天廻イブ:ライジング


「私が手折り気づかせよう。帰属する場に相応しい挙止。それが品位であると」
「何なんだこの人は!!」
「うるせえ奴だブッ殺す」
「イブもがんばる!!」
「だー待て試験だぞ忘れんなよ」

上鳴が飛ばしたポインターは当たらなかった。先に上鳴を丸めようと肉倉が動こうとしたところ、爆豪が「俺を無視すんな!」と爆破するが、下から潜り込まされていた肉に気付かず、飲まれてしまう。文字通り触れたら終わりである。爆豪が腕の汗をためたタンクを上鳴に投げ飛ばしたが、爆豪も切島と同じく肉の塊にされたのだった。


「かっ、かっちゃあああんっ!」
「天廻イブ、貴様も指導対象だ。貴様が爆豪を異様に慕っているのは見てわかる。神野で攫われた者同士絆も深いのだろう。だがしかし、貴様の甘ったれ具合、ましてや爆豪を慕っているようでは英雄などほど遠い! それを心身に叩き込んでやろう!」
「イブ! 逃げろ!!」

イブは思い出していた。自分が弱かったばかりに爆豪を悪く言われた体育祭。相澤は言った。イブがそうである限り何も変わらないと。
イブにとって爆豪はきっと多分、おかしいかもしれないけど父親みたいなものだ。いつもイブを成長させてくれたのは爆豪で、イブを叱るのも、可能性を信じてくれているのも爆豪だ。爆豪を慕うことが間違いなはずがないのだ。だってイブが戦えるようになったのは、羽を落とされて個性が上手く使えなくなっても諦めないでいれたのは……いつだって爆豪がそうあるように背中を見せてくれていたからだ。
イブは怒っていた。物凄く怒っていた。イブの目前に肉倉の肉が迫っていた。


聖なる光槍ホーリーレイ!!!」
「羽を無くした天使など、もはや天使にあらず。貴様が羽を落としたのもまた天の思し召し……!!」
「あんたさっきから爆豪にもイブにも大概中傷酷いんだよ……!! てかやめてくんない、うちの末っ子虐めんの。甘ったれに見えるかもしれねーけど……誰より仲間思いで勇気だってある奴なんだよ!!」
「それがどうした。思うだけでは如何にもならん。まして今の彼女は願い事すらできない状況だろう。勝敗は決した。貴様らは淘汰されて然るべし……!!」
「そうだね……思うだけじゃ今のイブはどうにもできない。でも、だから……だからこそ、ちゃんとやるんだ……!! かっちゃんならそうする!! だってそんなのはできないことの言い訳にもならないからっ!!」
「また爆豪――なんだ?」
「プルスウルトラ……!! 聖なる光槍ホーリーレイ・マーブル!!!」

イブの光の槍がさらに威力と数を増して肉倉を襲う。肉にされた者たちにも痛覚があるというが、イブの光の槍は肉倉にだけダメージを通していた。強い意志の力。爆豪の背中をずっと見ていた。どうあるべきか、どうするべきかずっと爆豪が教えてくれた。
プルスウルトラ、さらに向こうへ。出来なかったことを今ここでできるように。今までずっと救けてくれた、守ってくれた爆豪と切島を今度はイブが助けるのだ。


「っ……だが手数では負けんっ!」
「イブがかっちゃんたち助けるっ、かみなりくんも守るんだからあああ!!」
「イブ……!!」

イブはその手数と速さに職場体験で見たホークスの早業を思い出した。ホークスの方がずっと速かった。もし、イブにホークスの羽があったなら。きっとみんなを助けて守れる。イブは願う。強くイメージする。ホークスの羽。イブにあった羽よりももっと強くて丈夫な羽・・・・・・・・・・


「ぬうううプルスウルトラァァアアア!!!」

その瞬間、イブが眩しく光り輝いた。すさまじい光量に目も開けられない。そうして光が止むとイブに……以前よりもっと強くて丈夫な羽……正しくホークスと同じ、否白い羽が生えていた。


「うおおおお!! よかったなぁイブ!! よかったなああああ!!」
「ばかな……!! 再誕したというのか!!?」
「……ホークスと同じ……これならイブむてき!!!」

そこからはすさまじかった。イブは羽を得たことで本来の個性……否、以前より強い力を発揮し肉倉を追い詰めていった。その隙に上鳴が爆豪が託した簡易手榴弾を投げる。爆破で肉倉がいいところによろけたのを上鳴は見逃さなかった。外したポインターが役に立つ。ポインターがあれば上鳴の放電は一直線上。肉倉にピンポイントに電撃を浴びせた。


「爆豪、ソヤで下水道みてーな奴だけど、割とマジメにヒーローやろうとしてますよ。とっさに手榴弾くれたのも打開のための冷静な判断じゃないスか? それに御覧の通り、うちの末っ子を誰より面倒見てんの爆豪だったりするんですよ。イブ、子は親を見て育つってやつ体現してんじゃんね。今やA組うちの勝利の女神様ってね。それに切島だって……友だちの為に敵地乗り込むようなバカがつくくらい良い奴なんスよ。断片的な情報だけで知った気になって……こいつらをディスってんじゃねえよ!!」
「立場を自覚しろという話だ馬鹿者が!!!」

その瞬間、上鳴の強力な電撃で蓄積ダメージが許容量を上回ったのか爆豪と切島が元に戻って肉倉に重い一撃を浴びせた。ダメージ次第で解除される個性。どおりで遠距離攻撃ばかりだったはずである。


「ありがとな上鳴、イブ」
「遅んだよアホ面!! つか誰が親だ誰が!!」
「わー! かっちゃんきりしまくん元にもどったー!!」
「ひでえな!! やっぱディスられても仕方ねえわおまえ! つーか後ろ!! 丸くこねられたのはおまえらだけじゃねーぞ!」
「知ってんよ」

その後乱戦の中、しっかり全員を倒し無事にイブたちは通過を果たす。
控室までの道すがら、ホークスとよく似た白い羽を自慢げにパタパタ広げるイブに切島と上鳴がよかったな、立派だぞと笑った。爆豪も言葉少なに「前よりは丈夫で強そうだな」と口にした。本当にA組の女神はみんなのいうことをよく聞くのだった。


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