つらくないわけがない


イブも警察の事情聴取を受け、その後警察やヒーローの厳重な護衛つきで最先端最高峰の治療が受けられるセントラル病院で診てもらうことになった。なにせ天使を通り越し今や女神ゴッデスである。生きる世界遺産と言っても過言ではなかった。

けれどその最先端最高峰の医療技術をもってしてもイブの羽は復活しなかった。リカバリーガールが出張してくれてもそれは変わらず、イブは羽をもがれたまま……すなわち個性をうまく使えないままであった。


「イブのはね……もう、はえてこないの……?」
「……何とも言えません。翼のある個性は他にもありますが、その中には再生機能のある個性、ない個性があるのもまた事実。君の個性は類を見ない個性ですし……断言するにはあまりにも資料が少なすぎる」
「つまりどういうこと……?」
「生えてくるかもしれないし、生えてこないかもしれない。ということですね」
「はえて……こない……」
「あくまで可能性の話です。あまり悲観的にならないで」

ボロボロと涙をこぼすイブに医者が優しく語りかけた。けれど一度突き付けられた可能性はイブを沈ませるには十分であったし、イブにとって羽は記憶の他にナガンを身近に感じられる何よりのお守りだった。
ナガンが褒めてくれた、ナガンが大切に手入れをしてくれた大事な自慢の真っ白な羽。その羽がもう生えてこないかもしれないというのはイブにとって絶望の二文字だったのだ。


「あんた、こういうときこそお願いしたらどうなんだい」
「リカバリーガール……だめなんだよ、かっちゃんが言ってた……身体のことでお願いするのはあぶないって」
「そりゃお願いの仕方によっちゃ危ないのもあるだろうけどね、立派な羽が生えてきますようにってお願いじゃ危なくはならないさ」
「ほんとう……?」
「本当だよ。ほら、ペッツお食べ。特別にハリボーもあげようね」
「ううっ……うええんっ」

イブのお願いも前のようにすぐに叶えてはくれなかった。輪っかは鈍い光を発するばかりで本当に効果があるのかすら怪しい。わんわんと泣き崩れるイブをリカバリーガールが優しく抱きしめていつまでも撫でてくれたのであった。







「おじゃましまーす!」
「あ! イブちゃんや……!!」
「みんなー! イブが帰ってきたぞー!!」
「なに!? 今行く!!」

イブは退院が長引き、みんなより一日遅れての入寮となった。
イブの羽がないことはもう伝わっており、みんなそれに触れようとはしなかった。辛いとわかっていて触れたくなかったのだ。


「イブちゃんよかった、退院できたのね」
「うん、色々検査してたら長引いちゃった。みんなと一緒のお家で暮らせるの嬉しくてね、イブもうずっとわくわくしてたんだー!」
「私たちもイブさんが来るのを楽しみにしてたんですの。さ、まずは一息つきましょう。私お紅茶をお淹れしますわ!」
「ももちゃんのおこーちゃ? 楽しみー!」
「イブが今日退院するって聞いてケーキも作ったんだ! 食べてくれ!」
「けーき!!? たべるたべるーー!!」

お席もご用意されまさに至れり尽くせりだった。砂藤が焼いてくれたというケーキは苺と生クリームのものでイブの好みが大いに反映されたケーキだった。
お紅茶もよくわからないが八百万が心を込めてブレンドしてくれたものであり、なんだかとても美味しかった。
それに驚いたことにこういった場にいるイメージのない爆豪が隣でまたしても世話をやいてくれた。ケーキの食べ方が汚いとフォーク使いからまたしても教えられる羽目になったがそれもなんだか嬉しかった。


「! かっちゃんイチゴくれるの!?」
「俺は甘いもんは好きじゃねぇ」
「わーい! イブイチゴ好きー!」
「はしゃぎすぎんな! 立つな座れ!」
「はーいっ」
「俺のもやるよ!」
「僕のも!」
「私のも!」
「俺のもやろう」
「じゃあ俺もー!」
「アタシもアタシもー!」
「はわわ! イチゴがいっぱい……! ありがとー!」

結果イブのお皿には苺がたくさん乗っていた。たくさんというか全員分の苺である。いつもなら羽がフリフリと動いているだろう光景にみんなちょっぴりしんみりした。
その後部屋がまだできていないイブを女性陣が主に手伝い、重いものを動かすときに男子の力を借りイブの部屋ははやくに完成した。
出来た部屋は女の子の部屋といえばそうなのだが、メルヘン全開でなんともイブらしい部屋であった。







「寝たんか」
「ええ、たった今ね。イブちゃん寮生活楽しみにしてたみたいだからはしゃぎすぎちゃったのね」
「……そーかよ」
「爆豪ちゃん運んでくれるの?」
「このままここいたら風邪ひくだろーが」
「ふふ、そうね」

眠るイブを抱き上げて爆豪が部屋まで運んでいくのを蛙吹がついていった。
女子たちに風呂でまた散々甘やかされ、髪も乾いていたがそこらへんで寝せるというのは爆豪的に論外であった。羽がないから抱き上げやすい。そのことに爆豪は複雑な思いを抱いていた。


「こいつの羽、治ると思うか」
「……難しい質問ね」
「……治すぞ」
「爆豪ちゃん……」
「こいつ俺らの言うことはよく聞くンだからなんとかなるだろ」
「……ええ、そうね。きっとそうだわ。イブちゃんいい子だもの」

それは祈りにも似ていた。いい子にはご褒美をきっと神様は与えてくれる。神の祝福が再び訪れるように。いつかイブが自由に空を泳げるように。そんな未来を描いていた。


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