危機一髪


物間の進撃は回収に来た拳藤と角取、その付添の鉄哲によって一旦止まることになった。
偵察だったのが遊びに来たことにした物間がお茶も出さないのかと難癖つけたのを受け、八百万と砂藤がイブにしてくれたように紅茶とレモンシフォンケーキを出しおもてなしをした。
こればかりは文句のつけようがなく、美味しい紅茶とお菓子に物間は「……ちゃんとしたおもてなししないでくれる……」と憎々しげにこぼすのだった。


「砂藤のケーキの前じゃ、おまえも完敗だな!」
「フン、あんな部屋のキミに言われても何も悔しくないね」
「そんなに言うくらいだから、お前の部屋はさぞかしセンスいいんだろうな!? これでだっせえ部屋だったら大笑いしてやる!」
「ダサくなかったら何してくれる?」
「電気で茶を沸かしてやる……いや、B組の風呂を沸かしてやるよ!」
「これ、僕の部屋」

そうして携帯の画面に映る部屋は実にセンスがよかった。上鳴は言葉をなくし、葉隠は超オシャレと大絶賛であった。パステルカラーの壁紙に趣のある白いアンティークの家具、窓の外にエッフェル塔が映っているかのようなフレンチスタイルだった。


「わー! ものまくんのお部屋きれーだねぇ!」
「……まぁね。って君、近いよ……もうちょっと距離感考えてくれる?」
「きょりかん……? え、イブ近かった? ごめんね」
「あー……あんま気にしなくていいぞ。こいつちょっとかなり過敏なだけだから」
「拳藤……! 僕のどこが過敏だって!?」
「そういうとこだよ」

イブが人懐っこいということもあるが、物間も物間で意識しすぎなところがあるのも事実だった。わりと初心なのだ。遠ざかった距離に安堵する一方、やっぱりいい匂いがしたなと思ったりと物間の内心はやはり荒れていたのだった。
そこで意外な援護射撃が入る。物間のセンスのいい部屋に感動した葉隠からのご褒美のようなものだった。


「でもでも、なんか部屋の雰囲気イブちゃんのと似てるよね〜! 女の子が憧れるお姫様部屋だもん!」
「お姫様……?」
「見に来る……はだめなんだっけ? あ、たしかねみんなに手伝ってもらってできたとき写真とったんだよ。これこれ!」
「おお……!」
「すげぇ、確かに物間の部屋と雰囲気は似てんな!」
「オー! まさにプリンセスルームデース!」
「……かわ……ま、まぁ……君に似合ってるんじゃない?」
「えへへ、ありがとー!」

少し子供っぽさは残るものの、それが逆にイブらしくて似合っていた。
その後調子づいた物間が上鳴を煽ったり、拳藤たちの部屋も見せてもらったりと普通に盛り上がったところ、物間はご機嫌で帰ろうとするのを部屋を貶されたA組の者たちが引き止めたのだった。言われっぱなしなのはちょっとあれである。それで物間がまた勝負と言い出して……轟がちょうどいいのがあると部屋にとりに行ったのは海賊をモチーフにした海賊が危機一髪的なあれであった。


「これなに? イブ初めて見る」
「これはねー、この穴に剣を刺していって、海賊が飛び出た人が負け! っていうゲームだよ」
「へー! 面白そう!」

B組の人数に合わせてメンバーを選出するにあたり、男女比も公平を期して同じようにすることになった。A組メンバーの男子は部屋を貶された上鳴と尾白、女子は面白そうと興味を示した葉隠と、同じく初めて見るゲームに興味津々なイブであった。
そして先行がB組の物間、だが物間が刺した瞬間、電撃が物間を襲うのだった。慌ててイブが治癒をかける。


「わー! ものまくんだいじょうぶー!?」
「物間っ、大丈夫か!? 物間ー!! 気をしっかり持て!!」
「……いや死んでないから。やってくれるね、不意打ちの放電なんて……さすがA組やることが大胆だねぇ!?」
「ちょっ、俺何もしてねーって!! みんな見てたろ!?」
「うん、電流は樽から出てきてたよ……」

困惑する周りだったが、持ってきた轟も困惑していた。実はこれはサポート科の発目が作ったものらしく、それをもらったらしい。なので説明書はないし、だいぶ変わった遊びになっていた。
その後も一人だけ割を食ったまま引き下がるわけないはいかないと物間が続行を表明し、罰ゲーム付きで面白そうとノリの良さを発揮するのだった。

上鳴は腕をシッペされ、鉄哲はゴムパッチン、尾白は尻尾のふわふわの部分にガムテープを貼られ剥がされ、拳藤は異臭を引き当て、葉隠はくすぐられ、角取はワサビを口にほうりこまれ、イブは背中に氷を入れられるのだった。
そして残る穴は二つ。イブの順番だった。えいっと刺したらアームが伸びてきてぐるんぐるんに振り回されたのだった。


「大丈夫ですかっ?」
「な、なんとか……びっくりしたぁ」
「勝負はA組の勝ちだな!」
「くッ」

負けとわかった瞬間、物間は最後の剣を刺すのを拒んだ。負けとわかっているのにやらせなくてもいいじゃないかと粘るがそれをいい加減にしろと拳藤が手刀をお見舞いし、鉄哲も男らしくないというが物間も断固として譲らなかった。罰ゲームしたくなさすぎた。
そしてそれならばと鉄哲が代わりに刺してくれるという。まさに漢だった。そして鉄哲が刺した瞬間、「おめでとうございます!」と発目の声がした。どうやら発目は海賊を飛ばした人が勝ちという設定にしていたようだった。


「じゃあどっちが勝ち……?」
「B組に決まってるだろう!? 海賊を出したんだから!」
「ふざけんな! 最初に出した方が負けって決めただろーが!」
「っていうかさ、延々罰ゲーム受けただけじゃん……」

ヒートアップしていた物間と上鳴だったが、拳藤の言葉に我に返るのだった。
どこかしんみりした空気を察してかそうじゃないのか、イブが「でもねでもね、けっこー楽しかったね!」とにこにこするのを見てなんだか力が抜けた。


「……今日はこれで帰るよ」

そう言って物間は力なく立ち上がると「そうだ」と言っていつの間に書いたのか、短冊を笹に括り付けて帰っていった。ご近所づきあいって大変だなとみんなが脱力する中、イブは何をお願い事したんだろうと気になってみると、そこには「君の願い事が叶うといいね」と書いてあった。
君とは誰だろうとイブが不思議に思っていると、葉隠が「イブちゃんのことだよ。何だかんだ優しいところもあるんだね!」と楽しそうに教えてくれたのだった。


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