星に願いを
寮生活が始まると同時に授業も本格的に仮免取得に向けて必殺技を編むことになった。イブは相変わらず個性が上手く使えなかったが、それでも今できる精一杯で頑張っていたのだった。
「っいって!」
「! 上鳴くんだいじょーぶ!? イブが治して……」
いつもの癖で飛ぼうとして飛べないことに気付くとイブは黙ってしまった。それを近くで見ていた生徒たちも心配げに見ていた。上鳴が気遣うように「大丈夫! かすっただけだ!」と声を上げるがイブはまともに反応できなかった。
けれど誰も動けなかった中でイブを引っ張る手があった。
「飛べねーなら歩いていきゃいい話だろうが」
「かっちゃん……」
「アホ面! さっさと傷口見せろ!」
「ええ!? いいよそんな大したもんじゃないし……!」
「おらぼーっとしてんな、おまえもさっさと治せ」
「う、うん」
滅茶苦茶強引だった。けれど大したものではないという割に血が結構出ていた。イブは急いで治そうとするがやはりうまく行かない。まったく効いていないわけではないけれど、ちゃんと効いているわけでもなかった。
「ごめんなさい……イブ治すって言ったのに……治せてない……」
「ああイブ……気にすんなって。ちゃんと効いてるし……俺あんまもう痛くないよ。ありがとな」
「でも……」
「うっせぇめそんな」
「ちょ爆豪! おまえが連れてきといてそりゃねーだろ!?」
「あ゛? めそってなんか変わるわけじゃねーだろ。泣くくらいなら黙って集中しろや」
「言い方ってもんがあるだろ!? 大体イブだって好きでこうなったわけじゃ――」
「上鳴くん!」
「あ……ごめっ」
失言だった。誰も彼もがイブの羽には触れなかった。触れられなかった。イブへの過保護をみんな強めていた。たった一人爆豪を除いて。けれど爆豪はそれではいけないと思っていた。立ち上がらせないといけない、立ち上がれなければ潰れていくだけだと理解していた。
イブに必要なことが何なのかをクラスでたった一人気づいていたのだった。
「お前、原点忘れんなよ。羽がなくなったからなんだ。そんなもん関係ねぇわ」
「かっちゃんも!」
「おめぇらもだ! 嫌なもんから目を逸らさせるだけじゃなんも解決しねぇ! 過保護拗らせて腐らせるだけなら仲良しごっこなんざやめちまえ!!」
「! かっちゃん……(そうか……かっちゃんなりにイブちゃんを……)」
「爆豪……」
「どんな傷も治すヒーローになるんだろうが。諦めンな」
「……かっちゃん……」
「おめーはクソクリーム脳のクソメンタルだかンな。嫌なことはクリーム脳らしくすぐ消化して、ちゃんと前向け。じゃねぇとなんも良くはならねぇ。わかったな」
「……うん」
いつもよりずっと熱心に爆豪はイブの世話を焼いてくれた。それは爆豪自身も消えない傷を抱えてしまっていたからだと気づくのは少し先のことであった。
ただイブは爆豪の言葉をちゃんと聞いた。イブの原点、火伊那おねーちゃんの見えない傷を癒したかったこと。どんな傷も癒せるヒーローになると決めたこと。羽がなくなってもイブはイブだということ。
努力を続けて、諦めないこと。ちゃんとイブは爆豪の言葉を正しく認識していたのだった。
「あ、イブちゃんお帰りー! 相澤先生との勉強会どうだった?」
「ただいまー、もうね、たいへんだった! あいざわせんせーずっと個性つかっててね、どらいあい? が大変で、イブがそれ治したんだよ!」
「おー! ちょっと使えてるやん! やったね!」
「えへへ、がんばった。みんなは何してるの? その紙なに? それにその大きな木? も」
「あーこれねぇ、だいぶ遅いけど七夕しようってね! はいこれイブちゃんの短冊!」
「イブこれ知ってる! お願い事書くんでしょー!」
「そうそう。イブちゃんも書いて書いて」
「書く書くー!」
受け取った短冊にイブは少し悩んでから「みんなのお願いが叶いますように」とお願い事を書いたのだった。
その上砂藤が七夕をモチーフにしたゼリーを作ってくれていた。イブも七夕の日はランチラッシュが作ってくれていたので馴染みのあるゼリーだった。
短冊を男性陣が取り付けてくれ、寮の共有スペースに飾られた季節外れのそれは色とりどりの短冊に彩られていた。
「あれ……これ……え。みんな……」
「……なんかさ、触れちゃだめだと思ってたんだよね。辛いのわかってて触れたくなかったっていうのもそうだけど、なんて声かけていいかわかんなかったんだ」
「でもさー、爆豪がどんどん切り込んでさ、イブも頑張って前向こうとしてるの気づいてさ。なんか私たちもちゃんともっと形にして、力になりたいって思ったんだ」
「神頼みってのもあれだけどよ……こんだけみんなで頼んでんだ。きっと聞き届けてくれるって思わねぇか?」
「うっ……ううっ……み、みんな〜!」
「イブちゃん、私たちがついてるわ。きっと大丈夫よ」
「ええ、病は気からといいますもの。また綺麗な羽が生えてくると私たちは信じていますわ。だからイブさんも信じてください。きっとそのようになるはずです」
「うううっ……うんっ、うんっ……!」
1年A組の笹に飾られた短冊には「イブの羽が生えてきますように」といった旨が記載されていた。
きっと生えてくる。なにせA組の神様はみんなのことが大好きで、みんなの言うことはちゃんときくから。その願いが叶うのは意外と近いかもしれない。
その後部屋から降りてきた爆豪にも書くようみんなが迫り、爆豪は内容を見ると鼻で笑ってもっとデケェ夢見ろやと「もっとデカくて丈夫なやつ」と書くのであった。どこまでもプルスウルトラである。