ハッピーバースデー!いーだくん!


「へー、みかんも色々あるんだねぇ……」
「ネーブルとか甘夏とかな、多めに買ってるからあとでちょっとおやつに食べようぜ」
「食べる食べるー!」

8月22日、我らが委員長飯田の誕生日である。
日頃お世話になっていることもあり、A組で誕生日パーティーを企画しているのであった。もちろん当の本人である飯田には秘密、サプライズである。
イブも寮生活になったこともあり、日夜爆豪に包丁捌き仕込まれ、なるべくこういうことはやっておけと言われるがまま、よくお菓子を作っている砂藤に手伝い――否、教えを乞うていた。今日もまたその延長で飯田の個性エンジンがオレンジジュースを燃料とすることもあり、オレンジのケーキを作っていたのだった。


「イブ、これを薄切りしてくれるか?」
「薄切り……輪っか?」
「そうそう! このオレンジを薄い輪っかに……できるか?」
「できるー!」
「よし任せたぞー!」
「らじゃ!」

爆豪による反復練習が効いたのか包丁の扱いはなかなかであった。オレンジは切ったことがなかった上に今回はケーキで使うため、珍しく爆豪がイブを見守っていた。手伝う気はまったくなかったが、それでもイブが間違えかけると「ちげぇ、こうやれ」と教えてくれるのであった。


「できた! さとーくんオレンジの輪っかできたよー!」
「お。ありがとな! こっちももう作業は焼けるの待ってからだ。一息つこうぜ。オレンジ食べ比べだ!」
「わーい! オレンジー!」
「それでしたら私がお紅茶を淹れますわ!」
「ももちゃんのおこーちゃ!」
「ありがとな、八百万」

新たに切り分けたオレンジを食べ比べる。どれもとても美味しかった。それに八百万がブレンドしてくれた紅茶がまた合う。ティータイムにほっこりしつつ、ケーキが焼けるまで時間があるのでイブは仮免試験に向けて勉強をすることにし、部屋まで取りに戻ろうとした。







「おや、イブくん。そんなに慌てて何を――」
「いーだくんだ! えっとねイブね、お勉強しようと思ってお部屋にとりに行くところなの!」
「それは感心だな。わからないところがあれば聞いてくれ。是非とも力になろう!」
「ありがとー!」
「ん? イブくん、口元に何か……これはオレンジか?」
「!? いやあのこれはその、なんでもなくてね。おれんじじゃないよ」
「いや、だがこれは確かにオレンジ――」
「おれんじじゃないよ! 絶対絶対ちがうよ!」
「!? そ、そうか……そこまでいうなら……」

イブは大変おバカだったのでオレンジを食べたことがバレたのをケーキを作ってることまでバレると早とちりし、食い気味に否定した。飯田としてもどこをどうみてもオレンジの破片だったが、イブが絶対違うと否定するものだからそういうものと思うことにした。優しいことである。
足早にイブは「それじゃ!」と走り去っていく。それにまた「こら! 走るんじゃない!」と声を上げたが、飯田はなんとも言えない違和感を感じていた。最近みんな自分の前で言い淀むことが増えた、もしかして自分は嫌われているのだろうかとすら悩んでいるなど誰も知らなかった。







「よし、こんなもんだな。イブ、生クリーム絞ってみるか?」
「いいのー!?」
「ああ。ちょっと重いかもだが気をつけろよ」
「気をつけるー」

砂藤が角を立たせた生クリームを絞り袋に入れてイブに持たせる。簡単な絞り方を教えようとイブの手の上から添えて教えてくれた。イブもちょっと練習するとコツを掴んだのか、砂藤が生クリームをコーティングしたケーキの上に指示通り生クリームを絞っていった。


「よし、次はここ……そう、ここな。んでその次はこっち……いいぞ、いい感じだ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。フルーツ飾ったら綺麗に映えるぞ」
「ほほぉ……!」

そうして絞り終えると飾り用のオレンジを飾っていく。砂藤の言った通り映えるケーキにイブが感嘆の声を上げた。あとはパーティの時間になるまで冷蔵庫で冷やして、残りの飾りつけをすることになった。
なお、イブたちがケーキをデコレーションしている間に飯田がこちらに来ようとしていたが、それを爆豪が防いでいたのであった。







「みんな……!?」
「飯田くん、お誕生日おめでとう〜!!」

一斉にクラッカーを鳴らす。麗日が悲鳴を上げて飯田を呼び出し、暗闇だった会場に明かりをつけてバルーンや紙で作った花に彩り鮮やかに飾られた談話スペースにでかでかと飯田くんお誕生日おめでとうと書いてある。
本人はすっかり自分の誕生日ということを忘れていたようで、ようやくみんなの挙動不審の訳を知ったのだった。
砂藤の早くメインを呼んでくれとの声かけにはっとして、八百万の掛け声に合わせてバースデーソングを歌いだす。歌声に合わせて砂藤がケーキを持ってきた。チョコプレートには『お誕生日おめでとう! いつもありがとう委員長 A組一同』と書かれてあった。


「好き嫌いもアレルギーもなくてよかったぜ。100パーセントオレンジジュースをたっぷり使った、特製オレンジケーキ飯田スペシャルだ」
「イブもたくさん手伝ったんだよー!」
「……こんな立派なものを……ありがとう」
「飯田くん、早く蝋燭消さんと!」
「吹く消すときに心の中でお願いをするのよ、飯田ちゃん」
「願いごと……俺はこれからもA組委員長として頑張る所存だ!」

そう言って飯田は蝋燭を吹き消した。願いごとというよりそれは宣言である。思わず蛙吹と切島がつっこむが、飯田はこれでいいのだと胸を張った。晴れやかな飯田の表情にみんなも笑顔になっていた。

余談だが眠いと言って参加せず寝てしまった爆豪にイブが「昨日のかっちゃんの分のケーキだよー!」と言って持ってくると「お前が食え」といつものごとくイブのお腹の中に収まるのであった。大変美味だった。


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