必殺技!


仮免取得に向けて必殺技を編む中、イブは少々難航していた。
というのも、やりたいイメージはエクトプラズムの協力もあり浮かんだのだが、個性が半減しているせいもあってうまく実現できていないのだった。


「うーん……どうしたらいいんだろう……?」
「マズハ全体ニ広ゲルイメージヲ持ッテヤッテミナサイ」
「全体に広げる……う、う〜ん、えいっ」
「チョット伸ビタナ」
「でもこれじゃまだまだ足りないよ〜!」

イブが現在取り掛かっているのは、遠隔治癒だった。どんな傷も癒せるヒーローになることを掲げているイブは遠くにいても、何人でも一気に治癒できるようにと取り組んでいたのだが、遠隔治癒自体ほとんどやったことがない。試しにやってみたら効果があることがわかって形にしようとしているのだが、如何せん実践できるレベルには達していなかった。


「モット広ク、広ガルイメージヲ持タナケレバナラナイ」
「イメージ……」
「歌ハ好キカ?」
「とってもすき!」
「ジャア歌声ニ治癒ヲノセルイメージでヤッテミナサイ」
「はーい!」

そうして広がった歌声に思わずみんな手を止めた。まるでそれは天使の歌声だった。イブのソプラノが音として流れていく。歌詞のない歌……ヴォカリーズ。温かいものが身体に染みていくように、なんだか安心感を与えてくれる……揺り籠の中にいるような心地だった。
そのイメージはよかったようで、必殺技を生み出す過程で傷ついたみんなの傷を癒すことに成功していた。


「ブ、ブラボー! ブラァーボ!!」
「すっげイブまじ天使っぽかったぞ!」
「ほんと〜!? イブね、お歌は好きなんだ〜!」
「ねえ! イブ他にも歌えたりする!? 今度ウチと合わせない!? あまりにも逸材だわ!!」
「いつざい?」
「とてもすごい才能ということですわ! イブさん本当に素晴らしかったです!」
「ふぉお……! イブ逸材! わーいっ!」

羽があったら間違いなく飛び回っていただろうイブのはしゃぎように微笑ましいものを見る目で見守っていた。
イブの歌には不思議な力があったようで、普通に治癒するより治癒の精度が上がっていたことにエクトプラズムたちは気づいたのだった。


「具現化ノ一種カモナ。コレデコツハ掴メタハズダ。コノ要領デ他モヤッテミナサイ」
「はーいっ!」

そうしてイブはこの要領で唯一の攻撃手段である光の光線を複数撃つことにも成功した。依然として威力や範囲はお察しであったが、きっと羽が生えてきたら今よりもっとパワーアップするだろう。
その時の為にも必殺技を形にしていこうと意欲を増すのだった。







「パワーローダーせんせー、いる?」
「いるよ。お入り」
「せんせーあのね! イブサポートアイテムがほしくて――」
「そういうことなら私にお任せを!!」
「おおっ、あ、イブしってる! いーだくんと体育祭で当たった人だー!」
「いーだ? はて……ああ、さっき来たあの人ですね!」

パワーローダーが止めるのもお構いなしに発目はイブの要望を聞く前からあれやこれやと押し付けて、性能を見てくる。イブも最初は色々でてくるそれに目を輝かせていたが、次第に死んだ目になってきた。なにせ癖が強い。才能は瞠るものがあるが試作品というだけあって事故がつきものだった。
泣きべそをかきそうになったところでパワーローダーが救出してくれた。


「まったく、お前たちは相性がいいのか悪いのか……発目、まずはクライアントの意見を聞く! これ忘れない!」
「そうでした! ごめんなさいっ!」
「い、いいよいいよ……イブも色々試させてもらったし……あのね、イブ広い範囲で色々やりたくて……地図? みたいなのがほしいんだよねぇ。みんなの場所とかわかると嬉しいな」
「ふむふむなるほど! では少々お待ちください! 完璧にご用意してみせます!」
「わー! ありがとう! 楽しみにしてるねー!」

そうして早くも数時間後に出来上がったそれはイブの要望を120%叶えたものだった。
生体反応を反映し、常に自分を中心に10kmの円を展開し表示し続けるといった優れもの。また生体反応に異常が生じている場合点滅してすぐに治癒が必要な状態だと知らせてくれる。
事前に登録している生体反応は色分けすることができ、これで大体の敵と味方の見わけもつく。それになんとこれだけの機能を搭載していながら腕時計のように超小型でデザインもかわいい。本当にイブが欲しかったサポートアイテム以上の出来だった。


「ありがとうめーちゃん! これイブがほしかった以上のやつ!」
「喜んでいただけたようで何よりです! 試験でしたっけ? 頑張ってくださいね!」
「うんうんっ! がんばるー!」

さっそくイブはみんなの生体反応を登録するのだった。
これで仮免試験でみんなをサポートできると息巻いていたとき、B組が交代だと言ってぞろぞろとやってきた。まだ10分あると相澤が抗議すると物間がやはり出っ張ってきた。仮免試験受験者のの約半数が落ちるから清々しくA組みんな落ちろという物間は本当に相変わらずだった。


「ちょーどよかったー!」
「え、ちょ。何かな!? 近いんだけど!?」
「イブね新しいサポートアイテム作ってもらったんだー。これね、登録すると10km? 範囲ならわかるんだって! すごいよねぇ!」
「君聞いてなかった!? 僕たちB組とA組は別会場だよ! そんな風に僕たちの居場所を知ったところで僕たちを落とすことは――」
「? 怪我したときすぐにイブが治せるようにだよ? 痛いのはやだもんねー」
「!? ……きみ……あーもうそうだね、君はいつもそうだ……」
「うん?」
「なんでもないよ……」

物間は片手で顔の半分を覆って盛大なため息を吐いた。
物間の登録が終わるとさっさと他のB組の登録をしに行ったイブに物間は何とも言えない気持ちであった。


戻る top