね!」
「パイオツカイデーチャンネーイルヨー!!」

八百万の提案でドンキで変装することになり、夜の繫華街にいて不自然ではないように溶け込んだ。
若干変な感じなのが数名いるが、物間はセンスの良さを発揮し華麗に着こなしていた。だが逆に本物のホストと勘違いしたお姉さんたちに声をかえられたりなど目立っていたのだった。







受信機の示す場所に到着し、八百万が創造した暗視鏡と切島が自費で購入した暗視鏡であたりを見渡す、物間も緑谷と半ば無理やり交代し、中を覗く物間はただひたすらにイブの姿を探したが見つからなかった。
そしてしばらくすると、オールマイトたちプロヒーローがすでに動いていた。自分たちのするべきことはないと悟り移動しようとしたその時、恐怖に身が竦んだ。逃げなきゃいけないとわかっているのに恐怖で身体が動かないというのを体感した。
そして爆豪が、イブが連合と一緒に現れた。緑谷と轟、切島と物間が動こうとしたのを飯田と八百万が必死に止めた。恐怖で動かない身体をそれでも四人を守るために動かしたのだった。

爆豪たちの声から察するに、爆豪はイブを庇いながら……いや庇うどころか守っているのがわかる。それも背に庇うとかではない「落ちんなよ」の一言で察した。スピードなら爆豪よりイブの方が上だからだ。それでも爆豪がイブをおぶさってまで脱出しようとする理由、それはそうであってほしくないと思いつつも明確に意識せざるを得なかった。


「イブちゃん……飛べない状況なんだ。羽に傷が入ってるのかもしれない」
「ただの傷じゃねぇな。爆豪ならこの状況でイブを絶対甘やかさねぇ。爆豪がそうするってことは……そんだけ酷い怪我してるってことだろ」
「あの子の治癒は自身にも有効だろ。それもできないってことは……個性が使えない状況にあるってことだ」
「なんとかしねーと!」
「ダメだ! 戦闘はしない! その約束だったろう!」
「わかってるよ! わかってるけど、でもよ……!!」

その瞬間、緑谷が閃いた。決して戦闘をせず爆豪とイブを奪還する方法。
爆豪の手を取らせるには切島が鍵であり、そして重傷とみていいイブを救うのに物間が重要だった。緑谷は確認する、イブの個性を物間はちゃんと使えるのか。物間はここで手の内を隠してもしょうがないと思い正直に話す。羽と輪っかはコピーできる、治癒もできる、けれどお願いはできない。それが結論だった。けれどそれだけで十分だった。


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