戦闘訓練するんだって


初めてのヒーロー基礎学はオールマイトによる戦闘訓練だった。
受け取った戦闘服コスチュームを手に更衣室へ向かう。自分だけの戦闘服に胸が躍った。


「わぁーー! イブちゃん背中めっちゃ開いとる!」
「羽があるから要望だしたんだけど……思ったより布なかったね……」
「でもかっわいい! 白いワンピースすごい似合ってる!」
「ケロケロ、ええ。イブちゃんらしいわ」
「えへへありがとう。ちょっと恥ずかしかったけど自信出てきた」

イブのコスチュームは白いワンピースだったのだが、背中がかなり開いており、胸より上の布が一切なかった。ひらひらしたベアトップワンピースのような感じである。レースとフリルがあしらわれたブーツも白く、まさに天使に相応しい仕上がりとなっていた。


「ほほう、これはなかなか……胸元は貧しいが無垢な愛らしさにオイラのリトル峰田が――ぶはっ!」
「こいつにそういうのはダメだぞ。なんつーか犯罪だ」
「? どうしたの? なにかあった?」
「いやちょっと虫がいてな! もう大丈夫だ!」

イブのコスチューム姿をガン見して性欲を隠そうとしない峰田にたまたま気づいた切島が力ずくで止めた。峰田はめげずに他の女子へとターゲットを移していた。とんでもない奴である。







敵組とヒーロー組に二人ずつ分かれての戦闘訓練。敵チームはアジトに核を所持していて、ヒーローチームがそれを処理しようとしているという設定である。
ヒーローチームは制限時間までに敵チームを捕まえるか核を回収すること、敵チームは制限時間まで核兵器を守るかヒーローチームを捕まえることが勝利条件にされていた。
イブが一緒になったのはCチームで峰田と八百万と一緒のチームだった。

そしてまず一組目は緑谷・麗日のヒーローチームと爆豪・飯田の敵チームの対戦だった。


「デクくんかっちゃんとかぁ……意地悪されないといいなぁ」

心配げな表情をするイブの手を蛙吹が握ってくれ、少しだけ落ち着く。
そうして始まった戦闘はものすごく苛烈なものだった。爆豪が執拗に緑谷を狙い、攻撃していく。オールマイトが何かを察して爆豪を止めようとするが聞かず、爆豪がサポートアイテムで爆発的に威力を上げた爆破を繰り出す。まさにそれは爆弾だった。


「ひゃああっ!」
「大丈夫よイブちゃん、大丈夫」
「授業だぞコレ!」
「緑谷少年!!」

あまりの爆発にすっかり怖がってしまったイブを蛙吹が優しく宥めていた。そばにいた八百万が気を遣ってぬいぐるみを創造してイブに差し出した。「気休めにしかなりませんけど、よかったら」「ももちゃん……ありがとう」ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。
イブはヒーローになりたくてここにいるのではない。ただイブが生きていくためにはヒーロー免許をとる必要があっただけなのだ。ヒーローになるためにヒーロー科に入った者との差。その差がこういうとき顕著に出るのをイブは感じていた。

爆豪を止めたがいいと切島が進言する。オールマイトは爆豪の冷静な部分をしっかり聞いていた。そのため次それを撃ったら強制終了だと告げた。
それから爆豪がとった行動は殴り合い。その繊細な動きに推薦入学組の八百万と轟が評価した。戦闘能力において爆豪はセンスの塊だった。リンチにしか見えないその行為にイブはひたすら怯えていた。イブにとって敵とは身近な存在である。それこそチンピラレベルから凶悪犯まで幅広い。危険に晒されることの多かったイブは爆豪によくないものを重ねてしまっていた。


「先生! ヤバそうだってコレ! それにイブの顔色がやべぇ!」
「(天廻少女……いや彼女にも乗り越えてもらわなければ……だが……)双方……中止……」

その瞬間緑谷が動いた。麗日と飯田のいる場所を下から超パワーの拳を振り上げ破壊した。麗日が個性で無重力にした柱をバッドのように振り上げ瓦礫を飛ばし、飯田の隙をついて核ほ確保した。緑谷・麗日の勝利だった。オールマイトのヒーローチームの勝利を叫ぶ声が響いた。


「デクくんとお茶子ちゃんが勝ったの……?」
「ええそうよ。ヒーローチームが勝ったのよ」
「……すごぉいっ!!」

二人が勝ったと聞いたイブがそれはもう喜んだ。だが勝ったはずのヒーローチームがボロボロで負けたはずの敵チームがほぼ無傷だった。
そして講評となり、MVPは飯田だった。不思議がるイブに八百万が丁寧に説明してくれた。その説明はオールマイトも付け加えるものがないほどでまさに完璧だった。
リカバリーガールの下へ運ばれていく緑谷をイブは複雑な表情で見送った。イブには治せる力があるのに、それを使っちゃダメだと言われたのは初めての事だった。オールマイトも内心では治してほしかったが、相澤とリカバリーガールから口酸っぱく言われていたためぐっと堪えたのだった。







「オイラの時代きたぁあああ! 前の八百万に後ろのイブ! 完璧っ完璧だっ!! うひょおおお」
「? イブ後ろにいたらいいの……?」
「いや前にいてくれ是非前に!!」
「峰田さんっ!! イブさんはこちらに。峰田さんの言うことは聞かなくて大丈夫です。私にお任せを!!」
「う、うん。ももちゃん講評でもすごかったもんね。イブあんまり頭よくないからすごいなって思ったんだぁ」
「お褒め頂き光栄ですわ」

峰田と同じチームになったと知った切島がものすごく苦虫を嚙み潰したような顔をして、八百万に「八百万、イブを頼んだぞ」と託していた。八百万も心得たように「お任せを」と答え、実際峰田の毒牙からイブを守ってくれていた。
対戦相手はGチーム。上鳴と耳郎のコンビだった。八百万の創造は万能で扉を鉄の重りで厳重にガードしてくれていた。イブはその機動力を生かし囮となってヒーローチームを攪乱させる役目だったのだが、耳郎が索敵型だったようでひっかかってくれなかった。慌てたイブがなんとか気を引こうと声をかける。


「イブ! とっても悪いよ! とっても悪いからほっといたらいけないと思う……!!」
「(イブおもしろっ)」
「へー! ほっといたらどうなるんだー?」
「え、えっと……ほっとかれたら……寂しくて泣いちゃう!!」
「ぶっっっは!!」

耐えきれず耳郎が思わず吹き出した。上鳴が気まぐれに振り返るとイブがこのままでは何も役に立てないと悲しくなり、本当に泣いていたためぎょっとする。優しいところがあるチャラい上鳴が「ほっといてごめんなあああっ!」とイブに猛ダッシュした。耳郎が「ちょっと上鳴!?」と慌てるが上鳴は聞いちゃいなかった。
上鳴から来てくれたため、イブは八百万がもし出来たらと持たせていた拘束テープを巻いた。


「え!? なにこれもしかしてイブちゃんだました!?」
「だましてはないと思う……? ももちゃんがこれをゴールテープだと思って巻いてあげてほしいって。かみなりくんゴール! やったね!」
「ああ……たしかに終了だわな……」

そしてイブもちゃっかり耳郎にゴールテープを巻かれた。その後耳郎は頑張ったが八百万が上手だった。MVPはもちろん八百万だったが、その八百万から頑張ったと褒めてもらいイブはご機嫌だった。
爆豪への苦手意識が芽生えたものの、みんなすごかった。イブももっと頑張ろうと思えた戦闘訓練であった。


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