今度は君を離さない


「かっ、ちゃん……イブおいて逃げて……かっちゃん一人なら……逃げ、れる……」
「一丁前に自己犠牲なんてもん覚えたかよ! それいらねぇもんだからすぐ脳内から消せ! 何の役にも立たねぇわ!」
「かっちゃん……でも……」
「でももだってもねぇわ! 第一動けねぇおまえを残した時点でオールマイトのお荷物が増えるだけだろうが!!」

イブは爆豪の首に腕を回し、必死にしがみついていた。爆豪が戦えるように両手は空けておかないといけないからだ。けれどイブも自分の腕に段々力が入らなくなるのを感じていた。あまりにも傷が深い上に治癒が思うように発動してくれない。完全にお荷物であった。
爆豪も焦っていた。自分たちがいるせいでオールマイトが全力を出せない。かといって脱出できるほど連合は大人しくしていなかったし、背中のイブの傷が何より気がかりであった。一刻も早く脱出しなければならないが、打開策が浮かばなかった。
どうする、どうしたらいい、考えろ――そのとき、氷が空を貫いた。勢いよく飛んだその先で切島友達が手を差し出した。


「来い!!」
「……バカかよ」

切島と一緒に緑谷と飯田が来ていた。みんなの顔を見て爆豪が脱出できたのがわかると、途端にイブの力が抜けてしまいそのまま落ちてしまった。それに爆豪が、切島が、飯田が、緑谷が声叫ぶような声を上げた。方向を変えようとするも間に合わない、そのまま地面に叩きつけられようとしたその時――八百万の創造でエンジンを創ってもらっていた物間がイブを抱きとめた。


「今度は離さないぞ……!!」
「……も、のまくん……」
「まったく君は本当に手がかかるんだから……!」

言葉とは裏腹に物間はなんだか泣きそうだった。綺麗だった真っ白な羽がなくなっているのもそうだし、ボロボロなのも、今本当に死ぬかもしれなかったのわかってるのかと思うのも。でももうなんだか今は腕の中の体温に確かに安堵した。ああ、生きてる。無事じゃなかったけど、それでも生きてここにいる。もう離さないとこの瞬間だけは自分の中の気持ちに素直になれた気がした。


「物間ナイスッ!」
「って連合来るよ! ほんとしつこい奴等だ……!」
「反発破局夜逃げ砲!!」
「タイタンクリフ!!! っだ!?」
「Mt.レディ!」
「救出……優先。行って……! バカガキ……」

迫ってきた連合にMt.レディが身を挺して庇ってくれた。なお追撃しようとする連合をグラントリノが駆けつけ阻止してくれた。
緑谷たちの爆豪とイブの奪還は成功したのだった。







「いいか俺ァ助けられたわけじゃねぇ。一番いい脱出経路がてめェらだっただけだ!」
「ナイス判断!」
「オールマイトの足引っ張んのは嫌だったからな」
「みんな……助けに来てくれてありがとう」
「こら、喋らない。君大怪我どころじゃないんだから」
「でも物間くんが治してくれてるおかげでイブ元気だよ。ありがとう」
「……それはよかった」

とりあえずの安全を確保すると物間はすぐにコピーしたイブの個性で治癒を施していた。改めてみるとやはり傷が深く、本当に大怪我どころじゃなかった。治癒をする物間の表情は険しかったし、爆豪たちもわりと深刻な顔をしていた。
イブにとって真っ白な羽というのは大層自慢であったし、特別なものであるというのを理解していたからだ。物凄く辛いだろうにそのことについて泣きわめかないというのもなおの事に気になってしょうがなかった。







どんなに恐ろしい敵だとしても、オールマイトがなんとかしてくれると思ってた。オールマイトが負けるだなんて誰も何も考えていなかった。
けれど、モニターに映し出されたオールマイトの姿はまるでガイコツのように変わり果てていた。そのことに衝撃が走る。オールマイトが押されている、オールマイトが負ける。そんなはずない。だってオールマイトはいつだって笑顔で勝って救けるんだ。みんな気づけば声に出していた。


「オールマイト! 頑張れ」
「まっ負けるなァオールマイト!!」
「頑張れえええ!!」
「オールマイトっ!」
「勝てや!! オールマイトォ!!」
「オールマイトォ!!」

オールマイトの下にヒーローたちも集まってきた。自分たちにできることを、平和の象徴オールマイトが背負うものを少しでも軽くしようとした。
そしてついにオールマイトが巨悪に打ち勝った。勝利のスタンディングに湧いた。「次は君だ」その言葉に緑谷はすべてを理解したように涙を流していたのだった。
神野の悪夢。死傷者はかなりの数にのぼり、平和の象徴は終わりを告げた。

イブをある程度物間が治癒すると、爆豪と一緒に警察に送り届け6人は家へ帰るのだった。長い、長い夜だった。


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